5 応援できるはずのない悩み
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岬は後ろ髪をたっぷりと引かれるようにして、改札をくぐって行った。すでに夜の七時を越えていて、あたりは冬の暗闇に包まれている。
「しかしまぁ、今日は一段と元気だったね、岬は」楓は自転車のスタンドを起こして言う。
「楓、嬉しそうだったぞ」僕は茶化して言う。
「『かわいいだろ俺の彼女だぞ』、ぐらい言えんのかお前は」楓がやり返す。
僕はとっさの反論につかえ、口ごもった。楓は噴き出し、しばらく笑っていた。
僕らは学校の方面に戻り、校門を通り過ぎていつもの河川敷の土手を自転車で走った。
「まさか智生が岬を落とせるとはね」楓が言う。
「自分でも信じられない」僕は言う。信じられない。
「でも、なんでそんなに二人はよそよそしいんだ?」
「よそよそしいか?」
「何ていうか、付き合う前とそんなに立ち位置が変わらないように見える」
「付き合うってどういう事が、よく分からないんだ」
僕は今まで誰とも付き合ったことはないし、ましてや恋人同士の演技なんてやったこともない。分からなくて当然だった。
「告白したときに、岬の悩み事は別にあったって言ったよな。悩み事、聞いてやってるか?」
「あ、いや、聞いていないね」僕は何と言ってごまかすべきかとっさに思いつかなかった。
楓は穏やかに微笑んで言う。
「付き合いたてって距離感が分からないものなのかもな。でも悩みを聞いてサポートしてやれよ。それをきっかけに親しくなれるかもしれないだろ。岬を応援してやるんだよ」
「ああ今度聞いてみるよ」僕は尻すぼみに言う。応援できるわけがないんだよなぁ、と思う。
楓はそれ以上何も言わなかった。僕は小学校時代の大雪について話を切り替えて、岬の件はうやむやにした。
楓はいつ、僕と岬が恋人関係を演じていると気付くだろうか。岬の悩みは楓に対する恋愛感情だ。楓がそれに気付いた時、僕らの演技も嘘と見抜かれるだろう。その後で楓がどう行動するかは、僕にも岬にも全くの未知数だった。




