4 たとえ壁があり、叶うことのない思いがあったとしても
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放課後になると、楓はほとんどいつもバイトで先に帰った。僕と岬は方向が校門を出た瞬間から方面が逆だから、帰りは三人とも別々だった。楓が珍しくバイトが休みの時には、岬の方面へ三人で歩き、いつも岬が乗る駅の近くで雑談をした。駅前の広場や飲食店はガラの悪い連中が溜まっていたから、僕たちはコンビニで肉まんやフライドポテトを買って、あたりをぐるぐる歩きながら話をした。
「二人が付き合ってくれて嬉しいよ」楓は言う。
「照れくさいね」岬は頬を緩ませて自分の髪を触る。僕は何も言えない。横目で岬の仕草を見て、かわいいなと思うだけだ。
楓は長い指を擦り合わせて息を吐きかける。寒いのに手袋もなしだった。冬に冷たいのは当然という仕草をしつつ、楓は言う。
「もう付き合って1か月経つっけ。二人でどこかにデートに行ったりした?」
僕と岬は互いに顔を見合わせた。目配せだけで場所まで決められはしない。お互いに「えーっと」と言うのが精いっぱいだった。
楓は沈黙の間に示し合せる僕らの様子を、さもほほえましそうに目を細めて見ていたが、あまりに沈黙が長いので、段々不安げな表情になってきた。
「二人は、付き合ってるんだよね?」楓は冗談めかして言った。
「付き合ってるよ」僕は言う。
「付き合ってる付き合ってる」岬も言う。
「ま、これからだよな」楓は取り持つようにうなずいて言った。
駅の周りを歩いている間じゅう、岬はずっとしゃべり続けた。放課後に久しぶりに三人でいられる事が嬉しかったのだと思う。三人でいる時は、いつも岬と楓が中心になって話をした。僕と岬がかりそめの関係になる前からそうだったし、うその関係を結ぶようになってからは、岬は前よりも楓に好意を持って話をするようになった。
「ね、楓くん、楓くん」岬は事あるごとに楓の名前を呼びたがる。
「分かったって」楓もまんざらでなさそうに応じる。元々は僕と楓で岬のファンクラブみたいなものを結成していたから、楓も内心は嬉しいだろう。僕は二人の様子を見守る。岬が恋する乙女全開でアピールするのは見ていてかわいかったし、楓にしても岬に言い寄られて迷惑なはずがない。目の前の光景として、女友達ふたりがじゃれ合うのは見ていて心が和んだ。たとえそこに性別の壁があり、岬と僕の叶う事のない思いがあったとしても。
「待ってよ、岬。ここは智生にも聞いてみよう?な、智生」楓が振り返って僕に言う。
「いいの、智生くんとは二人の時にいくらでも話すから」岬が間髪入れずに言う。
僕は何か言いかけて、言葉を飲み込む。二人はまたじゃれあいの世界に戻る。




