3 奇妙な三角形の誕生
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岬は楓を好きになってしまった。同性を好きになるという事が、どれほどの悩みなのか僕には計り知れない。岬は不安をいろんな言葉に変えて僕にぶつけてきた。僕は岬の事が好きだった。岬の悩みならできる限り力になりたいと思う。けれどその悩みは、解決したら僕から岬が遠ざかる種類のものだった。
岬が朝から不安を僕にぶつけるものだから、僕はつい二か月前の失敗が頭に過ぎっていた。数学の授業なんて耳に入らず、頭の中でリフレインが映し出される。
僕は岬に相談事があると言って呼び出された。待ち合わせの野球グラウンドの裏には十一月の冷たい風が吹いていた。
「僕も好きです、付き合おう」そう言って僕は岬に告白した。
岬の返事は沈黙だった。あの顔が真っ青になった瞬間を、僕は生涯忘れないだろう。「違うのか」と言った僕の、小さく情けない声も。
「どうして。違うよ」岬は僕の手を両手で取った。「楓くんに言えないから、智生くんに相談しようと思ったの。だって気軽に人に相談できるような話じゃないし、信頼してたのに」
相談とは、岬が楓を好きになってしまったという事だった。僕は勘違いをして岬から告白されるものと頭から掛かっていた。さらに悪い事に、事前に岬から呼び出しがあったと楓に報告してしまっていた。僕と岬はつまらない言い争いをして、岬は僕に背を向けて去って行った。僕の手首には、岬が訴える時に爪を立てた跡が残っていた。
気が付くと数学の授業は終わっていた。授業の内容はまるで追っていなかったが、どうせ聞いていてもほとんど分からないのだ。開いてもいないノートを机の引き出しに押し込む。
僕らは三人でいつも昼食を食べ、休みは集まって出かけたりする間柄だった。他では得難い、心が通じる気持ちの良い共同体だった。告白が失敗したあの日、この関係も終わりかと観念しかけたが、岬の発案と僕の機転により三人の関係は維持される事になる。それこそが、「楓の前では付き合っているフリをする」というプランだった。岬は楓に思いを寄せ続けながら、そして僕は岬に思いを募らせながら、かりそめの恋人関係を楓の前で演じる。楓だけが何も知らない。僕と岬はその日のうちに仲直りし、奇妙な三角関係を形成しながらも共同体は維持された。楓に対する罪悪感はもちろんある。けれど、僕も岬も恋心に夢中になっていたし、今だってそれは続いている。




