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2 からかわれると安心する、しんどい人たち



 一月の最初の登校日、高校へと続く河川敷の土手を自転車で走る。三が日に降り続いた雪が路面の隅に残っている。ペダルを漕ぐ足は軽かった。ふたりの女友達の顔を早く見たい。

 最初に顔を合わせたのは楓だった。楓は自転車置き場で鍵をおろし、顔を上げて僕と目が合った。「おう」と僕が言うと、「ああ」と楓が微笑んで応じた。中性的な顔立ち、低めの声、起伏の少ない胸と広い肩幅。身長は一七〇センチの僕と同じくらいある。僕らは下の名前を呼び捨てにして呼び合う。楓は僕を「智生」と呼ぶ。

 僕らは寒さについて文句まじりの冗談を交わすと、元旦にもう一人の女友達と三人で出かけた伊勢神宮のお参りの過酷さについてやり取りをした。

「結局お賽銭までは辿り着かなかったものな、寒すぎて、あと腹減りすぎて」僕が言う。

「あれは無謀だよ。駅からずっと行列で、雪も降るし飲食店はぜんぶ埋まってる。お年寄りもずいぶん多く参拝してたけど、結構危ない気がするね」楓が言う。

「伊勢神宮でぽっくりいけたら本望なんじゃないか」

「新年早々、縁起でもないな」

「初詣と葬式で一石二鳥」

「やめなさいって。そんな事言ってるから智生は大凶引くんだよ」

 僕と楓が笑い合っていると、校門を通った岬がこちらを見つけ、遠くからこちらに向かって小走りするのが見えた。

「相変わらず、岬はかわいいね」岬を遠目に、楓が言う。

「まぁ」僕が目を逸らして言う。

「なんだよ。私たちは岬のファンだったじゃないか。彼氏になって余裕ができた?」

「そんなんじゃないよ」僕は足元の雪を爪先で引き延ばす。かつて僕と楓は二人になればいつも岬のかわいいポイントについて語り合っていた。僕らはほとんど岬について語り合って仲良くなったようなものだ。

 楓は肘で僕の二の腕の辺りを小突いた。

「照れるなって。未だに智生が岬に付き合えたのが不思議だけど、私は二人ののろけだって聞きたいくらいなんだ。からかいがいのある所を見せてくれよ」

 僕は曖昧に頷いて、近づいてきた岬に向け顔を上げた。


 挨拶をする岬は満面の笑みで、僕らに何度もおはようを言った。走ってきた体の火照りと、岬が発するまぶしい雰囲気で、肩の辺りから見えないオーラがほとばしってる様に感じる。目鼻立ちがはっきりしていて、どこか寒い北国の美人を連想させる顔立ちは、冬の朝によく映える。僕や楓よりは頭一つ分くらい背が低い。自然なカーブの掛かった髪が、息を弾ませる胸に合わせて揺れている。

「あー、また二人で登校してきて」岬は冗談交じりにふてくされる。

「今そこで会ったばかりだよ」楓が言う。

「本当?実は隠れて付き合ってない?」

「ないよ、ないない」僕は言う。楓も微笑んで手を左右に振る。「このやりとり、絶対一日に一回やらされてる気がするんだけど」

「私、二人が『ないない』ってやってるの見るの好きなの」岬はいたずらそうに笑う。「楽しそうに話してたけど、何の話だったの?」

「智生が岬にのろけている話を嬉しそうに話してたんだ」楓が言う。

「違うだろ、おい」僕はうろたえて言う。

「ふうん?」岬は僕を、一瞬だけ優しく睨んだ。


 教室に向かう途中で、楓はトイレに行くと言って僕と岬から離れた。楓はときどきこうやって僕らを二人きりにした。岬は顔を近づけて小声で話し掛けてくる。

「ね、さっきの話、ほんとう?のろけ話がどうのって」

「本気にしないでよ。楓はからかってるだけなんだから」僕は言う。

「じゃあ何の話?」

「伊勢神宮で初詣と葬式を一石二鳥したら、おみくじで大凶引くねって話」

「わけわかんない」岬は不満げながらも笑みを漏らす。「へんなひと」

 僕はひとつ溜息をついて、言う。

「安心してよ。楓がからかうってことは、僕らが付き合ってるのを信じてる証拠さ。うまく振舞えてる」

 岬はうなずきつつも、表情を曇らせる。

「智生くん、何度でも言うけど、私の心は楓くんに向いているの」

「分かってる。でもあんまり言わないでくれ」

「ごめんね」岬は困った顔で微笑む。「しんどいね、私たち」

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