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1 ふたりが消えたあとに残ったもの



 初めてのキスをした二月の夕方、僕は父の本棚を片っ端から漁っていた。父は夜遅くにしか帰ってこないし、母は夕飯の買い出しに出掛けている。窓の外は午後六時にしてすでに暗い。部屋の明かりを点けて、背表紙を指でなぞっていった。今は何もしないでいるともどかしく、何かしようとすると集中できない。昔から混乱する出来事が起きると、どうしてか父親の書棚を探してしまう。

 本棚の一角にCDが並んでいる。「Love is a battlefield」という文字が印刷されたCDを見つけ、何気なく手に取った。ジャケットには宇宙人がキスしているような中学生の落書きレベルの絵が描かれている。自室に持ちかえってノートパソコンに挿入して再生してみると、実に二曲目のタイトルは「my first kiss」だった。激しくて短い曲だ。野暮ったいボーカルで、英語詞で何を言っているかは分からなかったけれど、聞いてるうちに気持ちが外に溢れていく感じがした。曲が終わるともう一度巻き戻して、また終わるとリピート再生に切り替えた。心の赴くままに曲に合わせて体を揺らしてると、もう何も考える必要がないと言う気がしてくる。二月なのに体は熱く、汗まみれになった。十何回目かで母親が玄関の戸を開ける音がして、僕はそっとプレイヤーの停止ボタンを押した。ネットで情報を調べると、僕が産まれた年に発売されたCDのようだ。いろんな偶然が重なりすぎている。気分が高揚してしょうがない。もう一度再生ボタンを押して椅子から立ち上がった。


 スマートフォンで「my first kiss」を購入して、朝と夕方の通学路で繰り返し聞いた。イヤホンを耳に挿して、山おろしが吹き下ろす通学路の土手を自転車で走った。サビが来ると何度も前輪を浮かせて、地面にタイヤを弾ませながら走った。二月の土手はひどく冷たい風が吹いたけれど、曲を聞いて自転車を激しく漕いでいると、冷えた外気の中で自分の周りに熱いオーラが包んでいるような気がした。


 僕にはふたりの女友達がいる。僕が初めてのキスをした三日後、二人は学校から姿を消した。僕には「my first kiss」だけが残った。

 きっかけは何だったのか、夜が来るたび考える。奇妙な三角関係が始まったのは二ヶ月ほど前、冬休みの前後のことだ。



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