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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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97.王姫セージュ

 コーリマ王国現国王、オウイン・ゴート陛下の第1王女セージュ。

 この世界では1、2を争うレベルの権力者である王姫様は、アオイさんに堅苦しくするなー、と駄々をこねる王女様でした。まる。

 って、いやいやいや。


「……こ、これはセージュ王女殿下。ようこそお越しくださいまして……」

「よい。私が勝手に来ただけだからな、気にするな」


 ほら見ろ、領主さんだって頭と腰が低くなってる。マジでこの人は、ものすごくえらい人らしい。たった今知ったところである俺にとっちゃ、かっこ良くて美人なお姉さんなんだけどな。部分鎧の下に着ている、赤メインのドレスもかっこいいし。

 でもその王姫様は、どこかおっさんじみた豪快な笑顔を見せながら領主さんに答えてみせた。


「無理に手伝わせた私も悪かったと思ったのでな、送ってきたまでだ。1日2日滞在したいが、構わんな?」

「は、はい。急ぎお宿の手配を」

「かまわん。ユウゼの良い宿は、金を持つ商人や貴族に使わせてやれ。傭兵部隊の宿舎に部屋が空いておれば、そこを使わせてもらうつもりだ」


 えー。

 傭兵部隊の宿舎って、うちかよ。アオイさんが俺の横でため息ついてるぞ。カイルさんは……あれ、無言のままだ。何というか、無表情。それでもイケメンはイケメンだけどな。


「……もしかしなくても、言い出したら聞かないタイプですか。彼女」

「よく分かったわね」


 やっぱりかー。いやしかし、うちの宿舎って王女様泊まるような部屋ないぞ? いいのか、それ。


「で、ですが」

「そもそも、ああいった豪奢な部屋は私には合わんのだ。此度は私の勝手で来ているのだから、部屋も勝手にさせてもらう。アオイ、頼んだぞ」

「それはかまいませんが、セージュ殿下からのお申し出なのですから文句はなしですよ?」

「壁と屋根と寝具があれば十分だ。ああ、領主殿。お疲れだったな、後は好きにさせてもらうぞ」

「しょ、承知いたしました。では、わしはこれで」


 あっさり領主さんをはねのけて、アオイさんに面倒ぶつけてしまえる辺りはさすが王女様っていうかね。

 しかし、壁と屋根と寝具か。いや、そりゃ確かに重要だけどさ。

 ……あ、そうか。ついこないだまで砦攻めてたんだから、屋根はともかく壁はなかったのか、もしかして。多分、テントみたいなの使ってただろうしなあ。そりゃ、普通に寝たいか。納得。

 まあ、文句言ってきたらだから言っただろう、って反撃は許されると思う。いくら他所の国の王女様でも、この街はあんたの国じゃないんだから。……って言い切れるのは、俺くらいのもんかね、もしかして。


「………………もう、よろしいですか。セージュ殿下」


 王姫様が出てきてからここまでじっと無言だったカイルさんが、やっと口を開いた。あ、でも何か、ちょっと硬い感じかな。緊張してる……ってのもおかしいよな、砦攻めるのは一緒にやってたんだから。


「ん? 何だ、待っていてくれたのか? カイル」

「殿下のわがままはよく存じあげておりますので」

「……私は私のやりたいようにやっているだけなんだがな」


 それをわがままって言うんじゃねえかな、王姫様。いや、口に出したりはしないけど。

 というか何だろう。カイルさん、あんまり王姫様と話したくないって感じ。いや、困ってるのかな。

 それから王姫様、俺のことガン見しないでくれるかなあ。美人にガン見されるとその、何だ、照れるし困る。いや、彼女は俺の中身が男だってのは知らないはずだから、何で困るかと聞かれてもやっぱり困るんだけど。


「カイル。新しい魔術師というのは彼女か?」

「はい」

「そうか……なるほどなあ」


 カイルさんの一言だけの返事に、王姫様は満足気に頷いた。そうか、俺の話向こうでしてたんだろうな。新しい魔術師が来ましたとか、白い蛇がくっついてますとか。でも、何がなるほどなんだろう。

 それはともかく、王姫様はニコニコ笑いながら俺を見て、尋ねてきた。


「お前、名は何と言う?」

「スメラギ・ジョウです」

「ジョウ、か。弟はちゃんと長をやれておるか? お前なら私のことはさほど気にせずに、意見できるであろう?」


 ……はい?


「弟?」

「……殿下。まだ伝えておりません」

「おや、そこからだったか」


 やっぱり困った顔だったカイルさんの言葉に、からからと笑う王姫様。て、これはもしかしてもしかするパターンか。そういやこの2人、何となく似てるな。


「カイルは私の弟だ。母親が違っていてな、これが今名乗っているのは母親の姓だ」

「へ、へえ……」


 そうか、タチバナってカイルさんのお母さんの苗字だったんだ。

 いや違う、そこじゃないんだ。王姫様の弟っていうことはつまり、だ。


「……ということはカイルさん、王子様だったんですか」

「昔の話だ」


 王姫様の上機嫌な顔とは対称的に、カイルさんはいささか不機嫌な顔をしてぷいと横向いた。

 くそ、そういうことかよこのイケメン。美形で剣の腕もあって性格ちょっと残念だけどまあ面倒見はいいし、それで王家の生まれって最高じゃねえか。この世界の神様は、どんだけカイルさん贔屓してんだよ。カイルさん自身は、どうも王家っての嫌っぽいけどさ。だから苗字も、オウインじゃなくてタチバナなんだろうし。

 ん、待てよ。カイルさんって確か、前にコーリマからスカウト来てるって話、なかったっけ。


「もしかして、弟さんだから国に帰ってきてほしいとか、そういうことなんですか?」

「ん?」


 ついぽろっと口にしてしまった言葉に、王姫様はすぐ反応した。ちらりと向けた視線の先は俺でもカイルさんでもなくて、アオイさん。


「アオイ?」

「隊長が嫌がってらっしゃるのですから、いい加減にしてほしいなーとポロッと漏らしたことならあった気がしますが。後はハクヨウ辺りが同じことを言っていたかもしれませんねえ」


 しれっとした顔で、アオイさんはそう答えた。俺が聞いたのは確かハクヨウさんだった気がするけど、まああの辺りは皆事情知ってて、それでぽろぽろ言ってたのかもな。


「……ということはカイル、帰ってくる気は」

「全くありません」


 とはいえカイルさんも結構頑なみたいで、こればっかりはどうしようもないかもな。いくら、大国の王女様が相手でも。いや姉だけど。

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