94.報告
とりあえず。人間は朝飯後回しでもいいか、と思って伝書蛇用携帯食の瓶詰めを出してくる。お皿に出して、タケダくんとカンダくんにあげた。
「お前らが飯食ったらすぐアオイさんとこ行くから。急ぎの用事だろうし」
「しゃー」
『うん、はやくおてがみみせてあげてって』
「だろうな。俺が着替えてる間に食っちまえ」
『はーい。いただきまーす』
「しゃあ」
ラセンさんのしつけが良いんだろうなあ。よほどお腹すいてただろうにカンダくん、俺が良いって言うまで口つけなかったもん。
それはさておいて、急いで着替えを済ませる。さすがにこれだけ女やってると、着替えも手慣れたもんだ。下着もちゃっちゃと着けられるよ、とほほ。
『ごちそうさまでしたー』
「しゃー」
「はーい。口拭いたほうがいいな、ちょっと我慢しろよ」
布巾を水で濡らして、2匹の口元を拭いてやる。んー、と目を閉じて我慢するのって、人間の子供でも同じなのかなあ。いや、もう慣れたしな、こいつらの存在。チョウシチロウはさすがに例外だけどさ。
で、蛇たちを肩に乗せて文の筒持って俺は、隊長室を訪ねた。アオイさんがいるならここのはずなんで、扉をノックして呼んでみる。
「アオイさん、いますかー」
「誰だ?」
うん、アオイさんの声で間違いない。やっぱりいたなあ、と安心して名乗った。
「スメラギ・ジョウです。ちょっと急ぎの用件で」
「いいわ。入って」
「失礼します」
許可が出たので、扉を開けて中に入る。アオイさんは……あー、もしかして彼女、朝飯まだかもしんねえ。何となく眠たそうな顔してるから、徹夜なり早起きなりしてお仕事してたみたいだ。机の上とか、書類いろいろ散らばってるもん。
それでもアオイさんは、精一杯キリッとした顔で俺に尋ねてきた。
「どうしたの? この時間だと、朝食もまだでしょう」
「さすがに、飯より先にした方がいい用事なんで。カンダくん」
「しゃー」
「あら」
俺に呼ばれて肩の上で息吐いた薄緑の伝書蛇に、アオイさんの目が一瞬丸くなった。いやまあ、白じゃなくて驚いたんだろうなあ。反対側の肩にいるんだけどな、タケダくん。
「うちのタケダくんとこに来ちゃったようなんです。多分ラセンさんからだと思うんですが、文の筒持ってきました」
「そうだったの? ありがとう。朝食おごるわ、蛇たちの分も」
「あー、蛇たちには食わせました。タケダくんはともかく、カンダくんはお腹すいてたようなんで」
「でしょうねえ」
筒を手渡しながら、話を交わす。そりゃまあ、砦からここまで1匹で一所懸命飛んできたんだから、お腹すくのも当たり前なわけで。先に食わせるのも、それはそれで当たり前なんじゃないかな。
で、手渡された筒の蓋開けて中から文を取り出して……それを開いて読んだ、アオイさんの顔色が微妙に変化した。あんまりよくない方に。
「……あら」
「どうしました?」
「……隊長たち、戻りが遅くなりそうね」
説明は食堂で、ということになった。ちょうど朝飯で来てる連中も多いだろうし、良いんじゃねえかな。
あ、朝食はオムライス定食にした。あるんだよ、似たような感じの料理が。アオイさんがおごってくれる、と言ってくれたけど、そうそう食欲に変化があるわけじゃないんだよな。あんまり高いものもねえし。
それはともかく。もぐもぐ飯を食ってる連中の真ん中で、アオイさんの説明は始まった。グレンさんやノゾムくんたちも聞き耳を立ててるので、ついでに聞いてもらおう。
「まず。アキラさんの言った通り、黒の魔女とでも言うべき魔術師がいたのは間違いないわ。潜入したムラクモが、色ボケしたコーリマ兵に襲われたそうだから」
「襲われたって……」
「……分かるでしょ、相手がどうなったか」
アオイさんのため息混じりの答えに、周囲の野郎どもが一斉にぶるりと身体を震わせた。いや、俺だって想像ついたから怖い怖い。
ムラクモの得意な攻撃はあれだ、男の特定部位攻撃。その後特殊な縛り方でもして、持ち帰ったんだろうな。
っていうか、どういう確認方法だよとは一瞬思ったんだけど。けど、男がぶち当たったらもれなくえらいというかエロいことになってそうなんで、女でかつ戦闘能力があって素早いムラクモが行くのが一番安全だったんだろうな。
「黒の魔女ってあれか、男から生気吸い取るってやつ」
「そうですね。お伽話で読んだことありますけど、実在してたんですねえ」
グレンさんがふるふると首を振りながら、ノゾムくんに確認する。一応アキラさんから聞いた話は皆に伝えてあるんだけど、実際のところ実在してるかどうかなんてのはあの人しか知らなかったわけだしなあ。
「ムラクモが連れ帰った兵士から聞き出したんだけど、外見年齢自体はジョウとそんなに変わらないみたい。でも、とても妖艶な雰囲気を持つ、黒髪の少女だったそうよ。目が合った瞬間、腰が抜けていいなりにされたらしいわ。気をつけなさいね、あなたたち」
「気をつけろって、結構無茶じゃないすかね。それ」
「それでダメなら、せいぜい吸い尽くされないようにね」
アオイさん、それ酷いから。その手の女って、男にとってはマジエロくて我慢してられないタイプだろうし。……こういう時だけは、俺今女で良かったってことなのかね?
そんなことを考えてる俺の横で、じっと話を聞いてたタクトが尋ねた。おそらくは一番、重要な点を。
「それで、副隊長。隊長たちの帰りが遅くなる理由は」
「書いてある日付からすると、3日ほど前ね。黒の一団から奇襲を受けて、隊長をかばってコクヨウが捕まったらしいわ」
……。
えーと、それって、ものすごくやばくねえ?




