93.いったりきたり
数日前に、カイルさんたちを送り出した同じ門の前。今は俺とアオイさんとグレンさん、アキラさんとテツヤさんがいるだけ。あ、あと巨大な伝書蛇な。
巨大伝書蛇ことチョウシチロウの背中に、馬に乗る時とあんまり変わらない鞍を据え付ける。首からトランクをぶら下げた彼は、おとなしくアキラさんと何でかテツヤさんを自分の背に迎え入れた。
「では、ひとっ飛び行ってくるぞえ。しばらくの間、よろしゅうな」
「手数をお掛けします」
テツヤさんを背もたれ代わりに座っているアキラさんが、楽しそうに手を振る。手綱も付けてあるし、マジでこのまま飛んで行く模様。すごいなあ、伝書蛇。
「いやいや。わしが留守の間、街とお嬢ちゃんをお頼み申しますえ」
「てかさ、ひいばあちゃん。何で俺も行くんだよ?」
曾祖母に背もたれにされてるテツヤさんが、困ったように声を上げる。それに対するアキラさんの答えは、至極当たり前なものだった。
「カイル坊やの部下が一緒におったほうが、何かと都合がいいわえなあ。さすがにこれで腰を抜かさんのは、カイル坊やとコーリマの王姫様くらいじゃろ」
「身分証明かよお……はいはい、わっかりましたあ」
まあなあ、その方が向こうの人たちもすぐ身分確認できていいだろうさ。ま、いきなりこんなの出てきたらほんとうに驚くだろうけれど。
で、アオイさんはせっかくなのでそれに便乗したらしい。
「テツヤ、隊長への報告も頼んだぞ」
「それでこの書類ですかー……はいはい、了解っす」
「お前、堕ちたらたたっ斬るから覚悟しとけよ?」
「どっちのおちるだよ、グレン? まあ、そういうことは無えから安心して剣の手入れしとけ」
グレンさんとテツヤさん、何だかんだで仲いいんだよな。いやまあ、同じ部隊の中で仲悪くても困るけどさ。
……どっちの『おちる』、か。
チョウシチロウの背中から落ちるか。
黒に堕ちるか。
どっちでも、冗談じゃねえやな。
「では、さっさと行ってくるわえなあ。店を長く閉めておくわけにもいかんし」
「いってらっしゃい。アキラさん、テツヤさん」
「おー。皆、留守番頼んだぜー」
テツヤさんが手を振るのとほぼ同時に、チョウシチロウがバサリと大きな翼を広げた。そのままふわり、とまず胴体だと思われる部分が浮く。一体どういう原理なんだろう、ってのは考えないことにしてる。そこまで俺は勉強できるわけじゃねえし。
「ほうれチョウシチロウ、急ぎじゃ。頑張ってたもれよ」
「しゃー!」
一声長く息を吐いた後、白と金の伝書蛇は全身を空に浮かせて、ゆったりと飛び去っていった。いや、ゆったり見えてるだけで結構すごい速度なんだろうけどな。うん。
そこから5日ほど、少なくともユウゼの街では平穏な日々が過ぎた。黒の連中はすっかりおとなしくなってたし、とっ捕まってる連中は……あんまり詳しいことは知らないようだった。俺、直接会わせてもらってないからよくわからないんだよね。
で、6日目の朝。つんつん、と頬を突かれて目が覚めた。はっと目を開けた俺の視界に入ってきたのは、タケダくんのどアップ。
『ままー。かんだくんがおてがみもってきたよー』
「カンダくんが?」
ラセンさんとこの伝書蛇が来たのか、と思って跳ね起きた。それからタケダくんに視線を戻すと、あ、すぐ横に綺麗な緑の伝書蛇がいたよ。口に、文の筒くわえて。
「しゃあ」
一声鳴くと同時に、その小さな筒がぽとんと布団の上に落ちる。何でか知らないが、この子は俺の……じゃねえな、タケダくんのところに一目散に来たらしい。まあ、同族だもんな。
「おう、お使いおつかれさん」
「しゃああ」
『まま、かんだくん、おなかすいたって』
「あー、そりゃそうだよな。ちょっと待ってろ、服着替えたら朝飯にすっから」
カンダくんの困ったような顔と、それからタケダくんの言葉に俺は慌ててベッドから降りた。いやほんと、急いで飯おごってやらないとな。それと、手紙をアオイさんのところに届けないと。うん。




