91.未熟者には出番なし
「ジョウ! ……あ、これは『子猫の道具箱』の店主殿」
宿舎に到着するのとほぼ同時に、アオイさんが迎えに出てきてくれた。一緒に来たアキラさんの顔を見て、ちょっと驚いたみたいだ。アキラさんの方は、平然としたものである。さすが年の功。
「ネタを出したのはわしじゃからのう。大して詳しゅうもないが、説明に馳せ参じた」
「それは助かります、中へどうぞ。お前たちも、隊長室まで来い」
「ひゃはは、失礼しますえ」
「分かりました」
「了解っす」
彼女の説明に納得したアオイさんの指示に、俺たちは大人しく従った。隊長室に呼んだってことは、全員を集めるような話し合いじゃないってことなんだよな。それなら食堂使うから。
そのまま全員で、カイルさんの留守をアオイさんが守っている隊長室へと向かった。扉の前には……あ、テツヤさんだ。
「早かったっすね」
「ちんたらしている場合ではないようだからな。入って構わん」
「へい。どうぞ、副隊長、ひいばあちゃん」
ああ、アオイさん待ちだったのか。そのまま扉を開けてくれたので、呼ばれたアオイさん、アキラさんの順に入る。で、その次にはグレンさんと俺。
「失礼しまーす」
まあ癖というか何というかで、そう言いながら入室。最後に入ったテツヤさんが扉をしっかり閉めて、そのまま全員でソファに適当に座る。あ、ちゃんとアキラさん、アオイさんが上座だぞ?
「ふうむ……お話は、わかりました」
アキラさんから『黒の魔女』についての話を聞いて、アオイさんは顎に手を当てつつ小さく頷いた。彼女もそういう人がいるって話は初耳だったらしく、眉間のシワがくっきりと。綺麗な顔にシワがよるのはいやだねえ、全く。
「しかし、あなたはどうやって撃退……といいますか、討伐を?」
「まだわしも若かったでな、力押しじゃ。確かに魔術は自然災害レベルの脅威じゃったが、しょせんは魔術師1人じゃからのう」
アオイさんの問いに、アキラさんが喉の奥でくっくっと笑いながら答える。いやまあ、結局はそうなるんだろうけどさ。最終的に森の肥料にしちゃったとか何とか言ってたし。
「男が面と向かうて相手すりゃ、返り討ちに会う危険性も高いじゃろうてな」
「それでばあさん、1人で相手したのかよ……」
「そうじゃよ? そこらの村人では、黒の汚染には耐えられんじゃろ」
グレンさんが肩をすくめるのに、アキラさんはほんとに平然と答える。この人、全盛期ってラセンさん超えるレベルの魔術師だったりしないかね。今でもこんな感じだしさ。
ま、それはともかく。その会話を聞いていたアオイさんは、困ったような顔をした。
「そうなると……ラセンは向こうに行っていますからともかく、もう1人くらい援護を出したほうが良いのでしょうが……」
「ああ、このお嬢ちゃんにはまだ荷が重かろ。わしが行くから、安心せえ」
アオイさんは、部外者であるアキラさんに頼むつもりはなかったみたいだ。そりゃまあ、部下である俺がいるんだから、俺に命令するのが筋だろうしな。
でもアキラさんは、自分が行くって言った。……言ってくれた。
「……正直に申し上げますと、そうしてくれた方がこちらも助かります。まだ彼女は魔術師としては未熟なので」
「分かっておるわえな。この子にはまだまだ、勉強して成長してもらわんといかん」
アオイさんも頷いてくれて、だけど本当は俺が行かなくちゃならないのに、アキラさんが請け負ってくれた。
そうやって守られてる俺にできるのは。
「……頑張ります。早く、こういう時に出られるようになります。だから……ごめんなさい、アキラさん」
「謝るでないわ。早う、わしやラセンちゃんを超える魔術師になってたもれよ」
「……はい」
強くなろう、と誓うことだけだった。
でまあ、話は落ち着いたんだけど。アキラさん、お店があるんだよねえ。どうするんだろう?
「店は臨時休業じゃ。致し方あるまいのう」
聞いてみると、そういう答えが帰ってきた。……あ、でも、確か店員さんいたよねえ。黒に汚染されてタケダくんの卵盗んだ、あの彼。どうしたのかな。
「そういえば、店員さんどうなりました?」
「コウジかや? ぼちぼち回復はしとるが、まだ1人で店は任せられん。品物を覚えきっとらんからのう」
「あ、そっちで」
まだ、ということは、一応店番とかやってるのかな。1人で任せられない理由が『品物を覚えきっていないから』で、ちょっとほっとした。黒の影響から抜け出せれば、ちゃんとまたやっていけるんだなって。
と、テツヤさんが少し困った顔して俺に言ってきた。
「あー、そういやあいつの時は面倒かけたんだっけな。身内として面目ない」
「身内?」
「年そんなに変わらないんだが、あいつ俺の甥っ子」
「はい?」
おいっこ。
えーとつまり、きょうだいの息子ってことになるんだよね。え、でもあの人、テツヤさんとほんとに年離れてそうにないんだけど。
というか、テツヤさんの甥っ子ってことは、つまり?
「わしの玄孫じゃ。孫の孫、ということになるの」
「ぶっ」
やっぱりそうかよ! てことはテツヤさんの親と似たりよったりの年齢の、テツヤさんのきょうだいがいるってことかよ! もう、訳わかんねえぞ、ネコタ家!
 




