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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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89.焼いて潰して粉にして

 気分転換も兼ねて、街中の見回りに出ることにした。アオイさんはまだ事情聴取中のようで、グレンさんが一緒に来てくれる。


「まあ、ネコタのばあさんが協力してくれたって言ってるから大丈夫、だとは思うんだがな」

「それでも昨日の今日ですし、ちゃんと見とかないと」

「しゃー」

「……お前さんたち、元気そうで何よりだ」


 あれ、何かグレンさんにため息つかれたぞ。あれか、俺もっと落ち込んだりしてると思ったのかな。

 ……言われてみれば、結構平気だな。自分でも意外だと思う。まあ、今のところは、だけど。


「またぶり返す可能性はありますけどね」

「今冷静なら、何とかならあな。他の連中でも、たまになる時あるからな」

「そうなんですか?」

「兵士出身だったり、タクトみたいにガキの頃から底辺な生活してたりするならともかくな。街の近くの農家出身とかだったりすると、逆に殺しとは縁遠いもんさ」

「な、なるほど」


 言われてみて、気がついた。確かにそういうもんか。

 俺だって、俺が住んでたところが戦争とかそういうのとは縁遠いからあれだったけど、別の国では内戦とかいろいろあったもんなあ。そっちの方に住んでたら、また違った考えになってたかもしれない。

 それは、こっちの世界でも同じ事なんだよな。全員が全員、人殺しに慣れてるなんて世界、殺伐すぎていやだ。


「まあ、いろんな人がいるってこった」

「そうですね」


 結論は、グレンさんの一言に集約されていた。ま、そりゃそうだ。




 街の雰囲気は割と普通で、戦いはともかくとしていざこざには慣れている街なのがよく分かる。ぐるっと回っていくうちに、不意に声をかけられた。


「おーい」

「おー、テツヤ」


 俺より先にグレンさんが反応して、手を上げて答える。駆け寄ってきたのは緑の髪の兄ちゃんと、灰色の三つ編み髪の少女……の外見をした、ロリババア。口には出してないからな?


「お嬢ちゃんも出てたのか。話は聞いたぜ」

「アキラさん、テツヤさん。どうも」

「おお、元気そうでよかったえ。タケダくんも、よかったのう」

『うん!』


 タケダくんの声は聞こえなくても、全身で大きく頷いたからさすがに分かるよな。せっかくなので、一緒に回るか。グレンさんもテツヤさんも、そのつもりみたいだし。

 で、一緒に歩いていると、アキラさんが「そうじゃ」と思い出したように声を上げた。


「本隊の方は、心配せんでもよかろ。コーリマからも、カサイの弟子が来ておるようじゃしの」

「黒相手だと特に、魔術戦闘も十分予測の範囲内だからな。セージュ殿下なら、いい魔術師連れて来てるはずだ」

「それなら、大丈夫なんですね?」


 テツヤさんもフォローしてくれて、何かほっとした。っていうか、俺が気にしてるの分かってたのかな? いやまあ、カイルさんを始めとして仲間たちが出撃してるんだから気にならない、って言ったら嘘になるけどさ。


「ばあさんが大丈夫ってんなら、大丈夫だろ。戦場には出ないけど、こちらもなかなかの魔術師なんだからな」

「世のごたごたには巻き込まれとうないわえ。己のためなら、少しばかりは力を貸すがの」

「あ、それで? 昨夜は力貸していただいたそうで、ありがとうございました」

「うむ、気にするでないわ。のんきな店主生活を乱されてはたまらんからのう」


 うーむ、さすがは年の功というべきか。我道を行きまくってるこの人を、ある意味見習わないといけないなあなんて思ってしまった。

 思った次の瞬間、そのアキラさんの言葉で思考がぶちっと切れた。


「じゃが、黒の方の魔術師がおなごじゃと少々面倒があるかも知れんえ?」

「はい?」

「何でだ? ひいばあちゃん」


 テツヤさんが目を丸くした。グレンさんも、不思議そうな顔をしてアキラさんに視線を向ける。俺とタケダくんも含めて全員の視線が集まる中で、アキラさんは丸眼鏡の位置を指先で直した。


「ごくごくまれじゃと思うんじゃが、男の精を吸うて己の魔力にする魔女がおる。わしは、田舎で息子を育てておる頃に一度会うたかのう」

「……うげえ」

「息子って、祖父ちゃん?」

「お前の祖父は末っ子じゃろ。その時育ててたのはゲンゾウじゃ、もうとうの昔に太陽神様のところ行っとるわ」


 グレンさんのげんなりした声を他所にかわされたテツヤさんの疑問とアキラさんのその答えに、さて何年前の話なんだろうとできない計算をしてみた。まあ100年以上は経っててもおかしくないかなー、なんて。


「うちの宿六に手を出そうとしたんで、焼いて潰して粉微塵に砕いて森の糧になってもろうたわ」

「……くだいて?」


 宿六って……うーん、アキラさんの旦那さんのことかな。つまりテツヤさんのひいおじいちゃん。その旦那さんに手を出そうとした黒の魔術師がいて、アキラさんはそいつを……しれっと言えるところがすごいというか。うん。


「何しろ、精を吸われた男は良うて色ボケ人形、酷うてカラカラの死体にされるからの。冗談ではないえ」


 そして、続けてそういう台詞を口にできるところも。

 あーえーと、精を吸われるってつまりその、やることやってってことだよな。それで魔力を吸い取って、えー。

 ……って、男から吸い取る。1人じゃ、ないよな。


「……アキラさん」

「何じゃ?」

「その、男の精って、どれだけ必要なんですか」

「さてのう? わしが吸うたわけではないから詳しくは知らんが、あの時は村1つ2つ潰したという噂じゃったかの。その代わり使う魔術もなかなか強力での、面倒じゃったわえなあ」

「……それだ」


 大量の男から、魔力を吸い取る黒の魔術師。

 大量の男が、いっぺんにいなくなった事例が、ついそこにある。


「今カイルさんたちが攻めてる砦、元々いたはずのコーリマ軍の部隊が全く行方不明なんだそうです」

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