83.はじめての
「上手く避けろよ! 光の雨!」
まずは先制攻撃。タケダくんと同じように、光の玉を上空に打ち上げる。ただしこっちは信号弾じゃなくて、上で弾けて落下してくるのは物理ダメージ食らわせる光のつぶてだ。ま、当たるとは思ってないんで牽制的な?
あと、敵味方識別なんてゲームみたいな芸当はまだできないんで、グレンさんとノゾムくんには頑張って避けてもらうしかない。要するに、頑張れば避けられる程度の命中率ってこった。
「心配すんな!」
「伊達にこの仕事やってませんから!」
うん、心配はしてない。してるとすれば、自分自身もしくはタケダくんの暴発の方。でも、この程度で暴発してるわけにもいかないからな。
『ままにちかづくな!』
「ぎゃっ!」
ばきんと音がして、背後で黒の1人が倒れる。俺に向かって突っ込んできたところに、タケダくんが出した光の盾が見事なカウンターとしてぶつかったらしい。あーあ、と思ってる間もなく自分でも光の盾を出す。小さいの2つ。
「来んなっつーてんだろ!」
「がっ!」
1つを別の黒の腹に、続けてもう1つを顎に。これ、魔術じゃなくてただのワンツーじゃねえかというツッコミは聞かないことにしている。
「おとなしく、その娘を渡せばいいものを!」
「あいにく、仲間を売る気はこっちにはないんでね」
交渉に立った奴とは、グレンさんが1対1でやっている。おいそっちの黒、その青っぽいどっかのレーザーブレードみたいな剣はどこから出した。もしかして、魔力で作ったのか、てめえ。
んで、そのレーザーブレードと互角にやり合ってるグレンさんの剣もうっすら光ってる、ような気がするんだが。ああいや、気を取られてる場合じゃねえや。
「はあっ!」
「ごふ!」
「ぎゃっ!」
ノゾムくんが、1人切り倒した。返す刀でもう1人。暗いせいであんまり見えないけど、血とか飛んでるんだよな、きっと。いやいや、だから気を取られてる場合じゃねえって。
「氷の拳っ!」
「ごっ!」
物理ダメージ第2弾、バスケットボールサイズの氷を敵の腹に叩き込む。至近距離で生成したんであんまりダメージは行ってないと思うけれど、それでも昏倒させるくらいはできると思う。多分。
続けて光の盾連打、タケダくんも物理ビーム連打で、向かってくる黒たちを叩き落としていく。しかしこいつら、魔術師いねえのな。全部剣とか剣とか短剣とかだ。あとレーザーブレード1名。
「しっつけえなあ。とっとと斬られてくんねえか?」
「貴様がな!」
そのレーザーブレードは……まだ、グレンさんとやり合ってる。ついでにグレンさん、周囲から切りかかってくる黒を1人、また1人と切り伏せてる。こう言っちゃ何だが、時代劇のクライマックスでズンバラリンやってるあんな感じ。
「ジョウさんっ!」
「っと!」
『しつこーい!』
お、やべ、一瞬気が逸れた。ノゾムくんが呼んでくれなきゃ、横から来た黒に気が付かなかったよ。タケダくんの光の盾に、勝手に体当たりしてくれたけど。
「下がってください、まだいます!」
「囲まれてんだから、意味ねえよ!」
そんな会話を交わしながらノゾムくんは1人を斬り、俺は1人を打ち倒した。ええと、もうそろそろ全滅しててもいい……はずなんだけど。
と思った瞬間、背後からがっしりとしがみつかれた。ひ、耳元で変な息してやがる、キモい。
「捕まえたあ……死んで、我が神の嫁となれ!」
「や……だっ!」
『ままに、わるさすんなあ!』
タケダくんが叫びながら、物理ビームを放つ。でもそいつは、ほぼゼロ距離射撃だってえのにすんでのところでかわしやがった。あ、マジやべえ。
そう思った瞬間、腰に下げてるものに手が触れた。マヒトさんが俺にくれた、黒い短剣。護身用にって下げてるだけの、それを俺はつい、握りしめて。
「離れろよおっ!」
思い切り、腰の横から背後のそいつに突き立てた。ずぶ、という変な感触が手に伝わって、それから黒いマントが手に触れて。
「ご……お、おお……」
「離れろ、ってんだろ!」
もう、悲鳴みたいな声しか出なかった。腕が離れようとしないので、何度も何度もずぶずぶと刺した。それから無理やり腹蹴って、腕外そうとしてじたばたしてるところを、ノゾムくんが駆け寄ってきて引っ剥がしてくれた。
振り返って、俺はやっと気がついた。
仰向けに倒れてるそいつの顔は、やっぱりフードで見えなかったけれど。
腹からどくどくと流れ出ている血は、……うん。
俺が、やったんだ。これ。




