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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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80.夜回り

 その次の日はまあ、普通に過ぎた。人が減ったからといってそう、やることが変わるもんじゃないしな。

 で、2日目の昼にアオイさんに呼び出された俺は、「夜回りをお願いできるかしら」って頼まれた。いや、事実上命令と言っていいんだけど。


「夜回り、ですか」

「ええ。さすがに人数も少ないし、そろそろやってもらわないとね」


 だよねえ。今までは日の出てる間ばっかり見回りやらせてもらってたけど、いい加減俺もちゃんとしないと。アオイさんやラセンさんだって、ちょこちょこ出てるもんな。

 それに……俺、この街を初めて見た時は夜だったんだ。あの光景、もう一度と言わず見てみたいしな。


「はい、分かりました。……さすがに、1人じゃないですよね?」

「男でも2人以上でやらせてるのよ。ノゾムとグレンをつけるから、安心なさい」

「すいません。ありがとうございます」

「いえいえ。その代わり、しっかりやってね」

「はい」


 そういうことで、簡単に話は終わった。夜回りに出るのは夕食の後だから、それまでは普通にしてればいい。タケダくんには……昼寝しといてもらうか。夜はちゃんと寝るんだよね、こいつ。


「タケダくん。夜の見回りすることになった」

『えー? よるはねむいよう』

「だよなあ。……お昼寝でフォローできるか?」

『だいじょぶだとおもう。ままといっしょいたいし』

「ごめんな。ありがとう」


 だあもう、何て聞き分けのいい子なんだこいつは。飯もちゃんと食うしトイレも一定の場所でしかしないし、結構きれい好きだしうるさくしないからもう、ペットじゃないんだけど飼うには理想だ。なでてやる、可愛いなあもう。




 ……まあそんなことやってたってのは秘密ということで、夕食後俺は初めての夜回りに出た。夜っつーても最初に来た時と同じように大通りは明るいし、店も夜遅くまでいろいろやってるから表側はヘタすると昼より賑やかかもな。

 アオイさんが言った通り、グレンさんとノゾムくんが一緒に回ってくれている。男でも1人で回らないのは、何かあった時に1人じゃ連絡する間もなくやられたりしたら大変だから、だそうだ。複数いた方が、何とかできる確率は高いもんな。確かに。


「さすがに、夜は派手ですね」

「まあ、この辺は夜がメインだからな。ほれ、あっちが『兎の舞踊』だ」


 グレンさんが指差す方に目を向けると、確かにあのお店だった。外のピンクっぽい壁をやっぱり少しピンクっぽい明かりが照らしてて、昼間見るよりもなんてーかエロいというか、うん。いやそっちのお店なんだけどさ。

 んでまあ、スケベヅラした親父とか緊張した兄ちゃんとか、ぞろぞろ入って行くのな。そういう店だからいいとして。


「わー、マジ派手」

「今夜も繁盛してますねえ」


 そういう光景は初めて見たんでちょっとあっけにとられてる俺の横で、ノゾムくんは平気な顔をしてる。そうだよな、これがこのお店では当たり前の光景なんだもんな。ははは。


「あんら、お嬢ちゃんたちじゃなーい。お仕事ご苦労様ねえ」

「あ、シンゴさん」


 不意に呼ばれて振り返ると、相変わらずくねっとした姿勢でシンゴさんが立っていた。あれ、店長さん表にいていいのかな。それとも、客引きしてたんだろうか。案外、VIP待ちだったりしてな。


「お店も今忙しいみたいですけど、大丈夫ですか?」

「そりゃまあ、ねえ。蛇ちゃん、大丈夫?」


 それとなく聞いてみたのはスルーされて、それで問い返されたのは俺の肩にいるタケダくんに関して、だった。そうか、シンゴさんも伝書蛇については知ってるはずだもんな。お香焚いてるのも、こういう使い魔除けだって言ってたし。


『えっとね、おみせのおそとならまだだいじょうぶ』

「店の外なら大丈夫らしいです」

「あらそう、良かったわ。でも、無理しちゃダメよ?」


 タケダくんの答えをそのまま伝えると、シンゴさんはほっとしたように目を細めた。身体だけ女な俺より、ずっと女らしい仕草ってのは変わってないな。当たり前か。


「この子まだ小さいんで、無理したがらないですよ」

「それに無理をさせたりすると、ムラクモが怒るんだよなあ」

「ムラクモさん、使い魔大好きですからねえ」

「ああ、忍びのお嬢ちゃん。そういえばそんなこと、聞いたことがあるわねえ」


 お前ら、全力でムラクモに責任押し付けてどうする。タケダくんの飼い主と言うか主は俺だ、俺。でもまあ、タケダくんが無茶して寝込んだりしたら彼女が怒るのは想像に難くないけどさ。

 と、そのタケダくんが微妙に緊張したのが、分かった。


『……まま』

「ん?」

「あら。旦那様、お久しゅうございますわあ」


 俺が視線移すより先に、シンゴさんがくねりと身体くねらせて揉み手しながらいそいそと駆け寄っていった。旦那様、って呼ばれたのはちょい細めで背の高い、黒っぽいコート来たおっさん。フード外した頭はああ、うん、眩しいっていうかスキンヘッド? はげ? どっちだろうな、あれ。


「やあ、店主。久しぶりに街に出てきたんでな、今宵は楽しませてもらいたいが奥は空いておるかね?」

「ええ、ええ。もちろん、旦那様のために開けてございますわ。さあさあ、どうぞどうぞ」


 おう、低めのいい声してやがるな。俺が女だったら腹の奥でずきん……としたよ。身体は女だった、ちくしょう。男の意識で聞いてもいい声なんだから、中身から女だとこう、腰抜けるというかそんな感じか?

 腹抑えてゾッとしながら、シンゴさんがそのおっさんを店の中に案内する様子を俺は、じっと見ていた。

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