79.かえる前に
お昼をこっち側の食堂でとりたい、というテツヤさんと一緒に、見回りがてら宿舎まで歩いて帰る。居残り組は数名ごとに見回りしたり休憩とったりするために散らばってて、俺とテツヤさんと一緒に歩いているのはアオイさんだけだった。
「そういえば、詰め所の人ご飯はどうしてるんですか?」
「ああ。向こうにも食堂はあるし、見回りついでにこっちの食堂で食事をとることもあるよ。ただ、中途半端な時間なんでこっちと顔を合わせることは少ないけど」
「なるほどー」
それで、たまに違う顔がいてたのか。でも同じような服着てるし、一緒に食ってる連中も平気な顔してたからなあ。……気をつけたほうがいい、よな。
「そういえば、街挟んで反対側なんですっけ、詰め所」
「そうそう。ひとかたまりになってっと、何か起きた時にまとめてやられかねないからって、隊長がな」
「特にうちは、どうしても人数がね。そこらの国の軍隊と比べるとどうしても」
カイルさんの考えか。確かに、片方潰されてももう片方が無事ならなんとかなるもんな。
それとアオイさん、比較対象間違えてると思うぞ。うちはユウゼ専属になってるとはいえ、たかが傭兵部隊なんだからさ。一国の軍隊全部と比べるのが、そもそもの間違いだ。
いや、ユウゼの街は小さな独立国みたいなもんだから、立ち位置は一緒なんだけどな。規模がなあ。
「それと、今回みたいに本隊が外に出た場合な。隙を見てよそから攻め込んでくる可能性もあるし、そのときに平気で動ける部隊がいないとな」
「あー、今回は王姫様のお呼びですもんねえ。カイルさんが行かないとうるさいんでしょうね、あちらさん」
「そうそう」
ああやっぱりめんどくせえな、こういう世界っていろいろと。
王姫様はうちのトップ、つまりカイルさんが自分から出向かないと多分、ユウゼに文句言ってくる。それを防ぐためには、カイルさんが街を留守にしないといけない。そのための、別働隊。
「とはいえ、そう簡単に向こうも手は出してこないでしょうね。しばらくの間は」
「え?」
不意にアオイさんが口を挟んできたんで、俺とテツヤさんは思わず目を見張った。あ、でもテツヤさん、すぐになるほどって顔をしたな。
「一両日中であれば、出撃した部隊は空を飛んで帰ってくることができるわ。黒が街を攻めたところで、すぐに増援が来て挟み撃ち、よ」
「ああ」
説明されれば、俺だって理解はできる。
そうだよな。こっちの馬、カラス顔なのはともかくとして実用性のある翼持ってるんだった。いざとなったら、飛んで帰って来られるわけなんだよな。
なお、何で基本歩きなのかっていうと、やっぱり疲労度が違うんだそうで。歩きより飛ぶほうがかなり疲れるらしいんだな、馬が。乗ってる方も落ちたら洒落にならんだろうし、まあメインは大地を歩いてってことになるよなあ。
「ってことは、本番は明後日くらいからですか」
「それまでに突っ込んでくる連中がいないとは限らないが、まあそうなるだろうな」
そりゃ、本隊が帰ってくる前に潰されたら元も子もないしな。警戒しまくっても無駄にはならないだろ。まあ、警戒っつってもやることは結局、変わらないわけで。
「いずれにしろ、基本は街中の巡回ね。タケダくんの感覚に頼ることになると思うけど、あなたもおかしいと思ったら素直に教えて。私たちと、感覚が違うかもしれないから」
「はい。言わないより、言ったほうが確認取れますしね」
「そういうこと。タケダくんも、いいわね?」
『はーい。くろいのとかおかしいのいたら、ちゃんというよー』
「変な感覚があったら言ってくれるそうです」
「おお、いい子だな」
というわけで、この辺も変わらないのであった。
あれ、テツヤさん、何かグレンさんと似てるな、タケダくんに対する感じって。似てるというか、懐こい感じというか。アキラさんのひ孫だから、かなあ?
と、そういえば。俺は魔術師の端くれでタケダくんは伝書蛇だからともかくとして、だ。
「テツヤさんの方は、大丈夫なんですか?」
「分けて配置されてるからには、それなりにフォロー手段があるってことさ。ちゃんとした魔術師じゃないが、俺の場合3代前の遺伝がちょいと入っててね」
「……アキラさんですか」
あ、案外間違ってなかったかも。多分、それなりに魔力が多いんだろうな。
……そうすると、グレンさんもそうなんだろうか。あの人、タケダくんとは結構仲いいし。何か、聞く機会ないけどさ。
そんなこと考えてると、テツヤさんはぽんと俺の頭に手を置いた。あ、やっぱりでかいな、手。
「そういうこと。だから、お前さんは自分の方だけ気にしていればいい」
「はい。まあ、まだまだ駆け出しなんであんまり手広くできないんですが」
「分かってればいいさ。最悪、出処に協力頼むし」
「わあ」
出処って、アキラさんかよ。協力頼んだら、OKしてくれるのか。いや、何かツケてきそうだけどさ。




