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7.のんびりとした朝食

 結局のところ、朝食にはちょうどいいということでA定食になった。つか定食あるのかよ、この世界。

 つっても和食とかそういうのでは当然なくて、パンに牛乳に肉と野菜の煮込み料理、あとピクルスっていうシンプルなものである。いや、いただけるだけ実にありがたいんだけどな。


「女の子だし、このくらいがちょうどいいと思うよー」


 マリカさん談。あーまあ、男のままの胃袋だったら物足りないと思うけど、胃袋縮んでるのは昨夜のミルク粥で思い知らされたしなあ。


「足りなければ、単品でおかずや果物の追加もできますよ。季節にもよるんですが、川魚の素揚げとかお勧めです」


 これはタクト。そうか、こいつはこんなんじゃ確実に足りないもんなあ。つか川魚の素揚げってパリっとして美味そうだな、確かに。

 で、木の盆に一揃い並べて食器は金属製。持ってみると重かったから、鉄かね? いや、この辺何が適してるのかとかよく分からないから。

 マリカさんと隣同士に座ると、向かいにタクトがいそいそと座ってきた。あ、こいつほんとに素揚げと……焼き肉かね? 追加してやがる。さすが肉体労働。

 で、食べようとする前にマリカさんは手を組んだ。あ、お祈りとかあるのね。慌てて真似をする。


「太陽の神と季節に感謝します。いただきます」

「あ、えと、たいようのかみときせつにかんしゃします。いただきます」


 食前のお祈り、終了。うわあ短え、さすがに一発で覚えられるわこれなら。


「棒読みだねー」

「うんまあ、いろいろあってな」


 タクト、えらく楽しそうだな。向こうから見ると、年頃の女の子と一緒に食事してるってことになるのか。まあ分からんでもない……だけど、いいのかねえ。中身男だってのはまあ、知らないんだろうけどさ。

 さて。この煮込み料理、味がしみてて美味い。シンプルに塩で味付けしてあるんだと思うんだけど、煮込んであるから肉と野菜のだしの味がしっかり出てきてる。ほら、鍋の最後に御飯なりうどんなりぶっこんで食うと美味いだろ、あんな味。


「おいしい? ジョウさん」

「うん、おいしい」


 パンはちょっと固いけれど、煮込みの汁につけて食うという手もあるからこれは問題ない。顎にはそれなりに自信がある……のは男の身体か。女で顎外れたりしたら、シャレにならないな。気をつけよう。

 ピクルスは味がしっかりしてる、つまり酸味がきつい。……生野菜のサラダの方がまだ好きなんだけど、何か衛生上問題ありそうだからあきらめるとする。


「ピクルス、苦手?」

「あー、食べ慣れないせいかちょっときついかも。おいしいんだけどなあ」

「そうねえ。今の時期は余計に漬かってるし」


 気を使ってくれるタクトと、ちょっと済まなそうな顔のマリカさん。今の時期……ってあー、こっちも冬か。新鮮な野菜、まずないかあ。いや、母親が冬は野菜が高いわーってぶつくさ言っててな。鍋にぶち込むような白菜とかないのかね。




 何のかんの言いつつ全部食べ終わって、食後のお茶をもらう。烏龍茶っぽい感じのお茶で、口の中がさっぱりしていい感じだ。はー。

 そのくらいになって、マリカさんが席を立った。曰く。


「ジョウさんはゆっくりしててね。私、書類仕事たまってるから」

「あ、おつかれさまー」

「いつものことだから。じゃねー」


 だ、そうである。大変だ、事務の人って。

 目の前にいる割と真面目そうな若者くんは、どうなんだろう。聞いてみるか。


「タクトは、書類仕事とかしないのか?」

「あー。俺悪筆なんで」


 照れくさそうに答えるタクト。いや、悪筆なのはゆっくり書けばある程度は読みやすくなるんじゃないのか? こっちの文字読めない俺が言うのもあれだけど。

 その俺の目の前で、コクヨウさんががっしとタクトの首根っこを固めた。あ、こりゃ新入りにちょっかい出す面倒くさい先輩の図だ。ご愁傷様。


「よく言うぜー。面倒くさいだけだろうが」

「そういうコクヨウさんこそ、面倒臭がって書類はハクヨウさんに丸投げじゃないですか!」

「俺はいいんだよ! ハクヨウはそういう細かいの得意なんだから!」


 ……テストとか宿題とか面倒臭がった俺が言うのもあれだが、てめえら自分で仕事しろ。マリカさんの仕事が山積みなの、確実にあんたらがやらないからじゃねえか。




「おはよう」

「おはようございます、若ー」

「隊長、おはようございますっ」


 カイルさんが姿を見せた。ラセンさんも一緒だ。ちょっと疲れてる感じなので、もしかしたら徹夜したのかもしれない。偉い人って、大変だなあ。お、コクヨウさんが慌ててタクトから離れたぞ。

 周囲にいるのはみんな傭兵部隊の人たちだから、隊長さんには当然ちゃんと挨拶する。隊長って呼ぶ人がほとんどで、若って呼ぶのは白黒コンビだけ。何だろうな、あれ。

 そんなこと考えながらお茶を置くと、カイルさんが俺に気づいたのかこっちにやってきた。


「おはよう。元気そうだね」

「あ、はい、おはようございます。その、お世話になりまして」

「いやいや。こちらもまあ、色々と事情もあるし」

「ですよねえ」


 慌てて頭を下げると、カイルさんはいやいやと手を振って答えてくれた。向こうからしてみれば仕事のついでに拾ったのかもしれないけれど、事情が分かったこっちとしてはやばいところを助けてくれた恩人なわけだしな。

 で、カイルさんはちょっとだけ複雑な顔をして、ラセンさんにちらりと視線を向けた。


「昨日の話を聞きたいので、食事の後で俺の部屋に来てほしい。ラセン、案内をしてやってくれ」

「分かりました」

「……はい」


 いよいよ来たか。俺の事情聴取……そして多分、俺は自分が男だってことを話さなくちゃいけない時間。

 さて、俺は一体どうなりますことやら。

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