77.鍛えよ
その日の午後。お昼もちゃんと食堂で食えたし平気だったこともあって、俺の部屋に来てくれたアオイさんはちょっとホッとした感じだった。
「本当に、大丈夫なようね。安心したわ」
「とりあえず、グレンさんやタクトと一緒に飯食って平気でしたから。何か暴言吐かれたら、ちょっとわからないんですけど」
「そういう時はね、相手に対してキレればいい。暴言吐くような男にろくなのはいないから。それが黒の過激派となれば、なおさら」
「はあ」
アオイさんに、えらく力説された。まあ、元男としてもあんまり否定する気にはならないけどな。言い方とかいろいろ考えろよ、って感じの暴言にはこう、微妙に覚えがあるというか。
はい、それでよくクラスメートと喧嘩したりしたもんだ。今になってみると、あれってマジだったんだなあと思う。あん時の彼女たちには、酷いこと言ったな。もう、謝れないけどさ。
っと、過去回想してる場合じゃないな。今の俺にできるのは、アオイさんの話を聞いてお仕事をちゃんとすることくらいだから。
「あなたの任務は、街の守り。と言っても、私を始め1グループが守備のために残るから、ジョウさんは敵が来たら伝書蛇と共にビームで叩きのめしてくれればいい」
「そっちですか」
「しゃー」
あれか、タケダくんに物理ダメージビーム吐かせてぶん殴れってか。いやまあ、別に光の盾ぶつけたりいろいろしてもいいんだろうけど。
要は、敵を叩けってことなんだよね。ところでタケダくん、なんで翼広げてやる気まんまんなのかね。
「少なくとも、タケダくんはやる気?」
『もちろん! ままにいじわるするやつらに、めーするんだから!』
「……俺に意地悪する奴らをしばきたい、らしいです……」
「主思いねー」
いやそこ感心するところなのか、アオイさん。
というか、タケダくん。お前さんに心配かけまくって、ほんとごめんな。お前なんて、まだ生まれて1ヶ月とかそんなんなのにな。
だから、俺頑張らないとな。とりあえずうん、暴言吐きそうな相手は物理ビームで叩き潰す、これで行く。よし。
「本来なら街を守る結界などもチェックしてもらうんだけど、今回はラセンが事前にしてくれるそうだからいいわ。まあ、ラセンによれば異常があればこの子が分かるだろう、ということだけど」
まじっすか。
まあ、確かにタケダくん、俺よりずっと敏感だし。ああ、でも俺、結界のチェックとかも覚えなきゃいけないんだな。ラセンさんにばっかり任せるわけにはいかないしさ。
「タケダくん、すごいんですね」
「人間よりずっと、黒や魔術の気配には敏感だからね。だから、この子から目を離さないように……言うまでもないかしら」
「ははは」
アオイさんの言葉に、俺は力なく笑うしかねえよ。タケダくんが俺から離れるわけないし、何かあったら確実にすっ飛んでくる。そんでもって、この子はどうやらいろんなセンサーの役割もしてくれるみたいだし。
俺も、ほんといろいろ勉強しないとダメだよなあ。魔術関係、ほとんど全部タケダくんに任せっきりじゃねえか。俺が魔術師なんだから、俺がもっといろいろできるようにならないと。
「タケダくんと同じように、俺も分かるようになりますかね」
「私は魔術師じゃないから……でも、そのうち分かっていくようになるんじゃないかしら。方向性は違うけど、私もそうだったし」
そういうもの、なのかな。慣れと言っていいのかな、そういうのって。
『まま、だいじょうぶだよ。ままも、わるいやつきっとわかるから』
「え、そうなのか?」
『うん』
タケダくんはそう言ってくれるけど、はてさて。
自分の能力がチートっぽいのはラセンさんとかの反応から分かってるつもりなんだけどさ、実際使うのは俺自身だし。俺がちゃんと使えないと、宝の持ち腐れっていうんだっけ、そういうことだろう。
「急いでできるようになれ、とは言えないけど。でも、修行頑張るに越したことはないわね」
「精進します……」
ま、結局はそういうことだ。自分を鍛えるしかない。実際にお仕事になるまで、少しでもできるようになって、それでみんなの力になれるように。
そして、数日後。
「コーリマから正式の要請があった。3日後、砦に向け出立する。残留部隊も準備を怠るなよ」
食堂に集められた皆の前で、カイルさんから通達があった。どうやらコーリマも、軍を出して砦を攻略することにしたようだ。いや、事情と状況からさっさとやらなきゃ大変なことになる、ってのは分かってんだけどな。
「我々はコーリマ軍を先導、その後は偵察を主体として行動する。セージュ殿下が先頭切ってぶった斬りに行きたいそうだから、巻き込まれるなよ?」
というかやっぱり王姫様かーい! やるとなったら本気でやる気かあの人は!
一体どんなお姿してるのか、一度見てみてえよ! 腰抜かしそうだけど!




