表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/341

76.やるべきことは

 ほぼ食べ終わり、フルーツヨーグルトに手を伸ばしたところで俺はふと、尋ねてみた。


「……そういえば。砦の話聞いたんですけど、どうなると思います?」

「ん?」


 うん、唐突な質問で悪かったと思う。マリカさんもあらら、という感じでこっち見てるしな。

 タクトはコーヒー飲みかけて、慌てて必死に飲み込んでた。タイミング悪すぎたな、ごめん。一方、「何だ、知ってたのか」と言いながら、グレンさんは笑って頷いた。


「まだはっきり決まってねえが、多分出るぜ。イコンとユウゼの間の谷間にある砦でな、近くを古い街道が通ってんだ。あっこを取り返さないと、まず次はユウゼが狙われるからな」


 なるほど。

 イコンは穏健派とはいえ黒の信者の国だから、そっちを狙うよりもユウゼを狙うほうが先ってことか。それならまあ、行かない理由にはならないもんな。

 そうなると、後は彼らが行くかどうかだ。


「グレンさんとタクトは出るんですか?」

「俺は行くことが確定してんだが、タクトはまだだ。もしかしたら、こっちに残らせることになるかも知れん」

「え、何でですか? 俺も行きますよ」

「お前、俺らが砦に苦労してる間に黒が街来たらどうすんだ。ジョウが表に立つことになるかもしれないぞ?」

「え、あ」


 反論は勢い良かったくせに、俺の名前をグレンさんが出した途端、タクトの視線がふらふらし出した。いやお前、その反応はあれだろ。俺はやめとけ、本当に。

 ま、さすがに口に出しては言ってねえけどな。そんなこと言ったらうっかり、俺の中身が男でーすってばれちゃうかもしれないからなあ。


「少なくとも、お前さんの護衛になるくらいは置いてくはずだから安心しろ。それなりに強い連中ばっかだけどよ、やばかったら領主殿んとこに逃げ込め」


 タクトが落ち着くのを待たずに、グレンさんはそう言った。って、何でここで領主さんが出て来るんだよ。てか、逃げちゃだめだろ。こういう場合は。

 と突っ込む間もなく、タクトも援護射撃してきやがった。


「そうですね。領主様は隊長と仲がいいですから、ジョウさんの面倒だって見てくれますよ」

「いや、でも傭兵部隊って街守るのが任務じゃないですか。それが逃げたらおかしいでしょうが」

「そういうとこ、お前さん隊長とよく似てるのな。逃げてもいいんだよ、命あっての物種だろうが」


 思わず反論したのは正論だと思うけど、でも何かグレンさんにえらいとこ指摘された気がする。何だよ、俺カイルさんと似てるのかよ。かんべんしてほしいな、ったく。

 そりゃさ、俺だって簡単に死にたくねえし。でもなあ、こういうお仕事についた以上ほいほい逃げ出すのもさ、変だろ。やっぱり。




 不意にがたん、と音がした。ヨーグルト食いつつ顔を上げると、そこにはたった今会話に出てきた、我らがイケメン隊長がぽかんと目を丸くして立っていた。ああ、俺がいるのに驚いたのか、もしかして。


「……ジョウ?」

「あ、隊長。もしかして徹夜っすか」

「いや。1時間ほど寝たぞ」

「それはほとんど徹夜と変わりません」

「マリカさんの言うとおりですよ、隊長。少しは身体に気をつけてくださいっ」


 出た、何気に天然ボケな隊長。見事に俺以外の3人からツッコミを食らってる。外見上は全くもって正常のようだが、1時間しか寝てねえならほぼ徹夜だ。無理すんじゃねえよ、まったく。

 ……とは口に出して言えるわけもないので、俺はとりあえず笑顔を作ってみた。


「おはようございます、カイルさん」

「出てきて大丈夫なのか?」

「はい。ご心配おかけしました」


 カイルさんがちょっと心配そうな顔になったので、もう全力で笑って見せてそう答える。ええい、何度も言うようだがおのれイケメン。そういう表情は例え相手が男でも反則だ、こんちくしょう。


「いつまでも閉じこもっているわけには行きませんし。それに、カイルさんはご存知でしょ、俺のこと」

「まあ、そうなんだが。それでもな」

「だから、大丈夫ですよ。というか、あんなんでヘコまされてる場合じゃないですし」


 カイルさんは、俺の中身が男だと知っている。だからそこを軽く強調して、俺は大丈夫だよと伝えたつもりである。通じたかどうかはわからないけどな。カイルさん、やっぱり寝不足みたいでちょっとぼけっとした顔してるし。

 それにまあ、俺もそれなりにダメージ受けたのは事実なんで、素直に伝えよう。


「と言っても、正直外で仕事できるかどうかはまだ分かんないんですが」

「そうか……なら、宿舎内でバックアップをしてくれると助かる。その様子だと、マリカ辺りから砦の話は聞いているんだろう?」

「はい」

「それならいい。詳しいことは後で、アオイから伝えてもらうようにする」

「済みません。ありがとうございます」


 うむ、情報源までバレてーら。というか、基本女の子とばかり話ししてたんだからここの場合ほぼ3択になるわけだしな。アオイさんやラセンさんが忙しいのはカイルさんが一番良く解ってるだろうから、そりゃマリカさんしかいないわな。

 ともかく、やることはやらないとな。俺だって、いつまでもお荷物になってるわけには行かないし。

 まずは、フルーツヨーグルト食いつくすことにしよう。うん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ