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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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74.食事の前に

 寝て、起きて。外はまだまだ寒いけどいい天気で、多分これなら大丈夫かな、と思えた。

 きっちり着替えて、準備よし。鏡に向かってガッツポーズをしてみる。うん、大丈夫、大丈夫。


「よっし。行くかあ。タケダくん」

『はーい。ままといっしょにしょくどうでごはんー』


 ひょいと肩に飛び乗ってきたタケダくん、ものすごく上機嫌だった。やっぱ、俺と一緒に外出たかったんだな。悪かったな、付きあわせて。ああもう、こいつのためにも平気でいなくちゃ、な。


「きゃ」

「あれ?」


 で、扉を開けた途端、ばったりマリカさんと顔を合わせた、というかぶつかりかけた。やっべえ。

 とりあえず出て、扉を閉めて、それから挨拶。人間関係に、挨拶はホント重要だと思う今日このごろ。


「おはようございます、マリカさん。どしたんですか?」

「お、おはようございます。今日から下で御飯食べるんですよね、一応付き添い必要かなって」

「……ありがとうございます」


 そっか。マリカさん、俺のこと心配して来てくれたんだ。そう言われて、助かった、って一瞬だけ思ったんだよな。いやまあ、1人と1匹で頑張って行けなくはないけどさ、でも1週間ぶりだし。


「正直言うと、何か怖くて」

「そうかもと思ったんですよ。全くあいつめ」


 ……いや。単純に、しばらく引きこもってて外に出たら何か人の目が怖いなーというか、そういう意味での怖いだったんだけど。

 うんまあ、誤解されておこう。実際にマリカさんが思った意味での怖いも、もしかしたらあるかもしれないから。

 実際のところ、俺自身が何が怖いのか今でもわからないところがある。『女としてのスメラギ・ジョウ』が何かを怖がってるんだとしたら、俺のほとんどをまだ占めてるだろう『男としての住良木丈』には理解できないかもしれないし。


『まりかおねーちゃんもいっしょなら、ままもっとこわくないね!』

「……タケダくん、何て言ったんですか?」

「マリカさんも一緒なら、俺外に出ても怖くないよねって」

「あらー。頼りにしてもらえてるのね、ありがとう」


 階段をゆっくりと降りながら、こんな会話を交わす。……外から見たら、普通に女の子2人プラス伝書蛇1匹が会話してるんだよな、これって。

 俺自身、どこか変化してるって自覚はない。自覚がないだけで、変化していってるのかもしれない。少なくとも身体は完全に女で、生理があるってことは子供も余裕で産めますよってことだ。

 中身はまだ男……だと思う。一人称を俺から変える気なんて毛頭ないし、女の子のおっぱいはまだまだ見るのは照れくさいけど大好きだ。あ、自分のは除く。てめえの触って何が面白いんだよ、重いのに。

 トイレは……大も小も座っていっぺんにできるからどっちがどっち、って考えることなくなったなあ。さすがに毎日やるから慣れた。うん。




 まあ、そんなことのほほんと考えている間に俺とマリカさんは、食堂に到着。一瞬だけ入るのにひるんだけど、でもここまで来たら男も女も度胸、だと思うんだよな。


「おはようございまーす!」


 だから、意図的にでかい声出して入った。途端、食堂に入る皆の視線がわっと集まるのが分かって……あ、少し怖い、かも。いや、そういうんじゃなくてさ、しばらく学校休んでて久しぶりに教室入った時のあの何というかなあ、変な空気っていうか。あんな感じがな。


「おう、おはよう」

「おはよう。元気そうだな」

「おはよう、おかえりー」

「……はい、ただいま」


 あ、でもそういう空気は、一瞬で吹き飛んだ。何か皆、当たり前のように答えてくれたんだよな。それでふ、っと胸の中が軽くなった気がする。あー、楽だ。

 1週間前とさほど変わらない空気の中を、そのまま厨房までまっしぐら。いやだって、食堂には飯食いにきたんだもんな。腹減ってるんだよ、さっさともらって食うぞー。


「ジョウさん、そんなにお腹すいてたの?」

「そりゃなあ。さすがに部屋で食うのと、匂いが違う匂いが」

「あー」

『おいしいにおいー』


 マリカさんも、納得してくれたらしい。いやだって、俺らが自分で食うもの以外にもいろんな食い物の匂いがするんだぜ。それとか、揚げ物揚げる油の音とか魚や肉を焼く煙とか。

 これに囲まれて腹減らなかったら、そいつは満腹か鼻が詰まってるか、そうでなきゃ医者に診てもらうべきだと俺は思う。うん。

 でまあ、厨房のおばちゃんはこれまたいつもどおりというか、うん。


「お嬢ちゃん、心配してたんだけど元気そうで何よりだよ。何食べる?」

「済みません。えーと、ポテトグラタン定食ください」

「はいよ。ほれ、お久しぶりだからおまけ」

「わ、ありがとうございます」


 何と、この時期には珍しいフルーツヨーグルトがおまけでついてきたぞ、おい。いや、ヨーグルトなんかは普通にあるんだけどな。フルーツが基本的に旬にしか出回らないんだよ。ハウス栽培とかないから。

 だからこの時期に出るのはドライフルーツなんだけど、ヨーグルトに入れてしばらく置いとくと水気を吸収していい感じに戻るんだよね。これがまあ、俺はともかくとして女の子には大評判なのである。うまいもんはうまい、これはどこの世界でも真理だと思うぞ。

 ヨーグルトでも分かるんだが、ありがたいことに食料品は向こうもこっちもそんなに変わらない。ので、俺の好みのものを頼めばちゃんと出てくる。……ああ、最近好みがちょっとずつ変化してる気もするけどな。

 ……もしかしてこれ、女になった影響か。うわあ。

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