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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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69.内外の事情、もしくはおのれ黒

「……だーるーいー……」

「ジョウさん、薬湯飲みました?」

「飲んだけどー、でもだるいー」


 えー、ただいま俺は2回めの巡りの物真っ最中である。寝込むほどじゃないんだが、だるいな、これ。

 マリカさんが持ってきてくれた薬湯のおかげで痛みとかはだいぶ楽なんだけど、だるさは慣れるしかないんだろうか。

 まあ、見回りとかしてると意外と気が晴れるんで、そのくらいはお手伝いしてる。今はお昼なんで、食堂でテーブルに突っ伏してるところ。昼飯はちゃんと食ったぞ、さっぱり鶏のサラダ定食。


「ジョウ、あんまり無理するんじゃないぞ? ほれ、タケダくんが心配してるだろうが」

『まま、おねんねしなくてだいじょぶ?』

「すんません、グレンさん。寝るほどじゃないんですよね。動き出したら、それなりに動けますから」


 白い頭をなでてやりつつ、人の様子を見に来たらしいグレンさんに答える。この人、ほんとタケダくんと仲いいんだよな。魔力ある方なのかね。


「まあ、思ったより移住希望者は多くねえみたいだから。お前さんの回復をのんびり待っても大丈夫だろ」

「通過する人は多いみたいですけどねー」


 目の前にどん、と焼肉定食が置かれる。あ、これグレンさんのお昼か。なにげによく食うな、と思う。……この身体になってから、さすがにちょっと飯の量減ってんだよね。まあ、身体も少し小さくなってるし筋肉減ってるから、燃費が良くなったとも言うんだけど。

 俺の燃費はともかくとして、だ。コーリマで貴族が2軒ほどギタギタにのされて以降、コーリマのある北からやってきてユウゼを通過する旅人の数が増えた。移住者もちらほらいたみたいだけど、ほとんどが街を通過して南、東、西に散っていく。

 それを言うと、グレンさんは肉をがぶりと食らってから楽しそうに笑った。


「ま、言ってもユウゼは小さな街だからなあ。別の大きな国に行ったほうが、今後の生活も安定するだろ」

「別っていうと、南のシノーヨとかですか」


 ラセンさんに教わった地図を思い出しながら言う。

 ユウゼを中心にした地図では、北に行くとコーリマ王国の端っこにつく道がある。南、海沿いを進んでいくと、シノーヨ公国というコーリマよりはちょい小さめの国があるんだよな。

 西は山がちで、峠を越えた向こうにイコンという閉鎖的な国があるらしい。……黒の信者穏健派の皆さんがいるらしいんだけど、国ごとおとなしく山奥にこもってるので特に問題はないんだとか。

 東……は、実は河口から海に出る。海の向こうに別の国があるとのことで、東に向かう人はそっちにある港から出航するらしい。大変だな、皆。

 で、まあ俺が名前を出したシノーヨ。グレンさん、ちょっと考えてから答えてくれた。


「あそこは温暖だからな。春の収穫祭なんか、色とりどりの花が咲き乱れて綺麗だっていうぞ」

「春の収穫祭?」

「あー。こっちじゃ、春と秋にそれぞれ収穫祭やんだよ」


 そういや、暦の読み方教わった時に春の宴の週、とかいうのがあったっけ。宴って何だ、花見かと思ったんだけど、そういうことか。ラセンさん、そこまで教えてくれよー。いくらこっちじゃ常識だからって……変なとこ、抜けてんだよなあ。


「……言葉の意味はわかるよな?」

「ああ、はい、それは。俺のとこだと秋だけ、ってのがほとんどでしたから」

「ほー」


 収穫祭くらい分かるわい。ただ、春もやるってのが意外だっただけだ。でもまあ、春祭りやるんなら悪くはないよなあ。秋は当然として、夏はお盆があるらしいし。


「ま、要するにお祭りがあるんですよね?」

「そういうこった。コーリマは北の国でまだちょっと寒いがな、それでも盛り上がるぜ」

「ユウゼはどうなんですか?」

「俺らが警備でクソ忙しくなるくらいには、観光客が多いな。コーリマよりは南だし」

「はは」

『おまつり、おまつり』


 何でタケダくんが踊るんだよ。まるで笛で踊るコブラみたいだぞ、お前。

 だけど、春のお祭りか。気候も良くなってきて、楽しいんだろうなあ。うまいもん食えるかね。

 ……それまで後何回、このだるいのを越えないといけないんだろうか。こんちくしょう、ここだけは女の身体ってのを恨むー。おのれ黒の信者どもめ。




 飯食い終わって一休みも済んだので、気晴らしがてら街の巡回に行こうと玄関まで出てきた……ところで、扉の外が妙に騒がしいのに気がついた。


「なんですかね」

「また小競り合いかな」


 グレンさんと顔を見合わせる。ま、この人とタケダくんがいりゃ何とかなるだろ、と思って扉に手をかけようとした途端、勝手に開いた。わあ自動ドア、じゃなくって。


「ごめんくださいませ!」

「はい……えー」


 扉の向こうからこっちに見えた顔、俺どっかで見たことあるぞ。いわゆる小役人チックなちょい貧相な顔、痩せた感じの身体に割といい服。うん、シンプルだけど貴族の部下がよく着るようなきちんとした服。


「我が麗しの主、ムラクモ様はおられますでしょうか!」

「ぶふぉっ」


 その呼び方で分かったっていうか思い出したー! うわあ何でいるんだよ、責任者出てこーい!


「むむむムラクモー!? サンジュさんが戻ってきたよー!」

「ムラクモー! とっとと出てきやがれー!」


 当の責任者、の名を俺とグレンさんは、同時に叫んだ。というかマジ、なんでいるんだこの人。

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