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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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64.内緒の話

 その後、エチゴ子爵はそそくさと手続きを済ませてサンジュさんとアスミさんを連れて帰った。護送馬車の中から俺を睨みつけるアスミさんの視線はちょっと怖かったけど、その横でおとなしーくしてるサンジュさんのほうが逆に怖すぎた。ムラクモ、どんなふうに言い含めたんだろ。

 一行が街の外に出たところで、誰からともなくふうう、とでっかいため息が漏れた。俺もついたんだけどね、ほかからも聞こえたから。

 で、その中に領主さんもいた。っと、何か領主さんに一番大変なところ押し付けちゃったみたいだし、お礼とお詫びしないとな。


「領主様、ありがとうございます。ええと……その、偉いこと言わせちゃったみたいでごめんなさい」

「ああ、ああ。気にすることはないよ。今後も何か嫌なことを言われたら、わしやタチバナ隊長にちゃんと言うんじゃよ?」

「え、でも」


 いや、そんなこと言われても。まあ、カイルさんにはちょっとくらい言うかもしれないけどさ。でも、わざわざ領主さんに面倒掛けたくないし。

 そんな思いが顔に出たのか、領主さんは苦笑を浮かべた。


「わしの娘、ミツというんじゃがね。あの子の母親は早うに亡くなったんじゃが、実は『異邦人』でな。いやまあ、生まれがどことか関係なく娶ったんじゃが」

「え」


 そうなんだ。ってことは、割と昔から俺みたいな……ああいや、男が女になったとかそういうんじゃなくて、『異邦人』って来てたんだ。

 だから、俺が『異邦人』だと分かっても、領主さんはごく当たり前に接してくれたのか。あ、でもそれだとほかの人は……ま、いいか。好みはそれぞれ、だもんなあ。


「少なくとも、わしのいるこの街で『異邦人』を貶めることはわしが許さんよ。それだけが、こんなちびで太っちょな男を好いてくれて一緒にいて、子供まで残してくれた妻のためにしてやれることなんじゃ」

「でも、領主様はその奥様を『異邦人』だとかそういうの関係無しで、一緒になったんじゃないんですか?」

「ん……ま、まあな」


 あ、照れた。すごいな、亡くなって何年経つのか知らないけど、まだラブラブだこりゃ。ミツちゃんだっけ、娘さん、いいとこに生まれたよ。


「何なら、そのうちわしの屋敷に来てやってくれんか。同じ世界から来たかどうかは分からんが、祈ってやってくれれば妻もきっと、喜ぶよ」

「はい。そういうことなら」


 領主さんのお誘いを、断る理由はない。同じ世界からか、また別の世界から来たのかは分からないけれど、きっと苦労したんだろうしなあ。

 で、ふと思ったので聞いてみる。


「……『異邦人』って、多いんですか」

「どうじゃろうな。わしが会ったことのある『異邦人』はジョウ殿と、亡くなった妻と、あともう1人くらいじゃからのう」


 領主さんの答えに、俺は軽く首をひねった。いや、3人も会ってりゃ十分多くね? つーか、そうぽんぽん引きずり出してくるなよ、黒の信者。迷惑だなあ、ほんと。




 領主さんがお屋敷に戻るのを見送ってたところに、グレンさんが楽しそうな顔してやってきた。近くにカイルさんがいたのを見つけると、とっとこ歩み寄っていく。


「隊長。ネタ、コーリマに送っときました」

「早いな、グレン」

「善は急げ、ですからね」


 呆れ顔のカイルさんに対し、グレンさんは絶対何か企んでるだろ、という笑顔。気になったので、尋ねてみようか。何か興味あるし。


「カイルさん、グレンさん。ネタって何ですか」

「お? あー、さっきの子爵の言動だよ」


 グレンさんが先に俺に気づいて、にーといたずらっこみたいな顔になった。……何でおっさんって、こういう表情すると子供っぽく見えるんだろうな。


「実は、あのセリフやら表情やらを一部始終をラセンがきっちりしたためていてな。文章に起こしたらしい」

「んで、それを特急お届けサービスでコーリマの偉いさんに送ってみた」

「……はあ」


 ラセンさん、そんな余裕あったのかよ。いや、もしかして録音……って、こっちにゃスマホはないわけだし、その手の魔術とかか? ラセンさんならあり得るか、と思えるくらいにはカサイ一族の実力は伊達じゃないんだよな。その弟子だけどな、俺。

 てか、そんなもん欲しがる人いるんだ?


「いや、多分セージュ殿下辺り心待ちにしてると思うんでね。この手のゴシップネタ」

「へ?」


 セージュって、コーリマ王国の実権握ってるパワフル王姫様? 何でまた、『お国の恥さらし』なネタ欲しがるんだろう。


「グレン」

「おっととと。ジョウ、今の話他の皆には内緒な?」


 カイルさんがため息つきながら名前を呼んだところで、さすがのグレンさんもちょっとだけ顔を引き締めた。でも、俺に内緒な、って言ったときはやっぱり笑顔に戻ってて。あと、人差し指立ててしー、ってこっちでも一緒なのな。分かりやすくて助かるけど。

 というか。


「言いませんよー。わけもわかんないのに」

「だよなあ。ま、半年以内にゃ分かるだろ」


 内緒にしとかなきゃいけない話なのかよ。つまり、国同士とかそういったレベルで問題あるってか。半年で結果出るって、何か早くね?

 ……セージュ王姫様、もしかしてあのハゲ親父潰したいのかな?

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