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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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61.のんびりしたのは一瞬だけ

「戻ったぞ」

「ただいまー」


 新年ということで、ちょっとした飾り付けをしてある宿舎の玄関を2人揃って入った。あ、飾り付けの意味合いは要するに太陽神様新しい年ですよー今年も元気よく行きましょー、という景気付けだそうな。何か軽いんだよなあ、太陽神さんって。

 中に入ると、正月からせっせと書類片付けてるマリカさんがいた。まあ、黒の神殿関係とかいろいろ書類溜まってるらしいし。俺もそれなりに文字覚えたんだけど、まだ書類に手をつけるには至らないのでラセンさんやマリカさんに代筆してもらってる。この辺は、早くなんとかしないとなあ。

 で、マリカさんは俺たちに気づいて立ち上がった。ちょうどいいから、休憩の理由付けにでもしてくれ。


「あ。隊長、ジョウさん、お帰りなさい。守り、いただけたようですね」

「分かるんですか?」

「ええ。何となくですが」


 外見上は変化なんてないはずなのに、よく分かったな。でもまあ、マリカさんは分かったらしくほっとしたようににこっと笑ってくれた。あーやはり、美人の笑顔はいいもんだ。

 ……外から見ると、俺の笑顔もそれなりにいいものらしい。ので、まあ頑張って笑うようにはしている。いくら美人でも、むすっとしてるよりは笑ってるほうが見る方の気分もいいもんだしな。俺も見られる方だってのは、1ヶ月も女やってりゃそれなりに分かってきてるわけだし。

 あー、見る方オンリーになりたかった。男でも見られる方、な人はカイルさんみたくいるけどさ、俺イケメンじゃなかったしなあ。まだ武田のほうが、顔良かった。うん。


「隊長。グレンさんから文が届いてます」

「見よう」


 思い出したようにマリカさんから手渡された封筒を開いて、ざっと中身に目を通す。それからカイルさんは、くるりと周囲を軽く見渡して当然のように名前を呼んだ。


「ムラクモ」

「は」


 音もなくすっと現れる辺り、ムラクモはやはり忍びである。最近は全然忍んでない忍者がえらく多い、と向こうのテレビ番組を思い出してみてたわけだけど、こっちはちゃんと本職だしなあ。


「数日中に、コーリマがサイジュ殿を引き取りに来るらしい。アスミも連れて行く可能性がある、準備をしておいてくれ」

「承知しました。あちらの命に応じるよう、よく言い聞かせておきます」


 カイルさんの言葉に、ムラクモは頭を下げた。

 サイジュ殿って……あーあれだ、ムラクモに尋問されて何でか忠誠誓ったグンジ男爵んとこの側近さん。確かどっかで名前聞いたの、すっかり忘れてたぜ。地下牢には近寄るな、って言われてたし。


「頼む。グレンとタクトが案内してくるようだ」

「グレンさん? ってことは、帰ってくるんですね」

「そういうことだ。引き取りに来るコーリマの役人の護衛として、一緒に帰ってくる」


 おお、そうか。グレンさんたちはユウゼに帰ってこられるし、コーリマのお役人さんは護衛雇う手間が省けて一石二鳥、と。……帰りはどーすんだ、帰りは。


「役人の護衛が2人なわけがない、ほかにも兵士を連れてくるはずだ。グレンたちはうちへの案内を兼ねているのだろう」


 ムラクモに聞いてみたら、そういう答えが帰ってきた。よく分かった、なるほど。

 そういえば、俺は自分とタケダくんの情操教育その他諸々に悪いのであんまり近づかないようにしてた、ので事情がさっぱりなんだが。


「……側近さんとアスミさん、どうなってるんですか? 現状」

「知らないほうが良い世界もあるんだよ、ジョウ」


 やたらにっこりと笑って、カイルさんはそんな風に答えた。

 あ、これもしかして、現場にかち合ったことあるな。それも、マジで見ないほうが良かったってやつだ。

 カイルさんが答えてくれそうもないので、マリカさんを振り返ってみる。


「マリカさんは知ってるんですか?」

「知らない知らない、知りたくもないわ」


 ぶんぶんと大きく首を振るマリカさん、何か顔が青ざめてるし。

 ……何というか、偉いことになってるんだろうなというのは分かりやすく想像できた。あれか、ムラクモ女王様ハァハァとかか。確か側近さんって、白黒コンビと似たり寄ったりの年齢だって聞いたような。

 ハクヨウさんやコクヨウさんが、ムラクモの前にひざまずいて、じょおうさまなんでもごめいれいをはぁはぁ……?


「……うわあ……」


 つい口から出たのは、地を這うような俺の声。いや、これでも男だった時よりはずっと高いんだけどさ。

 その声でマリカさんもムラクモも、そしてカイルさんも俺を見た。あーうん、変な声だよねえ。そして、状況が状況だから理由も分かったよなあ。


「ジョウ。今更遅いとは思うが、想像もしないほうが身のためだぞ」

「今よく分かりました……」


 カイルさんが顔をひきつらせてる。あーうん、やっぱり分かったんだろうな。白黒コンビをサンプルにしたのが分かったかどうかはともかくとして、だ。

 ふと、そのカイルさんがムラクモに視線を戻した。


「それで、どうだ?」

「サイジュ殿は素直に白状してくれていますが、アスミは相変わらず何も答えません。食事は最低限摂っているんですが、何を考えているのか分からないのが」


 なるほど、とっ捕まえてる2人の状況把握か。うんまあ、すっかりあっちの世界に行ってるサイジュさんはともかくとして問題はアスミさん、だよなあ。

 食事しないんなら自殺狙いとも思うんだけど、そうじゃないとすると……あー。


「飯食ってるなら、逃げる方法でも考えてるんじゃないですか? 体力要りますもん」


 いや、俺ならそうするよ。腹が減ったら戦はできないんだしさ、飯食ってるってことは戦うつもりってことなんだろ、多分。

 だから俺がそう言うと、カイルさんは「そうだな」と頷いてくれた。


「1人で逃げるつもりならともかく、仲間が近くに潜伏している可能性もある。各自気をつけてくれ」

「分かりました。通達しておきます」

「承知しました」


 マリカさんとムラクモが同時に頷いて、それから俺に向かって笑ってくれた。

 俺の意見を素直に受け取ってくれて、何かほっとした。まだまだ新参者なのにな。うん、俺も頑張らないと。

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