60.隊長さんと
神殿を出て、のこのこと宿舎への道を歩いて行く。
新年というのはこっちでもお祝いのようで、街中何となく雰囲気がはしゃいだ感じになっている。明るい色の飾りで街が彩られてて、年末まで地味な色だったのになあとちょっと感心した。
それにしても、あの神官さんすごい……んだよな。ふと、並んで歩くカイルさんに視線を向けてみた。
「神官さんって、神様の声聞けるんですねえ」
「そのようだな。俺も聞いたことはないんだが、祈った内容をさっきのようによくよく当てられる」
カイルさんもこっち見て、感心したように少しだけ笑った。ん、祈った内容?
それって、別に神様の声聞こえなくてもよくね?
「……もしかして、聞こえるのはこっちの心の声、とか」
『ぼく、よくわかんない』
つい、声に出してみる。タケダくんは首をひねってるんだけど、そもそもお前さんは俺としか会話できないだろうが。ああいや、伝書蛇同士はそれなりに意思の疎通が可能らしいけど。だからタケダくん、カンダくんと仲いいんだよね。
「そうかもしれないな。まあ、どちらでもいいさ。それで問題さえ起きなければ」
「案外大雑把なんですね、カイルさんって」
「余り繊細だと、傭兵はやってられないからなあ」
今度はあはは、と声出して笑った。もともとがイケメンなんでどういう表情でも見れるんだけどさ、なんてーか明るい笑顔のほうがこの人はいいな、と思う。
……思わせるな、このイケメンめ。というか、あの神官さんが俺の心読めるんならこれ、バレバレなんだよなあ。
「……あ」
やっべえ。
一応外面的には『育ちがあんまりよくなくて男言葉使う小娘』って感じで受け入れられている俺なんだけど、実は『異邦人』かつ元男、なんてのはさすがに心の中まで隠せはしない。
「カイルさん。あの人がこっちの心が読めるんなら、俺やばいかも」
「ん? ……ああ」
慌てた俺、もしかして変な顔になってるかもしれない。いやだって、『異邦人』なのはともかくもともと男でした、なんてのが知られるとさ、ほら何か変な顔されそうだし。カイルさんも、そこら辺が心配で言わない方がいい、って最初に言ってくれたしな。
でも、カイルさんの方は俺の顔を見て、「心配するな」と言ってくれた。ほんとかね。
「レッカ殿は頼りになる神官だよ。俺がこの街に来た時から、世話になっているからな。大丈夫、言わずにおいてくださるよ」
「そうなんですか? なら、いいんですけど」
「もちろん。大体、万が一何かあったら、神殿に駆け込めと皆には言ってあるんだ。レッカ殿ならば、必ず力になってくれる」
こら、やばいフラグ立てんなこのイケメン。
そのレベルの万が一ってつまり、傭兵部隊壊滅とかそこら辺まで行っちまうだろうが。さすがに街が壊滅、とかになってしまったら、神殿に逃げ込むことすらできなくなるわけだけどな。
でも、そんな時に頼れってことは本当に大丈夫、なんだろうなあ。いやさ、アスミさんっていう前例あるし。
信用しなさすぎるのも、問題だってのは分かってるけど。もしかして、そこら辺が黒の信者の狙いだったりするのかね。
……ふと、隣を歩いているこの人すごいんじゃないかって思った。偉い人とか偉い人とかが、この人と仲がいいし。
「カイルさん、実はすごい人だったりします?」
「何故だ?」
「いやだって、この街の偉いさんと結構仲いいですし」
「そりゃ、ユウゼの守りを任されているからね。上層部と仲良くなければ、やっていけないよ」
うんまあそうなんだけどさ。でも、何というか。
カイルさんに対して、領主や街の神殿の神官が結構信頼してるっぽい。確かにカイルさんは街守ってる傭兵部隊の隊長だけど、それだけじゃないだろう、あれ。
あーもー、どうやって説明すれば良いのか分からんぞ。ついつい髪をかきむしる。
その俺の手を、少し困った顔したカイルさんが止めてくれた。
「……ジョウが何を言いたいのかよく分からないんだが、何がすごいか、の定義にもよるだろうな。俺自身は見たまんま、だと思うぞ」
「はあ」
表情変えずにそう言ったカイルさんに、俺はもう、頷くしかなかった。いやだって、説明しようがねえしな。
まあ、うん。確かにカイルさんは見たまんまの、傭兵部隊隊長タチバナ・カイルさんだろう。
「そうですね。見たまんまのカイルさん、でいいですよね」
「そう言ってくれると助かる」
……おーい。
その言い方は、他に違う見方があるって言ってるようなもんだぞー。
なんてーか、この人の周りに人が集まる理由のひとつがわかった気がした。変なところでボケかましやがるから、ほっといたらやばいことになりかねないからだ。うわ、有能なのにそれってめんどくせえな、隊長。




