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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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58.素早い彼は

 それから、3日が経った。

 アスミさんは宿舎の地下牢で尋問を受けているらしいんだけど、俺は近寄るなって言われてるので分からない。カイルさんが「お前とタケダくんの教育に悪いから」って言ってたんだけど、つまり尋問ってそっち方面なのか? いいのか傭兵部隊、いや正義とは言わないけどさ。

 んでアスミさんは全くしゃべらないんだけどその代わり、ムラクモに忠誠誓ったというか見てきたコクヨウさんによれば彼女をお姉様と呼んで崇拝するレベルになったらしい男爵の側近さんがまあペラペラとしゃべったらしい。これは見ろと言われても見たくねえよ、うん。


「つーわけで、留守頼んだ」

「戻れるのは年明けてからになりそうですね」


 そんなわけでゲットできた情報をしたためた書類を持って、グレンさんとタクトがコーリマ王国の王都に向かうことになった。ちなみに漏れ聞こえてきた噂では、グンジ男爵の領地は上を下への大騒ぎになってるとかなってないとか。距離があるので、詳しいことはまだよくわからない。

 街の出入り口である門の前で見たのは、コクヨウさんが引っ張ってきた翼の大きなカラス顔の馬2頭。まだいまいち見慣れないそいつらの横で、いつもよりいい服の上に良質の革鎧着てる2人は結構かっこよかった。2人ともそれなりにイケメンだしなあ……あー羨ましい、俺もあんなふうにカッコつけてみたかった。


「頼んだぞ、グレン、タクト」

「お任せを」

「はい、任せて下さい」


 見送りに出てきたカイルさんに、グレンさんとタクトは自信満々の笑みを浮かべて答える。ひょい、とわりかし背の高い馬に乗る姿もかっこいい。あーもー何で俺は男のままでこっち来なかったんだ、ああやってひらりと馬に乗ってみてえ。……いや、向こうでも乗ったことないから普通にずっこけるか。


「んじゃ、行ってまいります」

「ジョウさん、行って来まーす」

「え? お、おう行ってらっしゃい、気をつけてなー」


 タクトに名前呼ばれて、慌てて手を振る。タクト、お前、俺はやめとけ。男だぞ、中身。

 んなこと考えてる俺の前で、2人を載せた2頭の馬は門の外へ駆け出していった。日中は一応開いてるんだよね、この門。門番さんが外と中、それぞれ数名ずつがっちり見張ってるけど。

 その門番さんも見送ってくれた2人の姿が見えなくなると、カイルさんはやれやれと肩をすくめた。


「年末年始にあんな仕事を押し付けて、ちょっと悪い気がするな」

「そうでもねえっすよ。年始めなら王都は賑やかでしょうし、ちょっとくらい楽しんでくるんじゃないすか?」

「なら良いんだが」


 隣りにいるコクヨウさんが、ニンマリと楽しそうに笑う。うん、俺プラスタケダくんと、あとカイルさんとコクヨウさんで見送りに来てたんだよね。

 他の皆は休んでたり見回りしてたり……ムラクモは例によって例のごとく、アレな。ラセンさんが一緒に見ているらしい。大丈夫か、ラセンさんはともかくとしてカンダくん。

 ……そっちも気になるんだが、差し当たってはグレンさんとタクト。グンジ男爵の悪事書き連ねた書類を持っていくわけなんで、あの2人が黒の信者に狙われても不思議じゃないんだよね。


「大丈夫なのかな、あの2人で」

『あかいおじちゃん、つよいからだいじょぶだよ』

「おじ?」


 思わず呟いたひとりごとに、肩の上でタケダくんが返事してきた。って、あかいおじちゃん?

 赤って言ったら、ああ、グレンさんの髪の色か。お前、そういう認識してるのか。


「……あ、グレンさん?」

『あかいおじちゃん。だいじょぶだよ』

「そ、そっか」


 こくん、と小さな鎌首を上下に振ってタケダくんは、ぱたんと翼をはためかせた。グレンさんは強いので大丈夫、というのがタケダくんから見た認識か。そうすると。


「……タクトは?」

『ちっちゃいおにーちゃん? えっとね、まだまだ』

「……そっかー」


 わー、ぶっちゃけやがった。確かに傭兵の皆の中ではちっちゃいけど、比較対象間違えてるからな。片目のおっさんとか白髪のおっさんとか赤い髪のおっさんとか脳筋トリオとか、だからな。

 ってところで、視線に気がついた。慌てて顔を上げると、一緒にいる2人がこっちガン見してる。


「どうした? ジョウ」

「……あ、実は」


 カイルさんは不思議そうな顔をしてる。コクヨウさんはタケダくんを見てるみたいなので、何か言ってたなというのは分かった模様。まあ、声聞こえなくてもしゃーしゃー言ってるしな。

 なので、隠さずにぶっちゃけてみた、結果。


「ぶはっ」


 タクトに対するタケダくんの感想で、コクヨウさんが吹いた。カイルさんも苦笑してる。まあなあ、タケダくんの意見だもんなあ。


「生まれたばっかの伝書蛇にまだまだって言われたか、あいつー」

「まあ、否定はしないが……しかし、はっきり言うなあ」

「俺もタケダくんも、人のこと言えないんですけどねえ」


 はっはっは、と三者三様の笑い方をしてみた。傍から見たら、変な3人組だろうなあ。んでひとしきり笑ってから、今度はコクヨウさんがぶっちゃけてきた。


「まあ、タクトはもともと傭兵じゃなくてスリだったしな。戦闘はまだまだなんだろ、蛇から見たら」

「スリ? えーと人の懐からお財布とかくすねる、スリですか?」

「おう、それ」


 ああよかった、意味は同じらしい。ってマジか。まあ、確かに何か素早いところあったけどさ。


「んで、そのスリが何で傭兵になったんですか」

「グレンの懐に手を突っ込んだところで、あいつが捕まえてな。俺のところに引っ立ててきたんだ」

「若がその素早さは見るべきものがあるっておっしゃってな、グレンが師匠になって根性鍛え直したってわけよ」

「ああ、それでなんですね」


 カイルさんが当時のことを思い出したのか、楽しそうに笑う。コクヨウさんもがははと歯を見せながら、言葉を続けてくれた。そうか、この傭兵部隊って更生施設も兼ねてたのか。

 いやまあ、俺もラセンさんの弟子になって魔術修行してるから何となく分かるけど。鍛え直されるよな、あれって。もうひねてる場合じゃねえし、終わった後の飯が美味いこと美味いこと。

 まあ、タクトも俺も拾われた環境が良かったんだろうな。だから、こうやって笑ってられるんだから。

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