表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/341

49.きつい匂いは魔除けの匂い

 店を出て道に立つと、あーなんかすっきりした。いや、あのお香の匂いとか化粧品の匂いとか充満した空間から出たわけだからさ。外の空気美味しい、ほんとに。

 ……ん、空気?


「タケダくん、大丈夫かー」

『ぷは。すごいにおいだったー』


 慌てて内ポケットから、ちっこい蛇を引っ張り出す。幸いタケダくんは平気だったみたいで、数度頭をぷるぷる振ってから俺の肩にちょこんと戻る。原理はよく分からんが、ポケットすげえ。


「ありゃま。いねえと思ったら、中にいたのかよ」

「タケダくん、まだ子供だもんな。そりゃ、ああいう店の匂いはきついさ」


 コクヨウさんが目を丸くしてる横で、グレンさんがひょいと指を出して撫でてきた。……タケダくん、なにげにグレンさんには懐いてるなあ。もしかして彼、魔術師の素質あるんだろうか。

 そんなこと考えてた俺の頭の中を読めるわけもなく、グレンさんは苦笑を浮かべてこんなことを言ってきた。


「娼館で焚いてる香な、使い魔除けの意味もあるんだよ。ああいう部屋もあるくらいだしな」

「そうなんですか? やっぱり、防犯というか……」

「そういうことだ。ま、こういう店にあまり入り浸りすぎるのもスキャンダルになるからな、それがバレるのを嫌がる上客もいるってこった」


 説明されて納得した。タケダくんはまだ小さいけれど、伝書蛇って羽さえたためば結構狭いところでも入っていける。そらまあ、蛇だもんな。それで、盗聴とか監視とかできるわけだ。

 こっちじゃこの手のお店は当たり前の存在だけど、でもやっぱり好ましく思ってない人はいるわけで。特にお貴族様とかな……んで、嫌な相手をコッチ方面から切り崩すってのはこっちの世界でもやってるようだ。

 それを防ぐための、あのお香か。……そりゃまあ、犯罪のための会議場とかに使われてもおかしくねえか。


「『兎の舞踊』は店長が隊長や領主と懇意でね。だから、何か問題があった時はちゃんと協力してくれるの。そうでなければ、こうやって堂々とお店を続けてられないでしょうね」

「はあ……」


 まあ、確かにアオイさんやコクヨウさんとも仲いいみたいだし。そういうことなら、大丈夫……なのかな。うむ、俺にはまだ良くわからん。

 ちょっとだけ考えこんだ俺の横で、アオイさんは「コクヨウ」と名を呼んだ。


「何すか?」

「アスミの方、裏取って。あっちも染まってる可能性がある」

「ですよねー。行き先聞いてるんで、ちょっと行って来ます」


 コクヨウさんも既に言われることは分かってたのか、はいはいと当然のように手を振った。ただ、片方しかない目がえらく真剣だったのが、俺には気にかかる。


「ジョウ。一旦戻るわよ」

「あ、はい」


 気にはかかるんだけど、アオイさんに呼ばれたので行かないとな。多分、今の俺がくっついて行っても何か足手まといになりそうだし。

 その俺の背中をぱん、と軽く叩いてグレンさんは、ちらりと横目で俺を見つつ言ってくれた。


「コクヨウなら、大丈夫だよ。あれでもうちの連中じゃ一番の腕なんだからな」

「……はい」


 なら、いいんだけどな。




 宿舎に戻ると、マリカさんがぱたぱたと駆け寄ってきた。肩にはちょこんと、薄緑色の伝書蛇が乗っている。もちろん、ラセンさんのカンダくんだ。


「お帰りなさい。カンダくんが早文を持って来ましたんで、おそらく夜にはお戻りになるかと」

「ありがと」


 彼女の手から小さくたたまれた文を渡されて、アオイさんはその場で開く。ざっと目を走らせて、ふむと小さく頷いた。グレンさんが目を細め、その紙に視線を向ける。内容は……読めてない、な。


「どうです?」

「グンジの手下を1人、生け捕りにしたみたい。とりあえず、持って帰ってくるって」


 はっきりとは言ってないけど、マジで本戦は終わったっぽいかな。俺を助けてくれた時みたいに、残党狩りとかしてるんだろうと思う。でも、えらく早いなあ。

 グレンさんが顎撫でながら、「早いっすね」と俺と同じことを言った。やっぱり、気になるんだろうな。それとも、あっちも実は囮だったとか。


「にしても、生け捕りってこたあ証人ですか。自殺なんざさせてないでしょうね」

「ムラクモが一緒だもの、大丈夫よ。芸術的に拘束してるわ、きっと」

『あー』


 最後のあー、は俺とグレンさんとマリカさん、3人同時のものだ。アオイさんは、全力で顔をひきつらせている。いやまあ、全員ムラクモの拘束方法は知ってるもんなあ。

 あの特殊な縛り方に、猿ぐつわかあ。ははは、他人事だからいいけど自分はやだぞ、あれ。しかも、あのままで荷物みたいに運んでこられるんだろうなあ。時間帯にもよるけど、見世物だ見世物。うわーマジこっ恥ずかしい。

 ……ふと、アオイさんの顔が妙に渋い表情になった。


「それと、向こうにも妙に強い魔術師がいるみたい。荒っぽいやり口なんだけど、ラセンが苦戦したそうよ」

「うわ」


 え、何だそれ。というか、そんな奴がいて早く終わった……あ、撤退されたか、もしかして。

 ってーか、マジで向こうも囮? やだなあ、相手の狙いが分からなくなってきたよ。つか、狙いなんかあんのか?


「ラセンさんが苦戦するレベルの魔術師って……」

「それでもう終わってるんだから、向こうは既に目的を達成していたか、それとも囮かってところね。詳しくは、カイル様がお戻りになってから分析しましょう」


 さすがにマリカさんも、顔を青ざめさせている。それに対してアオイさんと、何も言ってないけどグレンさんは冷静なもんだ。場馴れしてるかしてないか、の差なんだろうか。

 でもほんと、カイルさんたちが戻ってきてくれないとこれ、はっきりしないよな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ