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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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46.可愛い子には声をかけろ

 お座敷に向かおうとしたところで、別の入口……というかあれ、従業員用の通用門だよな。そこからひょっこりと顔を出した人がいる。黒髪短髪隻眼の、大変よく知ってる傭兵さん。


「お、副隊長?」

「あら、まだいたのコクヨウ。仕事さぼってたんじゃないわよね?」

「そんなことしてませんよ。ついでに怪しい連中いなかったか聞き込みしてただけで」


 アオイさんと顔合わせても悪びれない様子で、まあほんとに個室にしけこんでたわけでもなさそうだ。

 小さくグレンさんが溜息ついたのは、まあいいかと気を取り直すためだったりするかもな。


「怪しいのはいたのか?」

「どうせ分かったから来たんだろ。成金男爵回り当たってんだよ」

「やっぱりか。店長に話聞くから、お前も来い」

「へーい」


 グンジ男爵さん、成金男爵で通っちゃうんだ。ということは、大概の人の認識がそれで間違ってないんだろうな。少なくとも、この街にいる人は。金遣い荒いのかね、やっぱ。

 ま、そんな感じでコクヨウさんも加えて4人で、お座敷にお邪魔する。さすがに和風なお座敷じゃなくて、要するにゴージャスな応接間だった。つってもあんまりキンキラじゃなくて上品な感じで、そりゃお忍びでお貴族様とか来る店だよなあと何か納得。


「どうぞ座ってちょうだいな。お仕事中だし、お茶でいいわよね?」

「構わなくていいわよ」


 アオイさんが肩をすくめて答えるんだけど、あれガチで断ってるわけじゃなさそうだな。何となくだけどさ、こういう応接間で出てくるお茶って、すごくいいものみたいな感じするし。

 その俺の予想は間違ってなくて、シンプルな白のカップで出てきたお茶は花の香りがした。一口飲んだらこう、さっぱりした甘みが広がる。砂糖いらねえわこれ。

 で、お茶菓子のクッキー共々全員に行き渡ったところで、話は始まった。


「……と言ってもねえ。さすがに、こういったところで馬鹿なこと漏らすほど頭弱かったわけじゃないのよね、グンジ男爵って」


 シンゴさんの肩のすくめ方って、何か色っぽいんだよな。こういうオネエサンだから当然なのかな、とも思う。……俺は外から見たら、がさつな小娘に見えるのかね。


「ただ、オウイン王家とケンレン様にはちょこちょこ不満は持ってたみたいだけどね」

「あ、やっぱり?」


 そのシンゴさんの言葉に、俺はあれっと思った。お金でなった貴族の人が、何で独立した街の領主様に不満持つんだろ。

 ……何となく、コクヨウさんに聞いてみる。


「ケンレン様って、領主さんですよね。何でグンジ男爵が不満あるんですか?」

「あ、あれなー。もともとはどっちも商人の家なんだが、ケンレン家がユウゼの領主になったのがグンジの当主には納得いかなかったらしい」

「自分のほうがオツムが良いのにとか、自分がユウゼの領主になればもっと街は繁栄するとか、そういうことばっかり言っててうんざりってうちの子たちもね、言ってたの」


 コクヨウさんの説明と、続いて入ってきたシンゴさんの説明でへえ、と思う。そっか、商人さんだったから流通の街の領主さんとしてもそれなりにやってけるのか。あちこちの国相手に、商売やってるようなもんだものな。

 んで、それをお仕事の女の子たちに愚痴ってたわけかよ。まあ、黒関係の愚痴とかじゃないだけまだましな頭してんだろうなとは思うけど、でも面倒だよな。女の子たち、正面切ってやだとか言えなさそうだもんな。お金落としてくれる、お客さんなんだから。

 ここまで言ったところで、シンゴさんがふうと小さくため息をついた。……何か、身体女なのに女性的に負けてるな、俺。いや、勝ってもあれなんだけどな。


「ただ、マヤはちょっと違っててねえ。ご当主の言うことにいちいち同意してたみたいで、それでご当主もひいきにするようになったのね」

「あ、それは俺も聞いた。後、マヤと仲の良いアスミか? そいつも同調してたって」

「そうそう」


 コクヨウさん、ちゃんと話を聞いてたらしい。思い出すように口にされた名前に、シンゴさんもこくこく頷いた。


「あの子たち、自分がハナビより人気ないのが納得できなかったみたいで。自分の方がお客様を満足させてあげられるはず、なんてよく言ってたわあ」

「満足って……あっちの方、ですか」

「そうよ、こういうお店だもの」


 そうでした。

 参るよなあ、そういうことなんだもんな。……というか、その場合の自分の方がって、どうやって比較するんだ? 同じお客さん相手にして、後で感想聞くのか? やだぞ、何か。

 で、何でシンゴさんは俺のことガン見してるのかね。


「……お嬢ちゃん、処女なの?」

「ぶっ!?」


 お茶口にしてたら、シンゴさんの顔面に吹き付けてるところだったぞ。あーあーあー、顔が赤くなるのが分かるぞこんちくしょう。

 と言うか俺処女だよな? やばいところ助けられたんだもんな? その後は確実に、何もやっておりませんからしてってかんべんしてくれー。

 わたわたしてる俺を見かねたのか、グレンさんが「はいはい」と間に入ってきてくれた。いやもう、さすがにこの手の話は……慣れないといかんのか、やっぱり?


「反応見りゃわかんでしょうが。勘弁して下さいよ、店長」

「あらあら、ごめんなさいねえ。お店やってるとねえ、こういう反応もう可愛すぎて可愛すぎて」

「だからって、うちの新人いじめないでください」

「ほんと、ごめんねえ。可愛がられてるのねえ、お嬢ちゃん」


 苦笑するグレンさんに呆れ顔のアオイさん、対してシンゴさんはマジ楽しそうにきゃらきゃら笑っていらっしゃる。あーこの人、アオイさんたちがいるから止めてくれるだろとか思って言いやがったな。おーのーれー。


「お前も、すぐにとは言わねえが慣れろよ?」

「……………………はい……」


 まさか、困り顔のコクヨウさんにそんなこと言われるとは思わなかったけど。とりあえずしかたのないことなので、俺は頷いた。

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