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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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44.女性の恨みはあまり買うものではありません

 コーリマ王国。ユウゼの街の北にある、まあ名前の通り王政の国だ。

 北の方なんで、やっぱり寒い地方らしい。とはいえ、現在の王様であるゴート王のもとそれなりに堅実にやっているそうだ。メイン産業は羊毛とか漁業なんだけど、今のゴート王に代替わりしてから軍を強化してるらしい。……いや、今の王様が割と脳筋らしいって噂なんだけどね。

 このへんは、ラセンさんから文字勉強ついでに教わったもの。独立した街に住んでる場合、こういった周辺国の事情も知っておいたほうが何かと便利なんだってさ。

 こういった時みたいに。


「コーリマの外れの成金男爵っつったら、グンジ男爵家ですか。そうか、あそこかよ」


 グレンさんは件の男爵家を知ってたらしく、ふーむと顎を撫でる。金で地位買った成金が悪いとは言わないけど、あの反応見ると少なくともあんまりいい家じゃないようだな。


「そのグンジ男爵って、どういうお家なんですか?」

「……そっか、ジョウは知らねえか」

「あの男爵家ねえ、金さえあれば何でもできると思い込んでる成金の典型なのよね」


 とりあえず実際のところを聞いてみると、グレンさんは肩すくめて困ったような顔をした。代わりに口開いたのはアオイさんの方で。


「領地も爵位も金でゲットしてさ。それでも、ちゃんと統治すりゃ誰も文句言わないんだけど……金で雇った役人がまあ無能ばっかりでね。肥え太るのは男爵だけだってさ。そんなだから嫁も来ないし」

「……まあ、嫌ですよね。そういう家に嫁に行くのって」


 俺は中身男だけど、立場逆にして考えてみたらまあ理解はできる。金にあかせて何でもかんでも言うとおりにさせるようなお嬢様だかオバサマだかの婿には入りたくねえわ、絶対いびられそうだ。もしくは干からびてしまうか。


「それでも表向きにはそれなりにやってるんで、王家としても余り強いことは言えなかったみたいね」

「それ、何で強く言えないんですか。統治ド下手クソなんでしょ」

「まあそうなんだけどねえ」


 アオイさんはどうもグンジ男爵さんに何かの恨みでもあるのか、ものすごーく嫌そうな顔でまくしたててるんだよね。女性の悪口って、何かこええな……これも慣れなくちゃいけないのか? 俺。わあ、自信ねえ。


「少なくとも年貢はちゃんと納めてるし、男爵領って木材が特産なんだけどそれはまあちゃんとやってる、というか。重要拠点の修復とかにも金出してくるし」


 あー、林業もか。なるほど、寒い地域でも頑張って木は育つよなあ。こっちって石造りの家も多いけど木造の家も多いし、そら必要だわ。てか、ここも金にものを言わせてるのかよ。

 ……あれ? 木ってさ、植えて数年とかで育つもんじゃねえよな? ということは。


「グンジの家が入る前からちゃんとやってたから、それなりの木が育ってただけですよね? それ」

「よく分かってるじゃないの。そうなのよ、その前の領主が頑張ったのに、おいしいとこだけ持って行きやがって全く」


 うん、絶対アオイさん、何か恨み持ってる。お貴族様だからうかつに反撃できなかったんだな、きっと。

 その証拠に今、にやありとどこか黒い笑みを浮かべたもんな。ほら、グレンさんがマジで引いた。数歩後ろに。


「でも、ユウゼの住民を黒に汚染させて暴れさせた黒幕、ってことになれば王家も喜んで手を出すわね。特にあの王姫様が」

「おうひめ、さま?」

「今の国王陛下の長女。事実上の次期国王というか、もう代替わりしてるようなものね」


 楽しそうにアオイさんが口にした言葉に、へえと思った。

 今のゴート王になってからえーと40年だか、そのくらい経ってるらしい。でも、ゴート王はかなり若くて王になったらしくて、今50代後半とかってラセンさんが言ってたよな。あ、貴族の平均寿命は70代だとさ。庶民と食うものや環境が違うんだと。良い物食ってるから贅沢病とかあると思うんだけどねえ。


「セージュ殿下っておっしゃるんだけど、まあ敵殴るのが大好きというか何というか。目の前の敵は自分の拳で殴り倒すのが趣味、でねえ」


 ……なるほど、その王姫様とかいう方はアオイさんみたいな感じの人か。いや、口には出さないけどさ。


「副隊長そっくりですにゃっ」

「グレン、お前一言多いよねー」

「アオイさん、グレンさんの顔に型つきますよ?」

「そしたら、結構美形になりそうだけどねえ」


 一言多いのは俺もそう思うけどさ、言葉が終わる前に顎引っ掴んでギリギリ絞るアオイさんも大概だと思う。これとよく似た人が、王国の実質的な権力者ってどうなんだろう……いや、父親が脳筋なんだから血筋か?

 型まではつかなかったけど赤くなった顎をさすってるグレンさんに、アオイさんは黒い笑顔のまま頼み事、という名の命令を出した。何しろ副隊長だもんな、アオイさん。


「一言多いついでに、カイル様がお戻り次第お使いを頼まれてくれない? コーリマ王都まで」

「できれば確固とした証拠が欲しいんですがねえ。俺は貴族相手は苦手で」

「私よりはうまいじゃない。証拠は何とか探してみるよ。ジョウ、手伝いな」


 あ、久しぶりに話振られた。まあ、そういうことなら俺にも異存はない。というか、俺をこういう事態に巻き込んだ連中をしばき倒してもらえそうだし。当人かはともかくとして。


「あ、はい。悪さの証拠探しなら、いくらでも手伝いますよ。な、タケダくん?」

『わるいやつのしょうこ? うん、ぼくさがすー』

「やる気だな、お前」


 言葉は分からなくてもさすがにそういうことはわかったようで、グレンさんはまたタケダくんをなでてくれた。ムラクモみたいな暴走はちょっと困るけど、でも使い魔を可愛がってもらえるのはまあ、嬉しいかな。

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