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42.巡回、という名の散歩

 黒の影響受けた連中を地下牢に放り込んだ後で、俺はアオイさんに呼ばれた。というよりは、腕引っ張って持ってかれたと言った方が正確か。


「とりあえず、巡回行くよー」

「はーい。ちょ、自分で歩きますからー」


 ズルズル引きずられちゃ、何もできないってーの。アオイさん、マジで力あるんだよなあ。初めて会った時絞め落とされそう、と思ったのはまず間違いじゃねえな。うん。

 でまあ、俺たち2人にグレンさんも加わって、3人でちんたらと街中を散歩する。うん、巡回とは名ばかりでどう見ても散歩だ、これ。さっき一騒動あったにしては、2人とものんびりしてやがんな。

 ……そう思ってたのは、俺だけっぽい。人気の少ない裏道を歩きながら、アオイさんがちらりとグレンさんに視線を向けた。


「グレン。どう思う?」

「何をですか」

「差し当たっては、黒」


 あんまり具体的な言葉使わないけど、要するに黒の信者の連中について、だよな。この場合は。

 で、グレンさんも少し考えてから、アオイさんに答える。


「本命はあっちだと思うんですが、それにしちゃこっちの担当が荒いですねえ」

「だねえ。もうちょい本気出してくれてもいい、と思うんだが」

「荒い、ですか?」


 ちょいと分かりにくかったので、恐る恐る口を挟んでみる。俺に聞かせても良い話だから、俺のいる場所で話してるんだろうし。だったら、俺が分かりづらかったら聞いてもいいんだよな。


「うん。要するにね、こっちにもいるはずの黒の信者が見当たらないってこと。囮にも指揮官は必要だろ」

「あー」


 アオイさんの端的な説明で、納得した。言われてみれば、誰かが指揮取ってないとおかしいよなあ。まあ、時間になったらどこそこ襲撃、ってことならその時間だけ教えていればいいんだけど……でも、襲ってきたのは信者じゃなくて、単に黒の影響を受けただけの、一般人のはずだから。


「見当たらなかったってことは、回収したのって全部影響受けた組ですか」

「そうみたいだね。タケダくんもあんまり反応しなかっただろ」

「タケダくん?」


 何でそこで、うちの蛇の名前が出てくるんだ。そう思って肩にちらりと視線を向けると、この小さい白蛇はえっへんと胸を張るようにして、答えてくれた。


『えっとね、ものすごくわるいやつはいなかった』

「……ものすごく悪い奴はいなかった、って言ってますね」

「そうか。お前さんにとっちゃ、黒の信者はものすごく悪い奴なのか。なるほどなあ」


 タケダくんの言葉を伝えると、グレンさんが楽しそうに笑った。というか、そういう認識なのか、タケダくん。


「まあ、確かにグレンさんのとこまでは道案内してもらいましたけど。伝書蛇って、そこまで分かるんですか」

「かなり敏感だぜ? ラセンのカンダくんには、この前の神殿の時に世話になったんだよ。そのおかげで、お前さんを無事保護できたのさ」

「……あ」


 えーと。

 つまり、カンダくんがあの神殿の中を、案内してくれたってことか。俺のいた、多分エロ儀式やろうとしてたその場所へ。

 うわあ、ということは俺が目を覚ます前にエロエロぐちょぐちょにされなくて済んだのはカンダくんのおかげ、なのか。ラセンさん帰ってきたら、改めてお礼言わないと。

 ん、でもあれ?


「じゃあ何で、黒の連中が伝書蛇の卵盗んだりしたんでしょう? 黒の気配嫌がるなら、使えませんよね」

「それがねえ。生まれる前に黒に染めちまう、ってやり方があんだよね。染められた卵からかえった伝書蛇は、本来とは逆に太陽神の力を嫌がるとか何とか、ってカイル様がおっしゃってたねえ」


 分かりやすい逆転方法だな、ったく。要は、生まれる前に引きずり込めばいいってことか。俺といい伝書蛇といい、強引にやらかすのがお好きだこと。こんちくしょう。


「外道どもはもう、いろんな手を考えつくねえ」

「考えてみりゃ、『異邦人』もその1つですからねえ。ジョウ、お前さんも大変だな」

「ですよー。もうほんと、連中のやることって冗談じゃねえや」


 いやほんとに。俺みたく男を女にして世界に引っ張りこんだりとかさ、ほんとわけわかんねえし冗談じゃねえ。

 それに、俺みたいな例はともかくとして、他にもあちこちの世界から引っ張り込まれて、俺は助かったけどエロ儀式やらされた女の子とかもいるわけだろ? マジふざけんな、ってーの。


『あのね、ままにはぼくがいるからね。だいじょぶだからね』

「おう、ありがとなタケダくん。頼りにしてるぞ」

『はーい。わあい、ままにたよりにされたー』


 何か心配そうにタケダくんが覗き込んできたので、そう言って元気づけてやる。それで喜ぶんだから、単純といえば単純だなあ。いや、使い魔がやたら複雑な思考しててもそれはそれで大変だろうけど。

 ちょっと笑ってしまったら、グレンさんがなんだなんだとばかりに近づいてきた。


「何だ、伝書蛇どした?」

「僕がいるから大丈夫だ、って」

「おーおー、よく懐いてるなあ」

「生まれてすぐ俺の顔見たんで、親だと思ってるんじゃないですかねえ。いきなりママ、って呼ばれましたし」

「まあ、伝書蛇は卵から育てたほうが懐く、ってラセンも言ってたしなあ」


 ちょいちょい、と指先でタケダくんを撫でてやるグレンさん。タケダくんもなでられるのは嫌いじゃないらしく、目を細めている。魔力のない人には懐かないそうだから、グレンさんもそれなりにあるのかね。


「グレンさん、魔力ってあるんですか」

「魔術師ほどはねえけど、ちょっとはあるんじゃねえかな。うちの先祖に魔術師いたらしいし」

「そういうものなんですか」

「ラセンがいい例だよ。カサイの家は代々トンデモ魔術師を輩出してる、っていうからな」


 あー、やっぱりラセンさんち、ものすごいのか。そのものすごい人に俺は、師匠になってもらってるのか。

 ……ちょっとだけ、自分が怖くなってきた気がする。いや、浮かれたら駄目だからな、俺。

 いつ何があるかなんて、分からないんだから。あの日、階段から落ちたみたいに。

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