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39.嵐の前の静けさ

 さて。カイルさん率いる本隊は、俺が保護された黒の神の神殿に再び向かうことになっているんだけど、カイルさん本人は今領主のところに行っている。で、そこから即神殿に向かうそうだ。他の皆は、黒の信者に動きを読まれないようそれぞれバラバラに神殿に向かうという。

 そっちはカイルさんやハクヨウさん、ムラクモだっているので任せておこう。俺たちは、俺たちの任務を頑張らなくちゃな。


「3名1組で巡回を行う。時刻は不定期に、ルートもランダムにするように」

『はい』


 食堂でのミーティングで、そういうことになった。定期的に巡回すると、その隙を黒の信者に突かれてしまうからだという。そりゃまあそうか、なるほどな。いつもは信者じゃない人が影響受けてて、その辺漏らしたりする可能性もあるし。

 その時にくるりと回りを見渡すと確かに、カイルさんが名前を呼んだメンバー以外にも数名がこちらに残っている。このへんも情報戦なのかね。色々大変なんだな、と思う。

 さて、3人1組とのことだけど、俺と組んでくれるのは。


「ジョウには、私とグレンがつく。いいな」

「え? あ、はい」


 アオイさんにそう言われて、まあ断る理由もないしということで頷いた。ありゃ、アオイさんはノゾムくんと一緒だと思ったんだけど、違うのかな。

 そう思ってたら、ノゾムくん本人が苦笑しながら答えてくれた。


「僕はコクヨウ殿のお供に参ります。ジョウ殿、姉上もグレン殿もお強いですから安心してください」

「ああ、うん。それは分かってるし、頼りにしてる」


 魔術の訓練する場所って、他の皆が剣振り回したり模擬戦やったりする場所でもあるんだよね。だから、時間にもよるんだけど時々皆の訓練の様子は見てたから。あと、アオイさんはその、何だ、迫力が違うし。

 グレンさんが赤い髪を軽く結わえながら、にいと楽しそうに笑ってみせる。あー、めっちゃやる気だこの人。


「ノゾムは大変だな。副隊長のお守りが終わったかと思えば、次はコクヨウか」

「ちょっと待て、何で俺がお守りされる方なんだ」

「お前はランドたちほどじゃないが、力で進むところがあるだろうが」

「食堂で暴れて叱られたお前に言われるほどじゃねえ」


 何やってんだ赤黒漫才コンビ。ハクヨウさんがいないから止めようがねえよ、まあこのコンビの場合はやめどころわきまえてるからいいけどさ。

 俺から見たら、コクヨウさんもグレンさんも似たり寄ったりなんだよね。そういうセリフは巻き込まれるのが嫌で、口にはしなかった。その代わり、肩の上でタケダくんがしゃー、と力強く息を吐いた。


『ままになにかあったら、ぼくがゆるさないからねー!』

「……タケダくん、そういう話じゃねえから安心しろ」

『そうなの? はーい』


 これはこれでどうかと思うんだが。すっかりマザコンに成長してしまった使い魔の責任は……主である俺か、おれのせいか。ちくしょう。

 いやまあ、俺に何かある事態になったら、きっと俺が自分で何とかしなきゃいけないんじゃないだろうか。少なくとも、そのくらいできなきゃ傭兵部隊の一員、とか言えないだろう。

 アオイさんとグレンさんが一緒に組んでくれるけど、その2人の足手まといにならないようにしないと。うん。


「ジョウさん、大丈夫ですか?」

「何だ、心配かタクト?」

「あ、いえ。副隊長とグレンさんが一緒ですもんね」


 やっぱり他のやつと組むタクトが、俺見つけて駆け寄ってきた。……どうも、こいつに俺は好かれている気がする。悪い気はしないし俺も嫌いじゃないんだが、その、好意の意味が多分違うからなあ。タクトは、俺が中身男なこと知らないわけだし。


「そういうこと。タクトも気をつけろよ……って、俺が言うこっちゃないな」

「あはは。はい、重々気をつけて任務に励みます!」


 とはいえ、嫌いじゃない奴に何かあっても困るからな。元気そうに答えてくれたタクトに、何もないといいけど。




 巡回に行くタクトを見送って、ふうと小さくため息をついた。どうやら、俺は緊張してるらしい。そりゃまあ、ちゃんとした初めての任務だからな。しかも、本隊と違ってこっちじゃあ何が起きるか分からない、んだから。


「あまり気を張り詰めるな。こういったことがしょっちゅうだからな、気持ちが擦り切れるぞ」

「すみません。ありがとうございます」


 アオイさんが、クリームスープをカップに入れて持ってきてくれた。自分の分も持ってるから、ついでに入れてきてくれたのかな。グレンさんは……あれ、いないや。


「グレンさんは?」

「トイレじゃないか? さすがに同行するわけにはいかんだろ」

「あ、そりゃそうですね」


 うん、ごめんなさい。いくら中身が男だからって、今の格好で男子トイレに入る勇気はないわ、俺。

 しばらく待ってりゃ、帰ってくるだろう。そう思って、スープを口にした。あー、温かくて美味しい。具が干したのを戻した芋とかそういうのだけど、うまいもんはうまい。


「……あ、そうだ」


 不意に、変なことを思い出した。ちょうど一緒にアオイさんがいるしグレンさんはいないので、聞いてみるか。


「あの、失礼だったらごめんなさい。アオイさんは、何でノゾムくんにお守りされるなんて言われるんですか?」

「は?」


 うん、さっきのグレンさんのセリフが気になって。いや、アオイさんって結構しっかりしてると思うんだよな。それなのに、何で弟のノゾムくんがお守りしなくちゃいけないのかな、ってさ。


「……ノゾムは、見ての通り堅物なんだが、私と違ってそこがお偉い方々には好かれていてな。私が言っても進まない話が、ノゾムを挟むと上手く進むんだ」

「あー……」


 そっちか。

 よくいるんだよな、何か知らんが偉い人とかによく好かれてて、面倒事起きた時にはそいつ挟むと上手く話が進むやつ。あれ、本人の性格なのか話し方がうまいのか、それとも他に何かコツがあるんだろうかね。

 それが、ノゾムくんなわけか。なるほど。

 ってーと、アオイさんって微妙に話下手?


「そういえば、カイルさんのお使いで王都行ってたんでしたっけ」

「うむ。諸事情であちらの貴族に文を持っていったのだが、その相手と話をする時もノゾムのほうが上手く話を進めてくれてな……あれがいなければ、私は年内に戻って来られたかどうか分からん」

「おつかれさんです……」


 訂正。偉い人相手の堅苦しい話はものすごく苦手というか下手というか、そういうことらしい。……俺も気をつけないとなー。俺が知ってて話ししたことのある偉い人なんて、せいぜい学校の先生だぞ。こういう世界の貴族がどんだけなレベルか、なんて想像できないくらい偉い人、だよなあ。

 うわー、と頭抱え込みかけたところで、耳元でぱたりと翼が羽ばたいた。もちろん、タケダくんの小さな翼だけど。


『まま』

「どした」

『おそと、へん』

「アオイさん、タケダくんが外が変だと言ってます」

「分かった」


 俺にしか分からない言葉を、自分の口から出る言葉に変換する。即座に立てかけてあった剣を握りしめたアオイさんと共に、俺は席を立った。で、グレンさん何してるんだよ?

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