エピローグ:もしくはとある伝書蛇の回想
さて、その後の話をしようか。
結局、タチバナ・スメラギ・カイル王とスメラギ・ジョウ王妃の間には、子供が3人生まれたんだよね。長男、長女、次男の順番。長男がタチバナの姓を、次男がスメラギの姓を名乗ることにしたそうだよ。
ついでに言うとね、男の子2人が割とおっとり型、女の子がなかなかワイルドな性格でね。ここら辺は、父親とその兄姉とそっくりだ、って身内の間では評判だったそうだ。
長男がシロガネの国を継ぎ、次男はちょっと離れたところに領地をもらって領主になった。後々、この2つの血筋は再び合流するんだけど、その時に継がれた姓は何故かスメラギになった。まあ、血筋自体はのんびり続いているからいいんだけどね。
長女は、というと西の国に渡った。もともとイコン、と呼ばれていた黒の穏健派、彼らがほそぼそと生き延びているその国を、なんとかして復興したいんだと言ってね。まあ、今でもほそぼそとだけど彼らは生きているから、どうにかなったんじゃないかな。
で、その折にビャッくんを連れて行ったんだ。その頃にはすっかり大きくなっていて、猫どころじゃなく虎になっていたけれどね。でも、シロガネの王家の者にはとてもなついていて、中でもそのお姫様とものすごく仲が良かったから。
もともとビャッくんはそこの土地で封印されていたこともあって、相性は良かったらしい。今頃は多分、また寝ちゃってるんじゃないかな。もう、何代も過ぎているからね。
また、カイル王は側室を1名迎えた。1人だけ、だよ。よく身体が保ったなあ、と思うのだけど、その1人がムラクモ殿だと聞けば、納得してくれるんじゃないだろうか。ムラクモ殿は、ジョウ王妃ととても仲が良かったからね。それに、我々のような使い魔たちにも深い愛情を注いでくれたから。
ムラクモ殿のところには、男の子と女の子が1人ずつ生まれた。女の子が次女で、男の子が三男ということになるね。
次女姫はクシマ大公と妙に仲良くなって、シノーヨの民の故郷目指して旅に出た。そのまま帰っては来なかったけど、たまに手紙が届いていたようなので元気に暮らしたらしい。
三男王子は、外見だけは母親のムラクモ殿そっくりに育った。いや、流石にあの性癖までそっくりだったら困るからね。まあ、成長した後ユウゼに行って、そこで領主殿の娘婿に収まったらしいけど。
すーちゃんとせーちゃんは……うーん、あのままどこかで寝ているのかな。ここまで、全く情報がないんだよね。カイル王もジョウ王妃も、最期までずっと気にかけてたんだけど。でもまあ、便りのないのは良い便りって言うらしいから、また何かあったら起きるだろう。うん。
「何の話してるんだよ、ゲンちゃん」
『この子に、歴史のお話をしてるんだよ。僕が見てきた、長い長い国のお話を』
「そっか。そうだな、お前はシロガネの建国王を、実際に見て知ってるもんな」
頭をなでてくれるこの人は、今のシロガネの王。カイル王とジョウ王妃から、もう何代目になるのかな。この間、妹君がどこぞの領主んとこに押しかけ女房しに行ったらしいんだけど、大丈夫なのかな。いや、こっちの王が。
「お前が知ってる話を、しっかり教えてやってくれよ。もう二度と、悲惨なことにならないように」
『分かっているよ。それより、妹君大丈夫なのかい?』
「……シーヤの家は、建国王の時代より我が王家に仕えてきた家柄だからねえ。何とかなるんじゃないかな?」
『まあ、確かに』
うん。
まあ、何とかなる気はするよ。カイル王とジョウ王妃も、何とかなったもんな。
『げんぶさま、もっといっぱいおはなし、おしえてください!』
『今回のカンダくんは、勉強熱心だなあ。うん、いいよ』
『わーい』
それと、代々カサイ家に仕える伝書蛇のカンダくんも。代々生まれた新しい子がカンダくんの名前をもらって、その時のカサイ家当主に仕えることになる。この辺、人間も使い魔もあまり変わらないんだねえ。
カサイの一族は、しっかりと子孫を残して続いている。このまま、シロガネ王家やその部下たちをゆっくり見守っていってほしいものだ。
『ねえねえげんぶさま。じょうおうひさまのたけだくんは、どうなったんですか?』
『王妃様と一緒に、太陽神様の元に戻られたよ。子孫がオウイン公爵領にいるはずだけど』
『そっかあ。たけだくんは、とってもじょうおうひさまがだいすきだったんですね!』
無邪気に笑うカンダくんに、確かにそうだねとしか僕は答えられない。ソーダくんもそうだったけど、大概の使い魔は自分が先に逝くか主が先に逝くか、だもんな。
さて。
僕はこの子に建国王のお話をしたら、そろそろ寝ることにするよ。封印ではなく、自主的な眠りに。
太陽神様のもとでこの国と世界を見守っているカイル王とジョウ王妃に会いに、ちょっとあちらの世界に顔見せに行きたくてさ。こちらの世界の報告も、しなくちゃいけないし。
何しろ、異世界からやってきて生贄にされかけたはずのあの王妃様が、王様と一緒に頑張って作ってくれた世界なんだから。
こうやって太陽神様の使い魔として生きていられることに、感謝を。
そして、黒の神様を信じている民たちにも、幸いのあらんことを。




