339.子供と両親
夏が終わり、秋が来て、冬が来て、年が明けた。
季節はもう春で、つかラモットって春でも暖かいというよりはそろそろ暑い、に差し掛かりつつある。
姉上とホウサクさんの間には、元気な女の子が生まれたそうだ。元気すぎて、ホウサクさんが「大きくなったらセージュがもう1人になりそうだ」と頭を抱えているらしい。……もう1人で済めばいいけどな、と思ってるのは俺だけじゃないはずだ。
コクヨウさんとこは、まだらしい。というか、ハクヨウさんがまだ結婚すらしてないのをちょっと気にかけているとかなんとか。いや、そこ気にしなくていいんじゃないかね。
なんて、人のことを気にしてる場合じゃないわけだ、俺は。いや、今ちょっと力尽きちゃって、ベッドの中の人になってるわけでさ。
何しろ。
「お母様に似てとってもお元気な、男の子ですよ」
ラセンさんが、にっこり笑ってそう言ってくる。彼女の腕には、今しがたおぎゃあと元気に泣き声を上げた、俺の子。そか、男の子か。俺に似てるのは……まあ、うん。
はい、生まれました。大変だったぞ1日以上痛いのー、止まった、また痛いのー、痛いのーいたたたたたたとか。最後、出てくる時なんてもう出口裂けるかと思ったよ。ちょっと裂けたかもしれないけど。
赤ちゃん生む女の人、凄すぎるわ。こんな痛いのとか、まだお腹そんなに大きくないのに気分悪くなったりとか、飯の好みが変わっちゃったりとかどんだけだよ。もう会えないけど、俺のおかんもこんな苦労して俺産んだのか。
「ジョウ、大変だったな」
「……おかげさんで、ほとんど動けねーっす」
赤ちゃんの父親、つまるところカイルさんは顔真っ青になりつつ俺の手を取ってくれてた。いや、立ち会い出産でさあ。カイルさん血を見るのは慣れてるはずなのに、何かすっごく引きつってたんだよな。何でだ。
で、いつまで手を握ってんだ残念イケメン新米親父。俺は今すぐ寝たいぐらい、疲れてんだちくしょう。いや赤ちゃんも可愛いけど、でも眠い。
「こら陛下、顔が変なことになってますって」
「い、いやだって、何というか女性はすごいなあ、と」
「分かってるんだったら、殿下お疲れなんですから休ませてあげてくださいな」
「あ、ああ、そうだな」
ラセンさんが、うまいこと引剥してくれて助かった。ほんと、マジ疲れる……すげえなあ、うん。
「あ、殿下もちょっとがんばって下さいね。まずはお母様のお乳を飲ませてあげましょう、ね」
「……がんばりまふ」
ああ、そだな。何気におっぱい張ってるし。大昔の歌で、おっぱいは赤ちゃんのためにあるんだ、みたいなのをどっかで聞いた気がするんだけど、確かにそうだよなあ。
何とかかんとかおっぱい飲ませた後気が遠くなって、気が付いたらだいぶ暗くなっていた。俺のベッドの横には小さなベッドがあって、そこで赤ちゃんがすやすや寝てる。うぬう、生まれたては何というか、猿っぽいなあ。
「起きたかい?」
「ふぇ?」
あ、カイルさんいたのか。いやごめん、まあこの人ならいるか。というか、俺と赤ちゃんの番しててくれたのかな。ありがたい、なあ。
……あーあ。
「……すっかり、女だなあ。俺」
「そうかな」
変なことを言ったかな、と思う。この世界に来た時には俺はもう女の身体で、まあ中身はともかくとして基本的には女として生きてきたわけで。
でもやっぱり、カイルさんにしてみれば変なことだったのかもしれないな、と思う。例え、お母さんと同じだったとしても。
「俺にとっては最初から、君は君のままだけどね」
「そういうもんなんすか」
「うん」
息子生まれた直後にこんなセリフ吐く残念イケメン、元気だったら光の盾パンチでぶっ飛ばしてたかもしれない。こら、息子に感謝しろよ親父殿。
『ぼくにとっても、ままはままだよ』
『そうですね。わたしにとっても、じょうさまはいぜんとおかわりありません』
「みー」
「ぴいぴいぴい」
「うん、みんなありがとな」
寝る前にはいなかった使い魔たちが、不意に声を上げてきた。ああもう、お前ら相変わらず可愛いなあ。起きて手を伸ばすことすら億劫だから、なでてやれなくてごめんな。
「つか、これからがまた大変ですね。俺ら」
「俺もいるし、ネネ殿やムラクモだっているんだ。大丈夫だよ」
「ネネさんやムラクモはいいんですけど、カイルさんはなあ」
あ、ごめん。全力で本音が出た。いや、何というか、ネネさんは多分経験者だしムラクモは何だかんだで頼りになりそうなんだけど、この人はなー。
「……頼りないかい?」
「まあ、自分も頼りないですし」
でもまあ、そこら辺が結論だよね。カイルさんも俺も、親としては新米なんだから。
ラセンさんもいてくれるし、がんばろう。
一緒に頑張ろうぜ、旦那様。




