338.確認と確定
体よくカイルさんを追い出したところで、ラセンさんが笑顔のままこっち向いた。魔術式のスキャナ取り出しながら、俺に尋ねてくる。
「お身体、大丈夫ですの?」
「カイルさんに光の盾パンチ繰り出せる程度には」
「なら、大丈夫そうですね」
うんうん、と頷くラセンさんの後ろ通って、マリカさんがワゴン押してきた。湯気の出てくる桶と、あと洋服一式がそれぞれの段に乗っている。
「お着替えと、お湯をお持ちしました。タケダくん、ソーダくん、ビャッくん、ご飯の時間ですよー」
『はーい』
『はい、ではおさきにしつれいさせていただきます』
「みー」
「お願いしまーす」
ベッドの横にワゴンを止めたマリカさんが呼ぶと、俺の周囲から使い魔たちがいそいそと出てきた。
身体拭くのと着替えは自分でもできるので、代わりにその時間使って使い魔たちに朝ご飯食べさせてもらうのを、マリカさんには頼んでいる。
なお、今いないゲンちゃんは、何でもすっかりムラクモに懐いてるそうだ。……んで、まだ声が聴こえないらしい。頑張れムラクモ。
「それでは失礼しますねー」
「よろしく。行儀よく食べるんだぞー」
『はーい』
『おまかせください!』
「みゃ!」
使い魔たちを肩と腕の中に収めて、マリカさんは楽しそうに出て行った。その間に俺は寝間着脱いで、お湯に浸したタオルでざっと汗を拭く。あー気持ちいい。
「それじゃ、見せてもらいますね」
「はい」
着替えた後、服の上からラセンさんがスキャナ使って体調チェック。この辺、向こうの世界より便利だよなあと思う。何というか、魔術すげえ。
で、ざっと全身見てくれた結果。
「回復は順調です。もう、起きても大丈夫ですよ……さすがに、一発必中はなさそうですわね」
「わあ」
最後のそれまで分かるのか。つーか一発必中なんてされたら、洒落にならんわ。ま、なってたらなってたでさすが絶倫国王、とカイルさんを吊るし上げるネタにするだけだけどさ。
「そういうの、チェックするんですか」
「3日も寝込まれてたんですから、体調確認は基本ですわ。そっちのチェックはもののついでです」
「……あーはい」
気になって聞いてみたら、ラセンさんはそうのたまってくれた。ついでなんかい、と思ったけどまあ、やっぱりチェックはするもんなんだろうなあ。一応王妃様だし、相手王様だしな。
「ぴー」
「ジョウ、無事か?」
とりあえずベッドから降りたところで、聞き慣れた声が部屋に飛び込んできた。もちろん、肩にゲンちゃんのっけたムラクモである。……マジ、何でムラクモにゲンちゃんの声が聴こえないんだろうか。なあ。
「おー。ムラクモ、ゲンちゃん、何とか無事だぞ」
「そうか」
「ぴいぴい」
ムラクモの肩からぱたぱた飛んできたゲンちゃんが、俺の肩に着地する。うん、声としぐさだけ取り上げたら鳥だな、この子。実際には伝書蛇なんだけど、まあいいや。
そのゲンちゃんを見送りながら、ムラクモがふと首を傾げた。
「カイル様の顔に赤い跡がついていたのだが、あれは光の盾パンチか?」
ああ、見たのかアレ。うん、と頷いて、言い訳がましく言葉をくっつけてみた。
「さすがに、一発食らわせないと気がすまなくてさ」
「まあ、分からんでもないな。さすがに3日寝込ませるのはやり過ぎだ」
だよな!
……ふと思ったんだけど、ホウサクさんって全力で姉上に搾り取られたんだろうか。それはそれで、やり過ぎてなきゃいいけどさ。
で、最初に一撃食らわせたおかげで遠慮するようになった、とは言え。
休み休み、それなりにこっちに気を使いつつもカイルさんは頑張るわけよ。まあ、立場が立場なんで跡継ぎ欲しいだろうしな。俺もまあ、良いもんは良いんで無理じゃない程度にはお付き合いするし。
んでまあ、な。
「おめでとうございます。ご懐妊、ですわ」
そう、朗らかにラセンさんが宣言ぶっこいてくれたのは……えーと初めての夜から4か月ほど過ぎた頃、だった。うん、魔術道具でスキャンしたんで結構確実っぽい。
……はあ。いや慣れたんだけどね、慣れたところでひとまず休憩、かあ。うん、ちと残念。
って、いやいやいや。




