337.反撃と謝罪
さて。
さすがゴート陛下の息子っつーか姉上の弟っつーか、ともかくカイルさんにさんざん泣かされて3日起きられなかった俺が何とか起きられるようになった4日目、カイルさんの顔を見てまずやったのは。
「ジョウ! 良かった、起きられるようになったのか」
「……光の盾ミニ、パンチ」
「うごおっ!」
残念イケメン絶倫国王のイケメン面に、一撃叩き込むことだった。
くそう、黒くなった連中がひたすらやることやりまくってた理由が少しだけ分かったぜ、こんちくしょうが。いや、さすがにあんなのは勘弁して欲しいけど。
なので、体力も回復したことだしとりあえず怒鳴りつけた。
「誰がここまでやれって言いましたか! あんた限界ってもんを知らんのかあ!」
「すまん! つい、良かったから!」
「いや俺も良かったですけど、限度ありますから!」
「本当にすまん! 次からは気をつけるっ!」
……何気に墓穴掘ってる気がするが、気のせいにしておこう。いや、さすがに国王陛下が土下座ってるしなあ。この人、元から王族だからこういうことあんまりやらないし。
と、俺の膝にちょこんとソーダくんが乗ってきた。ぱたぱた翼を広げながら、たしなめるように言葉を発する。
『かいるさま。こくようさまにもおこられましたでしょう? だめですよ、じょうさまのおからだをきづかってくださらないと』
「……ソーダくん、コクヨウさん何か言ってたの?」
『おくがたのおことばだそうですが』
『まま、すっごくたいへんだからそくしつさん、かんがえてねって』
「……あー」
「分かった。さすがに考える……」
コクヨウさんの奥さん、ってこたあハナビさんか。結婚に当たってさすがにお仕事はやめてきたわけだけど、もともとこっちの方のプロだもんなあ。こういうことはよく分かってくれてる、というか。
つか側室、か。何か一瞬むかっときたけど、迎えてもらえないと何というか、マジで俺死にそうだ。黒くなった女の子たちみたいに、何も考えられなくなって……うわあ、ほんと考えてくれよ、カイルさん。
「すまない。そこまで大変だったとは思わなくて……その、夢中で」
「夢中になって人殺さんでください」
「ホント済まなかった!」
じゅうたんに額くっつけたままのカイルさんに、それでもため息つきつつ言ってみる。……カズヒサさん、何というかゴート陛下のお相手してたとき、大変だったんじゃないだろうか。そりゃ早死するわ、うん。
「みー」
『ぱぱ。びゃっくんも、あんまりひどいことしたらかむよ、だって』
「分かった、気をつける!」
とどめにビャッくんとタケダくんにまで怒られて、もう一度カイルさんは床にごち、と頭をぶつけた。じゅうたんの上からごちって、どんだけ勢い良く頭下げたんだ、あんたは。
さて。
カイルさんは気づいてなかったわけなんだけど、この部屋って俺たちの他にも出入りする人がいるわけよ。で、カイルさんが落ち着いたところを見計らって、2人して声をかけてきてくれた。
「お話終わりました?」
「あ、ああ」
「まったくもう。陛下、マジ気をつけてくださいねー」
おっとりした口調はラセンさん、微妙にぞんざいな口調はマリカさん。2人してすたすた入ってきたもんで、カイルさんは慌てて立ち上がった。膝をぱたぱた払いながら、2人に尋ねる。顔、青くなってんぞー。
「マリカ、ラセン、いつからそこに」
「私は王妃様のお世話係ですから、いつでも近くにいますけど」
「私は陛下が光の盾パンチ食らったところから、ですかしら」
「それはほぼ最初から、と言うんじゃ」
「あら、そうだったかも」
最初からだねえ、うん。しれっとしてるんじゃない、ラセンさん。カイルさんの方からは見えなかったわけだけど、俺からはもうにやにやこそこそしてる2人がバッチリ見えてたしなあ。
それは置いといて。しれっとしたままで、ラセンさんはニコニコ笑いながらカイルさんを急かしてきた。
「ともかく陛下、殿下の分までお仕事ございますので頑張ってくださいませね。主に役人や商人との面会ですが」
「わ、分かっている」
なんですよねー。
俺が起きられない間、面会やらなにやらは全部カイルさんに押し付けてたわけだ。黒の気を払うのは俺にしかできないわけだけど、誰かと会うのはカイルさんでもできるし向こうさんの都合もあるからな。
「じゃあ、行ってくるよ。ジョウは、もうしばらく休んでくれてていいから」
「そうします。俺の分まで、がんばって下さいねー」
慌てて手を振りながら出て行くカイルさんを、ベッドの上に起き上がった状態で見送った。はーやれやれ、次からはマジ遠慮しろよ、国王陛下。




