335.結論と結果
都合3日ほどいて、姉上夫妻はとっととコーリマ王都に帰っていった。何でもこっちのほうが手に入りやすいものとかいろいろ買い込みに来てたらしくて、帰りはやたら荷馬車が多かったな、うん。
「では、またな! 甥でも姪でも、落ち着いたら顔を見せに来るぞ!」
「ししし失礼致しますー!」
はっはっは、ととてもうれしそうに笑いながら手を振る姉上と、その横で何故か涙目になりながら頭を下げるホウサクさんを見送りながら俺は、……えーぶっちゃけると羨ましい、という感情を持っていた。
あーまあ、いい加減そうなんだろうなあ。いつまで中身が野郎のまんま、ってわけにもいかないんだろうし。俺がカイルさんの隣りにいたかった、っていうのだってそういうことなんだろうし、さ。
「……」
「……」
そんな感じで、今夜も今夜で一緒に添い寝のお時間と相成った。なったんだけど……何というか、今夜はお互いにベッドの上に座ったまま、何も言わない。
何か言ってるのは、ベッドの横にいる使い魔たちだった。
『……ぱぱとまま、なんかあったのかなあ』
『きっと、せーじゅさまとほうさくさまにたいして、おもうところがあったのでしょう』
「にゃー?」
「ぴいぴいぴい」
いや、まあ確かにそうなんだけどさ。ええいお前ら、人の本音ぶっちゃけるなよな。
ホウサクさんと姉上、なんだかんだで幸せそうだったし。それ見て俺、ちょっとうらやましいとか思ったのは事実だし。
とはいえ、使い魔に代弁させてるのは問題だな。自分で言わないと……その後もいろいろあるから、うん。
「悪い。お前ら、ちょっと席外してろ」
『はーい』
『さあさあみんな、かいるさまとじょうさまのおじゃまになるといけませんからね。いきましょう』
「みー」
「ぴー」
ソーダくん、ゲンちゃんとビャッくん連れてってくれるのはありがたいけどその言い方はどうかと……いやでも、邪魔っちゃ邪魔なのか、うん。
で、使い魔たちが部屋から出て行ったあと。まただいぶ時間が経ってから、俺はカイルさんの方を向いた。動いた音が聞こえたのか、カイルさんも身体ごとこっちに向き直る。
「……ジョウ」
「カイルさん」
お互いに名前を呼び合ったあと、一度俺は深呼吸した。それから、自分の思うところをぶっちゃけることにする。言わなきゃわからないことだって、あるからさ。
「多分……あなたのプロポーズを受け入れた時から、もともとの覚悟は決まってたんだと思うんです。俺」
「え」
「ただですね」
一瞬ぱっと顔を明るくしたカイルさんに、全力で本音叩きつけてみる。思い切り現実的な問題だ。
「いきなりおっぱいはないでしょうが! せーめーてーキスからとかじゃないですか、違いますか!」
「は、はい済まなかった!」
いや、ここなんだよね。俺がカイルさんベッドから蹴り落とした理由、とりあえずおっぱいだったから。いや、そこじゃねえだろうこの残念国王が、なあ。
「いやまあ、俺ももともと男ですからやっぱりおっぱい、な気持ちも分からなくはないです。ですが、女になってみたら何この男がっついてんの、って気持ちもちょっとね、はい」
「そ、そうか……」
頭下げ倒してるカイルさんに、ちゃんと言う。うん、男はやっぱりおっぱい好きだと思うんだよね、異論は認めるけどさ。でも、女の立場からしてみたらいきなりそこか、っていうのはな。
まあカイルさん、前に黒くなった時もおっぱいに来たからもともとおっぱい星人なんだろうなあ、とは思うんだけど。いやいやいやいや。
「ま、今更ムードもへったくれもないですけど、でもせめてキスから、にしてくれませんか」
「……そう、だな。済まなかった」
言えば分かってくれるあたりは、まだマシなんだけどな。すぐに俺の顎に手を持ってって、くいと引き上げるしぐさなんか結構手馴れてるって感じだ。まあ、何ぼ何でも初めてじゃないよな、一応王子様だし。
それはまあ、ともかくとして。さすがに目を開けたままな趣味は俺にはないので、閉じてみた。
「……」
うぐ、何か吸われてる。軽く噛まれてる感じもするし、つか、えーと、うん。
そこから3日ほどで、俺は陥落しました。はい。




