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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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334.理由と事実

 お互い黙っててもアレなので、ひとまず祝福の言葉は述べないとな。カイルさんから、口を開いた。


「ともかく、夫婦になられたとのこと。おめでとうございます、と言わせてください」

「おめでとうございます。知らせを頂いた時には驚きました」

「は、はい……」

「うむ、確かに驚いただろうな」


 かちこち固まりつつ実はてれてれ、なホウサクさんに対し、使い魔の大群の中に叩き込んだムラクモのように全身で幸せを表現し倒している姉上。いやほんと、驚かしてくれてありがとう。


「といいますか。失礼ながら姉上、何でまた」

「うむ」


 んなわけで、理由を尋ねてみることにする。当の理由は、どうせ姉上側から押せ押せだったんだろうけどさ、という推測をばっちり裏付けるものだったわけだけど。


「ほら、彼は以前私とイカヅチを助けてくれただろう。その折にいろいろ、不器用ながら治療もしてくれたしジュウゾウの面倒も見てくれたしミリコの集落も守ってくれた、その姿がずっと心の中に残っておったのだ」

「い、いいえセージュ様! わわわ私はその、何とかやれることをやってただけでっ」

「セージュと呼べ、と常々言うておるだろうが」

「ははははいいっ」


 ……何このラブコメ夫婦、というか姉上。ぽっと頬染めてホウサクさんの腕に自分の腕絡めて、彼のほっぺに空いてる手でぷにぷにて。見てるこっちが恥ずかしいわ。

 ま、それは置いておく。で、理由。

 ああうん、黒帝国の手を逃れてミリコまで脱出してきた2人をホウサクさん、せっせと介抱してくれたんだよな。ミリコのお爺ちゃんお婆ちゃんたち、すっかりホウサクさんのこと気に入ってたしなあ。

 そか、それ見て惚れたのか。この手のタイプ、王都とかにいなさそうだし。


「それでな。コーリマの復興に当たって、何を置いても食料の調達と民に職を与えることが最優先と思って、ミリコの方々に協力を仰いだのだ。年を召されてはいるが、彼らは田畑のプロフェッショナルだからな」

「そ、そんなわけで私もその、お手伝いをさせていただいたんです、はい。そ、その折に、セージュさ、セージュからその、プロポーズをっ」

「あ、やっぱり」

「まあ、姉上からだろうとは思っていたが」


 にこにこほわほわしながらそれでもきっちり説明してくれた姉上と、どもりながら何とかかんとか言葉を続けたホウサクさんのセリフのオチに、俺もカイルさんも思わずそうだよねえという顔になった。やっぱりな、とも言う。

 と、ふとカイルさんがあらぬ方向に声をかけた。


「イカヅチ、お前はずっと見ていたんだろう。どうだったんだ?」

「は」


 いたんかい、さすが忍び。天井の方から降ってきたイカヅチさんは、そのまま床に膝をついたポーズでぶっちゃけてくれた。


「セージュ様の仰る通り、確かに不器用ではありますが誠実に事をなしてくれた御仁であります。ミリコの住人たちからも人気がありますし、ジュウゾウや他の馬たちもよく懐いております。セージュ様の伴侶として、ふさわしい方かと」

「……」


 あ、ホウサクさん固まった。

 いや、イカヅチさんのアレは本音だと思うぞ。だけど『誠実に』かあ……元詐欺師じゃないかと口に出すのはやめといてあげよう、となんとなく思った。

 しかしまあ、馬が懐いてるなら大丈夫かな、とは思った。あいつら、人間より人を見る目は確かだもんな。


「ありがとう、イカヅチ。ムラクモが近くにいると思うから、話をしてくるといい」

「そうだな。行ってこい」

「は。ありがとうございます」


 報告を受けたカイルさん、そして姉上の許しを得て、あっという間にイカヅチさんの姿が消える。やっぱ、忍びってああいうのだよなあ。うん。


「それでな。もうひとつ話があるんだ」


 意識が外に行きかけたところで、不意に姉上がそんなことを言い出してきた。「はい」と姿勢を直した俺たちに向かって、姉上は再び、とんでもないことをぶっちゃけてくれた。


「お前たち、叔父と叔母になるぞ」

「申し訳ありません夫婦になる前にっ!」

「……ぶふうっ」


 満面の笑みな姉上の隣で、全力土下座したホウサクさん。えーと、おじとおばになるってことはつまり、えーあーはい。

 ってあんたら、できちゃった結婚かーい! いやこっちにそういう概念あるかどうかはともかく!


「ほほほホウサク殿っ!?」

「え、あ、その、せーじゅさま、がですねっ!」


 カイルさんが声ひっくり返しながら喚いてる、その目の前でホウサクさんが涙目である。つーか姉上、そこで「だから、セージュ、だ」と呼び方直させる余裕あるのがすげえ。


「はひっ、その、セージュが積極的、でして……」

「まあ、こう言ってはアレだが私もあの父上の娘だった、ということだな」


 いやいやいやいやそこじゃねえよ姉上。ん、もしかして。


「というか、婿に来てもらう理由にしましたね? それ」

「はっはっは、実はそうなのだ」


 やっぱりか! 姉上、既成事実作っちまって結婚に踏み切ったのかやばくないかソレ。

 冷や汗だらだら流してる俺の横で、何かカイルさんがしょげていた。さすがにホウサクさんのとこに行って、その手を取りながらぺこぺこ頭を下げている。


「……ホウサク殿。姉が済まん」

「いえその、私といたしましても斯様に、彼女は魅力的でございましたので、はい」


 俺と同じように冷や汗かきつつ、それでもホウサクさんは、はっきりと言った。


「そうでなければ私も、いくらセージュが迫ってきたとしても子を作るようなことは、いたしませんで」

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