333.思惑と姉上
どたばたしつつ夏が過ぎ、秋の収穫祭の話がちらほら聞こえ始める頃になった。ラモットはまだまだ暑いんだけど、まあカラッとしてるから過ごしやすいのは助かったな。
……カイルさんとの添い寝も、まあちょっとは先に進み始めたというか。あ、早い時期にベッドから蹴り落としたのが10回ほどあるけど。ムラクモみたいにうまく縛れないからなあ、っていやいやいや。
『じょうさまは、かいるさまのことをおきらいではない、のですよね?』
「ああ、うん。それは確かだよ」
『その、でしたらそろそろ、おかくごをきめられたほうがいいかとおもうのですが』
「……やっぱり?」
さすがにこの手の話はムラクモにもできないもんで、使い魔たちの中で一番ちゃんと話ができるソーダくんと話をしてる。
まあ、分かってんだけどな。男からしたらさ、据え膳お預けしまくり状態なわけだし。添い寝OKした時点で俺も、しっかり覚悟しとかねえといけないしさ。相手に腕力で勝てるわけないんだから……じゃなくって。
『おこころは、きまっておられるのでしょう?』
「………………多分」
この場合、俺自身よりよほどソーダくんの方が俺の本音、分かってるのかもしれないな。あー、参った。
『まま、ぱぱとあんまりけんかしちゃやだよ?』
「ぴ」
「みー」
「はいすんませんごめんなさい」
ぞろっと並んだ使い魔たちに頭を下げる、情けない魔術師の図である。あーなんというかもう、何もかもふっきって先に進んじまえば良いのかね。何というか、やることやってねえせいかいつまで経っても男と女で中途半端みたいな感じだしよ。
……カイルさんのお母さん、ゴート陛下んとこ来た時は既に『神のお下がり』だっつーてたっけか。やっぱり、やってるかどうかで変わるのかな……あーもー、誰かご存命の前例いねえかーちくしょう。
そんな感じで参ってる俺なんだけど、もうひとつ参ったというか。
いや、実はコーリマ王都……えーと、今はオウイン公爵領ってことになってんのか。姉上がまあ、王族出身ってことで爵位もらって旧コーリマ領をある程度領地として面倒見てる。もともと綺麗な水とか大きい港とかいろいろあることもあって、ぼちぼち回復してきてはいるらしい。
で、そこから手紙が来たんだけどさ。
「姉上がご結婚、ですか」
「うん」
俺とカイルさん、思わず顔を見合わせた。
いやだって、あの姉上が結婚だってよ。まあ、さすがに婿取りらしいんだけど。一応オウイン公爵、だしね。
んで、手紙をざっと読んだカイルさんが、その中身教えてくれた。
「それで、向こうから数日中に報告兼ねて挨拶に来るってさ。まだあんまり、大々的に式をする余裕はないからね」
「はあ」
だよなあ。回復してきてるっつーても、黒くなる前のコーリマ王国考えるとほんと、まだまだだもんな。
ところで、結婚ということで最大の問題があるわけなんだけどさ。
「てか、お相手誰ですか? イカヅチさんとか」
「俺もそう思ったんだがな。ま、見てくれ」
「はい」
あれ、イカヅチさんじゃないのか相手、と思いながら渡された手紙に目を通す。さすがにもう、ちゃんと読めるようになってるから大丈夫、なんだけどさ。
「…………マジすか」
「大真面目らしいよ」
手紙を一通り読んでしまったあとで、何でかもう一度、お互い顔を見合わせるはめになった。いや、意外な相手というかまあそりゃ面識あるけどさ。というか、だ。
「一体何があった姉上何でそこに行った」
「まあ、ああいうタイプは姉上の周りにはいなかったからなあ。新鮮に見えたんじゃないかな」
「そりゃそうでしょうけど」
とりあえず、自分の問題を棚上げというかロフトに叩き込んで、うーんと唸る国王夫妻であった。自分たちのことだけどな。
しかし、マジで姉上何でそこ選んだ。訳わからん。本人来たら聞こう、うん。
その手紙から1週間後、姉上は結婚相手を連れてご挨拶、という名目で遊びに来た。何あのほわほわした表情、マジ姉上か? えらく恋する乙女になっちまってるぞ、どうしたオウイン・セージュ。
「国王陛下、王妃殿下。オウイン・セージュ、挨拶に参りました。ほら、練習したとおりに言えば良い」
「ど、どどどどうも……国王陛下、及び王妃殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう……」
「固くならなくていいぞ、ホウサク殿。……義兄上、とお呼びしたほうがよろしいか」
「い、いいえええええ! ホウサクで構いませんでございますです、はい!」
俺とカイルさんの前でほにゃらか新婚さん、な姉上の横でかっちんこっちんに緊張凝り固まってる、ホウサクさん。彼が、姉上の結婚相手だそうである。
マジ、どうしてこうなった。




