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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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330.黒さと小蛇

「あー、やっぱちょこちょこあるなあ」


 魔術道具をしまってある倉庫の中で、俺はちとため息をついてみた。最初にチェックしたローブや杖の一部に、俺が触ると黒いもやがふわんと漏れてくるやつがあるんだよなあ。


「黒の神が神の世に引っ込んでいる間も、間接的にこちらの世には手を出してきていたからな。その蓄積があるんだろう」

「積み重ねが肝心、ってやつかねえ。ローブ終わったぞー」

「了解。ついでだ、虫干ししておこう」


 ムラクモが俺チェック済みのローブを大量に持っていくのを見ながら、魔除けのチェックに移る。

 ちなみにこの倉庫、もともとはシノーヨ軍の従軍魔術師用の備品だそうだ。さっきのローブも地味だけどしっかりした生地でできてて、砂埃の多いシノーヨ領内でも動きやすく日差し避けられるように作ってるみたいだな。


「うえ、何気に混じってるし」


 箱にしまわれている魔除けをぺちぺちと叩くと、また黒いもやがふわりと上がっては消える。こんなもん、黒の神現役中につけられてたら数日で色ボケ仕様だよ、やれやれ。

 ある程度魔除けを片付けたところで、奥の方からすっかり聞き慣れた鳴き声が響いてきた。


「ぴい、ぴい」

「おお、どうしたゲンちゃん。そっちにもあるのか?」

『げんちゃん、さわったらたいへんたいへんだよー』

「ぴ」


 声をかけたムラクモと、慌てて注意したタケダくんに返事するように小さな鳴き声1つ。そっちに行ってみるとまあ、歩兵用の剣が数本黒いもやをまとわせながら床に転がっていた。

 で、その前でタケダくんとゲンちゃんが、こっち見てぱたぱたと翼を羽ばたかせている。あ、ソーダくんはムラクモと一緒にチェック中。


「おー。ちゃんとタケダくんの言うこと聞いてくれたのか、ゲンちゃんはえらいなー」

「ぴいぴい」


 ちっちゃい頭をなでてやると、ゲンちゃんはぱたぱた嬉しそうに鳴いた。そこへやってきたムラクモは、いつものように顔をでれんとさせながらうんうん頷く。


「うむ、さすがはゲンちゃんだ。そのまま、素直に育つのだぞ」

「ぴっ」


 ムラクモの台詞にも、ゲンちゃんは大きく頷いた。ほんと、素直でいい子だなあ。

 ……これだけ素直だったから、前に黒の神の使い魔だった時のゲンブはあんな風に黒っぽかったのかな、と何となく納得してしまった。




「そういえば」


 大体片付いたところで、いろんな在庫をぐるっと見回しながらふと思った事を口にする。「どうした?」と首を傾げてくるムラクモに、言葉の続きを聞かせてみた。


「何でゲンちゃん、ここにいたんだろ。ゲンブが黒の神に喰われたの、コーリマ王都だぜ」

『げんぶさまはみずのげんぶ、だからでしょうか』

「水が多いから、か?」


 ムラクモが答えるより先に、ソーダくんが推論を口にする。さすがにそこまでムラクモは解読できないだろうから、意訳してみた。


「それなら、前にいたコーリマの湖の方がおかしくないだろうな。あちらの方が、水は大量にある」

『そうですねえ』


 それに対して、ムラクモの返答は意外に当然と思えるものだった。おお、ちゃんと考えてるんだなあ。


「水のゲンブなのだろう? なら、前回はコーリマの冷たい水のそばにいたのだから、今回はシノーヨの程良い温度の水に浸かりたかったのではないか?」

「何じゃそりゃ」


 ……前言ちょっと撤回しようか。マジで考えてるのかどうか、今の台詞からじゃよく分からん。

 ただ、その後に続いたムラクモの言葉には、納得したけどさ。


「というか、ゲンちゃんに聞いてみればいい。タケダくんとソーダくんは、話が通じるんだろう?」

「それもそっか」


 確かにそうだよねー、ということでタケダくん経由で聞いてみた、結果。


「ぴいぴい、ぴぴっ」

『あのねー。げんちゃん、めがさめたらここにいたんだって。ここのおみずきれいだから、うれしいなーってはしゃいでたら、むらくもおねーちゃんにみつかっちゃったって』

「……さいでっか」


 結論、本人というか本蛇にもわからないらしい。それでいいのか、神の使い魔。

 ……ま、いいんだろう。ゲンちゃんも、何か今は楽しそうに生きてるし。


「そうか……ゲンちゃん以外の使い魔たちも、もしかしたらどこかに生まれているのかもしれんな」


 ムラクモの言葉に、俺とタケダくんとソーダくんははっと顔を見合わせた。そっか、ゲンブがゲンちゃんになってこうやって生きてるなら、もしかして。


『すーちゃんやせーちゃんも、どっかにいるかもしれないね!』

『びゃっこさまも、どこかにおられるのでしょうか。それならいいのですが』


 この世界のどこかで、小さな小さな使い魔として生まれているのかもしれない。もしそうだったら、また会えるかもしれない。


「そうだな。どっかにいたらいいな」

「ぴ?」


 自分の仲間のことだと分かっているのかどうか、ゲンちゃんは俺たちの話を聞きながら不思議そうに、首を傾げていた。

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