325.今後と今後
「それにしても」
船から降りながら、姉上が城を見上げた。以前ここから見た時よりずっと低くなっているのはまあ、黒の神がおもいっきり壊してくれたからだけど。屋根無くなってるし、途中で折れた感じの塔とかもう、えらいことになっている。
「王都はほぼ壊滅だな。特に城はもう、崩すしかなさそうだ」
「民の1人としては再建を望んでいますが、正直無理でしょうね」
姉上の言葉に、付き従っているイカヅチさんが小さくため息混じりに呟いた。ああうん、お城の建て直しなんて恐ろしいレベルの金かかるだろうしなあ。今のコーリマに、そんな金ねえわ。シオンが見事に、すっからかんにしやがった。
「こんなこと言うのも何ですが、国としても壊滅じゃないですかね。コーリマ」
「コク、お前ちょっと言い過ぎ」
「いや、その通りだな」
コクヨウさんのちょいきつい台詞をたしなめたハクヨウさんに、でも姉上は小さく首を振った。
「ツッツやラータがあるから、民は残っている。だが、役人や街の長がほとんど黒の餌食になってしまっているからな。もう、過去のコーリマ王国は戻ってこん」
「……」
姉上、ここに来るまで見てきてるからなあ。
でもラータやツッツだって、ほとんど黒にまみれて酷い状態の人ばっかだった。それぞれの街でラセンさんの配下の魔術師さんたちが面倒見てくれてるそうだけど、どれくらい回復できるんだろうな。
ハクヨウさんもそうなんだけど、俺やカイルさんもちょっと困った顔になってる。それに気がついたのか、姉上は腰に手を当ててふん、と笑ってみせた。
「まあ、私がなんとかするさ。コーリマ自体は以降シロガネの属国、という形で良いだろう」
「え」
「姉上が?」
……さすがにちょっと驚いた。
属国云々は、多分俺が口出しできることじゃない。シロガネの王であるカイルさんと、実質的にコーリマの王ってことになる姉上の間で話をすればいいことだ。
でも、なんとかするってどうするんだろ。……残された民の面倒とか、かな。
「ミラノは死んでしまったし、お前はシロガネの王だ。私が責任取るしかなかろうが」
「いや、責任取るって……」
「オウインの娘だ、このくらいやらせてくれ。墓守もしないといかんしな」
オロオロしてるカイルさんに対し、やっぱり姉上は姉上だ。しっかりしてる。やっぱり、国民の面倒とか見るつもり、なんだろうな。コーリマの国内、他にも街はあるわけだしどうにかしないと。
「その代わり、少し兵をもらって良いか? さすがに1人では、瓦礫の始末もできんからな」
「ああ、それは手配します」
「セージュ様。自分も微力ながらお手伝いいたします」
「ありがとう、イカヅチ」
うんまあ、何ぼ何でも1人じゃ無理だよね。それはカイルさんも当然分かってるし、だから部隊の手配もちゃんとしてくれるだろう。
それから、イカヅチさんはずっと姉上を守って……まあたまに黒っぽくなったりもしてたけどそれは置いといて、守ってたからこれからもそれは、変わらないだろうな。
なんてこと考えてたら、姉上がこっちガン見してる。正確に言うと、俺とカイルさんを交互に。
「お前たちは準備が済み次第、ラモットに凱旋だろう。クシマ大公もおられるが、そこからがお前たちの本当の戦場だからな」
「はい」
「わかっています、姉上」
そう言われて、2人して頷いた。白黒コンビもおとなしくしてるムラクモも、同じように。
あーそっか、ラモットに行ったらやっとこさ、ちゃんとしたシロガネ国の始まりなわけか。つか、俺何すりゃいいんだろ。白の魔女はともかくとして、カイルさんのフォローとかかな。
やれることは、やるしかねえとは思うけど。
「あ、それとジョウ」
「はい?」
何でか姉上が目の前までするすると歩み寄ってきて、耳元でひそひそと呟いた。他の誰かには聞かれたくないのかね、と思ってたら。
「カイルはああ見えて、父上の息子だ。万が一、夜に身体が持たなかったら、ムラクモにしばき倒してもらえ」
「………………」
たっぷり数秒、内容の理解に時間がかかった。
えーと夜で、身体が持たなくて、ムラクモがしばき倒すような話で、カイルさんはゴート王陛下の息子で。
「姉上、それはいくら何でも」
「うーむ、そうか?」
やっと理解できたせいで耳まで熱くなりながら、俺は何とか言い返してみた。いやいやいやいや、今からそういう話しされても。あと、首を傾げるな姉上。あんたも相手見つかったら立場は一緒だろうが。
『……せーじゅおねーちゃん、なんのおはなし?』
『たけだくん、きっとわれわれにはかんけいのないおはなしですよ』
『そっかあ』
幸いタケダくんは聞いても何の話か分からなかったのと、多分理解できただろうソーダくんがうまく流してくれたのでよしとする。
まあ、最大の問題は俺、そういうことだと理解しても特に問題あるように思えなかったところだな。もう、すっかり女になってるみたいだ。やべえ。




