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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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323.兄

「……あれ?」

「おや?」


 俺とカイルさんの声が、うまいこと重なった。

 いや、黒の神の身体がまっぷたつになって、そこから何か砂みたいにざあっと分解していったんだけどさ。その砂みたいのに巻き込まれた、と思ったらまた周り、白くなってやがんの。


『あっれー?』

『どうしたんでしょうか』

「分かんねえ」


 伝書蛇たちの疑問に、答えにならない答えを返す。いや、俺らだって知りたいよ。というか、タケダくんの背中に乗ったまんまだから、場所的にはそう変わってないと思うんだけど。


「カイル、ジョウ」

「へっ」


 名前を呼ばれて、慌ててそっちの方を向いた。そこには、ほにゃんとのんびりした笑顔のミラノ兄上が立ってる。

 カイルさん、不思議そうに目をこすってるな。何となく気持ちは分かるけど、さ。


「兄上?」

「僕が言える台詞じゃないんだけど、お疲れ様。カイルもジョウも、頑張ったね」

「え、あ、はい」


 兄上は前からこんな感じの口調で、のんびりさんでほっとする。それにつられて、俺はコクリと頷いた。

 何か違和感あるんだけど、それが何かはわからない。分からないままに、兄上の言葉を聞く。


「神は死んだ……とまでは言えないけど多分、しばらくは出て来られないと思うよ。千年とかそのくらい」

「うわ」


 せんねん、ですか。つか、あれで死んでないのか、さすが一応神。

 要するに、入ってた身体が無くなっちまったんで元の世界に叩き返されたってことだろうな。やれやれ。


「まあ、派手にやっちゃいましたからね……こちらとしても、そのくらいはおとなしくしててもらわないと」

「そうだね。コーリマのお城、建て直すの無理そうだし」


 揃って天然ボケ兄弟め、重要なのは多分そこじゃねえよ。いやまあ、確かにコーリマの城、派手に破壊しちゃってるしなあ。ここまででかいお城、建て直すのは無理か。金かかるだろうし。


「だからその間は、僕や太陽神様のところにいるご先祖様たち皆で、黒の神見張ってるから安心して」


 そう、兄上が言ってくれたその意味を、数秒ほど俺とカイルさんは理解できなかった。

 太陽神さんのところにご先祖様がいるのは知ってるし、多分同じ世界に黒の神も叩き返されたんだから見張れる、けど。

 その中に、兄上も入る、のか。


「……え」

「兄上……?」

「ごめんね。2人が勝つまで、保たなかったみたい」


 違和感、そうだ。

 ここがさっきまで戦ってたのなら空中で、だからミラノ兄上が当たり前のように立ってるわけがないんだ。

 それにやっと気がついた俺たちに、兄上はほんとゴメンねって顔で笑った。それから、ちょっと寂しそうに続ける。


「セージュ、そばまで来てるんだよね。生きてる間に会いたかったけど、駄目だった」


 ああ、やっぱり。

 ミラノ兄上、下に降りたらもう、そうなんだ。


「兄上……申し訳ない。もっと早く、ここまで来ていれば」

「そういうのは無しだよ、カイル。情報も何もないのにむやみに突っ込んでくるような王様は、父上だけで十分さ」

「……はい」


 寂しい感じな兄弟の会話聞いててあれだけど、ゴート陛下ものすごく無茶な人だったんだなあ。いやごめん。


「だから、カイルとジョウは今のままでいいからね。僕がご先祖様の仲間入りしたら、ちゃんと見守ってるから大丈夫だよ」

「そういえば、少し時間かかるんでしたよね」


 こっちのお葬式関係の話思い出しながらそう言うと、ミラノ兄上は「うん」と頷いた。土葬にして、骨だけになったら骨壷に入れて場所を移す。そこまで兄上は、ご先祖様の仲間にはなれない。まあ、こっちじゃ当たり前の話だから、今更言ってもしょうがないけどな。


『……みらのおにーちゃん』

『みらのさま』


 恐る恐る話しかけた伝書蛇たちにも、兄上は普通に兄上のままで話しかける。大きいままのタケダくんと、小さいままのソーダくんの頭を撫でながら。


「タケダくんと、ソーダくんだっけ。2人のこと、よろしく頼んだよ」

『はい、みらのおにーちゃん。ぱぱとままのことは、ぼくがしっかりまもるから!』

『むろん、しょうちしております。たいようしんさまに、よろしくおつたえくださいませ』


 2匹とも、兄上の言葉にしっかりとうなずいてくれた。……ありがとな、兄上。

 ところで。


「タケダくん、今何て言った?」

『え? ぱぱとまま』

「……パパ?」

『うん、ぱぱ』

「良かったじゃないか、カイル。白いお使いにも認めてもらったようだよ?」


 あっはっは、と兄上に笑われた。……そうだよなー、俺がママなら、旦那のカイルさんはパパだよなー今更だけどなー。

 あー、もう知らねえとばかりに頭を振ったら、兄上と目が合った。あー、顔熱いよこんちくしょう。こんな顔で、兄上とお別れなのか、なんてふと思った。

 そっか、お別れ、なのか。まあ、何か機会があったら会えるのがこっちの世界なんだけど……それはともかく、当の兄上は楽しそうに、右手をひょいと上げた。


「これで、僕も安心してあっち行けるね。2人はおもいっきり長生きしてから来るんだよ、いいね?」

「は、はい!」

「兄上!」


 顔が熱いままの俺と半泣きのカイルさんに向けてばいばい、と手を振る兄上の姿が透けていって、あっという間に白い光の中に、消えた。

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