321.正面からたたっ斬れ
ビシャモンとチョウシチロウが、黒の神の周りをぐるぐるとある程度距離を取って回る。その頭の上で、大公さんとアキラさんがまあ楽しそうに挑発してるんだよねえ。年の功なんだか何なんだか。
「ほれほれ、黒の神とかいう小娘よ。この爺も倒せぬようでは、世界はお前さんのものにはならないのう!」
「黙れ!」
「黙らんわい。わしゃ、すーちゃんの仇取らにゃならんでな。ラセツ、カテン、スイテン! 光の刃連続で放て!」
って大公さん、他の子も連れて来てたのか。複数のビームがいっぺんに何回も照射されるのは、どっちかっつーとロボットアニメみたいである。黒の神……の方は単独で黒い羽を飛ばして、相殺しているようだ。
「婆もおるでな、ええかげん神の世に引っ込んだほうがええぞ小童や!」
「ただの死に損ないだろうが!」
「そうとも言うがのう、お前さんだけには言われたくないわい! ヘイゾウ、コヘエ! 風の刃で好きなだけ切り刻め!」
こっちも連れて来てた。けど、風の刃のサイズと量が洒落になってないっつーか、うん。大公さん側、よく当たらないよ。
と、俺たちも見てるだけって訳にはいかない。何しろ、任せてもらうんだから。
「タケダくん、ソーダくん! 風の刃、行くぞ!」
『はーい!』
『わかりました!』
「少し下から、腹のあたりをすくい上げるように狙えばいい。それなら、あの2人と干渉しない」
「了解!」
カイルさんの支持に従って、風の刃を下から接近するように放つ。そっか、あの2人どっちかっつーと上から行ってるもんなあ。
で、こちらの刃、数枚が何とか黒の神までたどり着いた。多分刺さったと思うんだけど、どうもダメージ出てない気がする。本体は固いのかね、まあ胴体はせーちゃんやゲンブだしな……と思った瞬間。
「貴様らの刃など、痛くも痒くもないわあああああああああ!」
言ってる割に痛いのか、それとも頭に来たのか、黒の神が叫んだ。その叫び声が衝撃波になって、周囲を弾き飛ばすようにどんと圧力が来た。
「……っ!」
「あああああっ!」
やべ、と思ったところでカイルさんが、剣を一閃。待て、衝撃波って剣で切れるのか? ブオン、って感じで俺たちの両側を突風だか何だかわからないもんが突っ走ってったぞ。
そんな感じでこっちは無事だったけど、大公さんたちの方はそうは行かなかった。何しろあっちは人間ひとりずつしか乗ってないし、乗ってるのは魔術師だし。
「ぐぉっ!」
「ぎゃあっ!」
「大公さん、アキラさんっ!」
どん、という圧力が伝書蛇にもぶつかって、一瞬バランスを崩す。ビシャモンが吹っ飛びかけ、チョウシチロウが失速してやばい。
「案ずるな!」
「このくらいでないと、神など名乗れぬわなあ!」
それでも2人、というか2匹ともすぐに態勢を立て直す。とは言え、多分今の衝撃波で軽くくらくらしてるみたいだけど、それでも彼らはやっぱり攻撃をやめない。
「そうじゃのう。炎の盾、パンチじゃあ!」
「時間差で氷の雨!」
大公さんの炎の盾パンチが黒の神をかすめ、次の瞬間奴の上からアキラさんの氷の雨が降ってくる。俺は魔力を拳にこめて、叫びながら突き出した。
「光の盾、パーンチ!」
「タケダくん、光の盾を追いかけて突入!」
『はーい!』
『ぼうぎょよう、ひかりのたて!』
俺が叩きだした光の盾を追うようにカイルさんが指示を飛ばし、タケダくんが素直に答えて突進を始める。ソーダくんが即座に守り用の光の盾を張ってくれたのは、さすがだよな。
……一瞬、俺たちの全身を風の魔力が渦巻いた。
「風の刃、付与」
「風の刃、付与するえ」
「え」
手元でほわん、と魔力が貯まったのが分かる。いや、手元っつーか持ってる杖だ。カイルさんも、自分の剣を見てあれっという顔になってる。
「せーちゃんの牙でできた剣と杖じゃろ」
「なら、風の魔術は相性が良いはずじゃ」
「……あ、ありがとうございます!」
「助力、感謝!」
大公さんと、アキラさんがにっと笑いながら言ってくれた。そっか、せーちゃん、風の魔術得意だったもんなあ。ありがたくお礼を言いながら俺は杖を、カイルさんは剣を構えた。
あっという間に目の前に、シオンの顔と使い魔の身体を持った黒の神。奴は俺たちを睨んで、シオンの声で吠えた。
「オウインの小童! 太陽神の下僕め、その魂食らってくれるわ!」
「できるもんなら、やってみやがれクソ外道!」
「その前に、斬る!」
もらった魔力は十分で、だから俺は詠唱も何もなしにただ杖をまっすぐ前に突き出した。その先端、マヒトさんが付けてくれた宝石から魔力がだーっと溢れ出し、黒の神が口から放った黒ビームを真正面からぶち抜く。
『ままにおいたしちゃ、めー!』
『かぜのやいば、よこからはいります!』
タケダくんが吐いたビームが、じゅっと元ゲンブの翼の一部を焼く。同じ翼の別の場所を、ソーダくんの風の刃が切り裂く。もともとボロかったけど、あそこ弱いんだな。
そうして。
「顔は、人のままだな。風の刃」
カイルさんが全力でぶっ放したその切っ先が、シオンの顔を、斜めに斬り裂いた。




