319.巨大援軍
カイルさんが微妙にへこんだところで、何故か下から援護がやってきた。まあ、魔術なんだが。
「炎の刃!」
「風の刃!」
「当たるか!」
自称神がうにょるん、と空中を荒れる風の中の鯉のぼりみたくかわす。でも、炎の方が一瞬元すーちゃんの翼をじゅっと焼き、風の方が元ゲンブの翼をかすめた。あっちはもともとぼろぼろだから、あんまり分かんないけどな。
そうして下から、今のタケダくんとそんなに変わらないサイズの伝書蛇が上がってきた。……あー、両方共見覚えある、というか。
「きしゃあ!」
「しゃあ!」
『びしゃもんさんだー!』
『ちょうしちろうさま!』
「待て待て待てそのコンビはっ」
「……クシマ大公、店主殿!」
……はい。ショタジジイ&ロリババアコンビでした。アキラさんはともかく大公さん、回復早かったなおい。
「まーったく、やっぱりヒョウちゃんはお間抜けじゃったのう!」
「悪かったよアキラっち! 後で笑われるから、今は放っといてくれんかの!」
なおこのコンビ、文句の言い合いしつつ黒の神のビーム攻撃弾きまくってやがる。年の功すげえ。
とは言え、弾いてるだけでいわゆる膠着状態ってやつ、なんだけどな。
『ままのおてつだいに、きてくれたの?』
「うむ、そうじゃよ」
タケダくんが光の盾全開してから、きょとんと首かしげて尋ねる。それにアキラさんが頷いてから、ジト目で大公さんを睨んだ。
「というか、幼なじみがぶっかました大ボケのフォローに参ったわい。戦の手伝いは任せおけ」
「何ぼけっとしとるんじゃあほんだら、耄碌しおったかと尻を蹴られてのう」
ぶん、と大きく振られた黒い尻尾を、一斉にかわす。左右に分かれて、それから各自得意の刃魔術で応戦した。俺とアキラさんが風、大公さんが炎。もちろん、向こうも闇の盾で弾く。
で、大公さんは小さくため息をついて、ぼそっと口にした。
「わしゃ、まだそんな歳じゃないわい」
『いやいやいやいや』
俺もカイルさんもアキラさんも、一斉に胸の前で手を振った。玄孫がいるアキラさんと同い年の幼なじみ、な時点で相当な歳だからな大公さん!
相当な歳、といえばここにいる人間の誰よりも確実に年上、な輩が目の前にいる。そいつがかぱりと口を大きく開けて、今度はえらく範囲の広い黒ビームを放ってきた。やっべ、回避したつもりがタケダくん、お腹んところを軽くかすめたっぽい。
「ふん、当たれば脆いの」
『いたーい! くろのおばちゃん、ひどいー!』
「が、我慢してくれ!」
くろのおばちゃんか、というツッコミはさすがにやめておく。けど、確かに当たればヤバいんだよなあ。だから、さっきから盾で弾いてるんだけどさ。
ええい、タケダくんソーダくん、盾頼んだぞ。攻撃行ってみるか。
「氷の礫っ!」
何度も言うけど、水なら山ほどあるコーリマ王都。湖から水を拝借して風の勢いで冷やして氷にして、んで大量にぶつける。威力は低いけど、目眩ましには効果あるはずだよな。この間に、突っ込めば……と思った俺が、甘かったらしい。
「氷と闇の雨よ、人を穿て」
ぶつけられながらも自称神は、魔術を発動した。こっちに向けてというか、俺らの上から真下に向かって。
つまり、シロガネも黒帝国もごちゃまぜになった兵士たちにもその攻撃は、届く。
『ひかりのたて!』
「きしゃあ!」
「しゃああ!」
ソーダくんとビシャモン、チョウシチロウが即座に自分たちの上に光の盾を展開する。けど、黒の神が放った魔術の範囲はむちゃくちゃ広くて、そのほとんどが俺たちの横をすり抜けて下に降っていく。くそ、これが狙いか。
もちろん、下にだって魔術師はいる。ラセンさんの凛とした声が、微かにだけどこっちまで届いた。
「光の盾、全開にせよ!」
「根性のある者は自分で切り払え! 魔術師にばかり苦労を掛けるな!」
いやこらアオイさん、さすがにそれは無茶じゃね、と思う。けど多分、白黒コンビとかスオウさんとか、普通に切り払ってるんだろうなあと下見なくても分かるよ、これは。
でも、当然それで全員が助かるわけではない。降っていく雨と入れ代わりに、黒っぽい霧のような何かがモワモワと上がってきて、そうして黒の神に吸い込まれていく。
「ははははは! そうら、すべてを守ることは無理であろ! 魂が、魔力が我がもとに押し寄せてくるわ!」
高笑いするあの声は相変わらずシオンの声で、だから余計に俺は、ムカついてならなかった。




