315.太陽神
気が付くと、あたりは真っ白だった。感覚としては、『龍の卵』の中と同じ感じ。光の壁に、ふんわりと包まれてる。
ただ、床は謁見の間のまんまなんだよね。てことは、どこかに瞬間移動したというわけではない。
つまり、誰かさんが俺の……いや、カイルさんたちがひっくり返ってるのが見えるから、俺たちの周りに結界を張って守ってくれたらしい。崩れる城の、瓦礫から。
誰がだよ、と思いつつ身体を起こした。ふむ、とりあえず魔力戻ってるよおい。
『ごめんごめん。なかなか、手が出せなくてね』
「……タケダくん?」
上から降ってきた声に、顔を上げる。……えーと、あれ。
いやね、上から話しかけてきたのはどう見てもタケダくんなんだよ。真っ白で赤い目の、伝書蛇だから。
ただし、やたらとでかい。ヘタすると、初めて会った時のせーちゃんくらいある。うん。
『うん。その、タケダくんの口を貸してもらってるんだ。白の使いだから、僕とは相性いいからね』
『そのかわり、ままやみんなをまもるまりょく、かしてもらえたんだよー』
……はい?
今、同じ声で2人分、というか何というか、声が聞こえたな。後から出てきた方は確実にタケダくんなのは、口調で分かる。すると、先に呼んできた方はマジ、どちらさんだろうか。
『そ、それでおおきくなったんですね。たけだくん』
俺の懐から転がり落ちたソーダくんが、人間なら冷や汗かきつつと言った感じで答える。いや、そこで無理やり落ち着かなくてもいいからな。
しかし、口貸す代わりに魔力借りられるってどういう相手だ。というか、タケダくんと相性が良いって……え。
「……太陽神、さん?」
『うん。こうやって直接話すのは初めてだね』
マジすか。
何で口調が……ああうん、ミラノ殿下だ。殿下と似てるんだろ、わけわからん。王族の長男と同じボンボン育ちか、この神様は。
などという大変失礼な思考が頭を駆け巡っていたところを、聞き慣れた声が停止させてくれた。
「……ジョウ?」
「カイルさん!」
はっと振り返ると、ぽかんとした顔でカイルさんが座ってる。ああうん、あんた恐らくせーちゃんが黒くなったあたりで記憶途切れてるとか、そういう感じだろ。まったく、と思いながらソーダくん拾って駆け寄る。
で、起き出したのはカイルさんだけじゃなかった。
「な、何じゃ?」
「……生きている、みたいですね」
大公さんは赤い髪をぼりぼり掻きながら、シッコクさんは何度か首をひねりながら起き上がる。この2人もまあ、大丈夫そうだ。
で、最後の1人。
「……カイル?」
「兄上!」
ミラノ殿下は転がったままで……どうにか弟の、カイルさんの名前だけを呼んだ。慌てて中腰で近づいたカイルさんは、どうにか殿下の上体を起こさせた。
で。
『もう、いいかな?』
「あ、はい」
とりあえずこの場にいる全員の無事を確認して、タケダくんの口を借りた太陽神さんはよし、という感じで頷いた。もしかしたらタケダくんかもしれないけど……ひょっとして思考回路似たり寄ったりだろ、あんたら。
ま、それはともかくだ。
『ええと。黒の神はこの辺りに貯め込まれた魔力と、それから神の使い魔の力を得て復活した。これは分かるかい?』
「はい。俺は見てましたから」
太陽神さんの台詞に、ああそうだと思い出しつつ頷く。よく考えなくても今、外じゃ人間大ピンチ中じゃないのか、それって。
事情見てた俺はいいんだけど、他4名はまあ覚えてないだろうと思ったら全くその通りで。
「神の使い魔……そういえば、すーちゃんの気配がないのう」
「せーちゃんもです」
「ビャッコ様が、おられませんね」
「……うん、ゲンブもいないね」
まあ、4人共不思議そうな顔をした。そりゃそうだよなあ、知ってるの俺だけだろうし。ともかく、簡単に説明。
「……黒の神が、シオンの魂共々食ったって言ってました。ゲンブと、ビャッコも」
「シオン?」
「黒の魔女だな。……彼女も食われたのか」
シッコクさんが首を傾げるのに、カイルさんが難しい顔をして口挟んでくる。知らない間柄じゃないしな、あんたとかミラノ殿下とか。
それで、太陽神さんが今の状況を教えてくれた。
『うん。黒の神は自分をこっちの世界に引っ張り出してきた、自分の巫女の魂を食ってその身体を乗っ取った。そして、神の使い魔の力で自分を強化して、今城の外で暴れてる』
「あの蛇の身体とか翼とか、あれ使い魔さんたちのですか」
『そうだね』
うわあ。合体邪神になっちまったのかよ、黒の神。何そのゲームだか何だかっつー状況。いや現実だけど。つかそうだね、じゃねえよ太陽神さんよう。
ともかく、その合体した黒の神に、俺たちが勝つ算段あるんだろうか。……つっても、昔は神の使い魔4体従えた黒の神に勝ってんだから、何とかなる可能性はあるのか。
そんなことを全員考えてたんだろう、視線が巨大タケダくんに集中する。赤い目をまんまるくして、タケダくんの声で太陽神さんは、ちょっと済まなそうな感じで言ってくれた。
『正直に言えば、僕があいつと同じようにして戦うのが一番早い。つまり、僕自身がこっちに出てきて自分の巫女の身体を使って戦う、ってことなんだけど』
「まあ、順当ですのう」
大公さんが、うんうん頷いた。確かに、直接対決ってのが一番手っ取り早いんだよね。でも、太陽神さんは何か、それやりたくないっぽい。
その理由は、すぐに当の太陽神さんが教えてくれたんだけど。
『だけどそれには……ジョウ、だったよね。君の魂が消えることになってしまうんだ。食う、食わないにかかわらず、神を宿す肉体に選ばれればその人間は耐えられない』
「それは、いくら太陽神様といえども許すわけには行きません!」
『せんえつながら、じょうさまのつかいまとしてもはんたいさせていただきます』
『まま、いなくなっちゃだめー!』
カイルさんとソーダくんとタケダくんが即答。いや、俺の問題だからね?
つか、そうか。黒の神がシオンの魂食らってその身体乗っ取ったっての、太陽神さんでもそれは同じことになるんだ。太陽神さんが俺の身体に入ったら、俺自身は消えてなくなってしまう。
……だったら、どうすればいいんだろう?




