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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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314.魂を喰らった者

 そいつは何度か深呼吸をして、にかりと歯をむき出しにして笑った。でも、目が何か笑ってない、ってのは分かる。中身がもう、俺の知ってる武田四恩、黒の魔女シオンじゃねえってのも。


「この小娘にも、感謝せんとな。これほどの魔力を、ひとところに集めてくれたのだから」


 前髪の中からちらりと見えた右の眼。そこにはもう、真っ黒な何かしかなかった。それでも、こっちを見ている。視線が突き刺さって、ただでさえ魔力吸われて大変なのに、動けねえ。くそう。

 そんなことを考えているうちに、シオンだったそいつは足音もなくするするとこちらにやってきた。……いや、足音どころか床滑ってきてねえか? じゅうたんの上を?

 ……足元が、変だ。あそこまであのドレス、長くなかったはずだ。まるで、蛇の胴体からしっぽのように長く、長く伸びてる。


「ふむ」


 そんなことを考えてるうちに、シオンの顔をしたそいつは俺の目の前まで来ていた。そうして髪の毛をむんずと掴んで、そのまま引き上げる。いてえだろこの野郎、ハゲたらてめえのせいだぞ。


「貴様が太陽神の巫女か。哀れよの、その力ろくに使えぬまま終わるか」


 声はシオンだけど、どことなくさっきの黒い霧のごぼごぼ、って感じが混じっている。つーか、てめえやっぱり、黒の神か。シオンの身体使って、このやろう。


「……シオンはどうした。それに、使い魔たちは」

「この身体の主か? あのようなちっぽけな魂、我が魔力の足しにもならぬわ」


 俺の問いに、そいつは目を細めた。つか、魔力の足しにもならないってことは、つまり。


「食ったのか」

「当然だ。ひとつの身体に2つの魂、邪魔であろ?」


 それが当たり前、という感じでそいつ、黒の神は不思議そうに首を傾げる。それから、ちらりと肩越しに背後を見てから、また目を細めた。口元に、長い牙が見える。


「使い魔共も、我が食らった。さすがにあれらは、良い魔力となったのう」


 使い魔も、食った。ゲンブもビャッコも、すーちゃんもせーちゃんも。

 あっさりと操られて、あっさりと消えた。

 ……これが、神。


「……ふん」


 一瞬俺の目の前まで顔を近づけてから、黒の神はぽいと俺を放り出した。身体に力入らないからもう、そのまま床に倒れるしかない。懐にいるタケダくんとソーダくんに何もないように、せめて重心だけはうまく動かしてうつぶせになるのは避けたけど。


「太陽神の巫女なんぞの魂を食ろうたりしたら、腹を壊すな。貴様はそこで、世の終わりを見ておるがよい」


 頭の横をずるり、と通り抜けていく黒いスカート……じゃねえ。これ真っ黒な蛇の胴体だ、マジで。

 そして、その上の方でばさっと鳥の翼が羽ばたく音がする。見上げてみるとでっかい、やっぱり真っ黒な鳥の翼が、奴の背中に生えている。


「そこな男」

「へっ?」


 その黒の神が呼んだのは……あー、腰抜かしたままのトウマさんだ。そのトウマさんに向かってそいつは、片手を伸ばしてくい、と招く。


「我がもとに参れ。その魂、我が巫女と同じく食らうてやろうぞ」

「は、はい……」


 手招きに引っ張られるように、トウマさんが立ち上がる。そのままふらふらと黒の神の懐までたどり着くと、その身体をぎゅむと抱きしめた。


「あああ、黒の神よ、私をたっぷうぐっ」


 トウマさんに言葉を最後まで言わせずに、黒の神はその唇に噛みつくようにキスをした。そのまま、ストローでジュースでも飲むようにぐいぐいと吸い上げていく。いや、トウマさんがどんどんしぼんでいくからそうなんだろう、という推測だけど。

 ほんの数分も経たずに、トウマさんは干からびたミイラになっちまった。それをぽいと放り投げて、黒の神はつまらなそうに吐き捨てた。


「所詮は小僧だな。まあ、良かろう」


 自分が捨てたものには、もう目もくれない。不要なゴミだから、なんだろう。

 そうして彼女は、黒の神は両手を空に向ける。背中の翼が大きく広がり、その下からずたぼろなもう一組の翼も現れた。


「人の築いたちゃちな城、この手で砕いてくれようぞ」


 ばたん、と蛇の尾が床を叩いた瞬間、黒の神の手に黒い雷の珠が現れた。ばちばち放電しながら天井に上がっていき、それと同時にどんどん大きくなる。

 やべ、この城壊す気か。


「てめえ、待ちやがれ!」

「太陽神の巫女、できれば生き延びろよ? 簡単に死んでくれては、こちらがつまらぬ」


 俺の声に、そいつはシオンの顔で振り向いた。虎の牙を剥き出しにしてにかっと笑った瞬間、黒い雷がはじけ飛ぶ。


「カイル、さんっ!」


 俺は良い。ただ、カイルさんを守らないと。大公さんも、ミラノ殿下も、シッコクさんも。

 けど、動けねえ。ちくしょう、雷で破壊された天井がガラガラ崩れ落ちてくる。このまま、つぶされる。


『──まま!』


 ほんの一瞬だけタケダくんの声が、聞こえたような気がした。

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