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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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313.黒の神、降臨

「北の水のゲンブ、東の空のセイリュウ、南の炎のスザク、西の大地のビャッコ」


 シオンが名前を呼ぶたびに、対応する神の使い魔が苦しそうに唸りを上げる。セイリュウさんやスザクさんはともかく、ゲンブもビャッコも苦しいんだろうか。


「あはははは! そなたらが仕えし長のために、祈れ、祈れ! 魔力なら、この王都のメス共にたっぷりと注ぎ込んであるわ! あーはははは!」


 高笑いしながらシオンは、何気にえげつない台詞を口にする。もっとも、そんなの気にしてるのはこの場では俺だけだろう。トウマさんは俺に腰当てて来てほとんど電車の中の痴漢状態だし、カイルさんたちは感情のない顔で相変わらず訳の分からない言葉を唱えている。

 ……やっぱこいつ、そのためにあちこちから人をかき集めてたのか。太陽神教の総本山からも、結界の中でどっぷり黒の気に浸かって魔力タンクと化した人たちを船で運んで。



「そこの、魔女を騙る小娘も魔力の糧となろう! さあ、どんどん吸い上げよ! 神を呼び出す魔力を!」

「……っ」


 あ、やべえ。身体の中から、目に見えないもの……魔力が出て行くのが分かる。と同時に、えらくエロい妄想に取り憑かれてきた。

 マジやべえ。今すぐ、俺とっ捕まえてるトウマさんに酷いことされたい。いやいやいやいや、駄目だっつーのと必死で自分に言い聞かせる。

 ああこんちくしょう、ミラノ殿下も、ゴート王陛下や正妃殿下もこんな感じで、頭の中どピンクにされちまったのかよ。冗談じゃねえや、こんなんでやられてたまるか、ああでも、くそう。


「さあ、祈れ、祈れ。我らが神をこの世界に取り戻し、人間どもから下らぬ理性を吹きとばせ」


 シオンの声と、カイルさんたち4人の訳の分からない祈りが、頭の中に妙に響き渡る。うるせえこの野郎、てめえの思い通りだけにはならねえ。

 でも、多分もう、俺もヤバいかも。もう、どうなってもいい、かも……。




 祈りの声は、唐突に終わった。どさ、どさという音がして、カイルさんたち4人がその場に倒れ伏す。セイリュウさんたち神の使い魔は……既に、その姿はどこにもない。どこかに行ったのか、マジで消えたのかは分からない。

 つか、急に頭がすっきりした。誰だよ、トウマさんとエロモード入ってもいいなんて考えてたの。俺か。


『────』

「ああ……おいでくださったのですね、我が神よ!」


 んなこと考えてる場合じゃなくって。4人が倒れてるその中央に、どす黒い霧がガッツリ浮かび上がっている。今まで見た中で一番濃くて、気持ち悪い。


『じょうさま……』

『まま、まっくろ、こわい』


 ソーダくんが怯えてる。タケダくんが泣き出してる。ああ、間違いねえな。

 あれが、黒の神か。つか、使い魔たちみたいにちゃんとした形、ないんだな。

 さて、トウマさんの腕、力抜けてるみたいだし押し戻すか。さすがに短剣でざっくり、はやめとこう。黒の神に生贄やるみたいで、気分悪いし。


「とりあえず離れろよ。どうせ、何やっても遅いんだろうが」

「え、あ」


 魔力が抜かれてるのか黒の神に見とれてたのか、ともかく俺はトウマさんから離れることができた。途端、膝ががくんと落ちる。シオンが黒の神にうっとり見とれてるっぽいので、こっちに目を向けることはないんだけど。


「……カイル、さん」


 あー、くらくらする。魔力、吸い取られてんなこれ。必死で絞り出した声も、もしかしたら倒れてるカイルさんのところまでは届いてないかも。つーか、まるで反応ねえし。生きてるのかな、皆。


『我を、人の世に呼び出したは、貴様か』


 もっとも、そんなことはまるで気にしてない黒の神は、ごぼごぼとすっごく聞きにくい声で言葉を紡いだ。会話の相手はまあ、すぐ前にいるシオンだろうな。


「はい! わたくしにございます、我らが神よ!」


 そして当のシオンは、もう心の底から嬉しくてたまらない、という感じではしゃぎながら答えた。黒い霧ににじり寄り、今にも顔突っ込みそうな勢いである。息詰まらねえかな、あの霧だと。


「この日をお待ち申し上げておりました……黒の神官に汚され、絶望していたこのわたくしめにこの世界でなすべきことをお教えくださった我が神よ。ついに、その日が来たのですね」


 ……いや、シオン。確かにその状況には、同情する余地はちょっとだけあるけどよ。

 けど、てめえでてめえのおっぱいわしづかみにしながらその台詞は、いくら何でもどうだろう、な。

 まあ、そこら辺はやっぱり黒の神は気にしないみたいで、満足そうに答える。やっぱりごぼごぼ、って聞き取りにくいなあ、あの声。


『まあ、その尽力には感謝しよう。よって、我より褒美を授ける』

「ああ、ありがとうございます!」


 褒美。

 その言葉にシオンが喜んだ瞬間、黒い霧があっという間にやつを包み込んだ。


「……え? ふあ、か、神よっ、何を」

『ふむ。雌として、さんざん使い潰されたな』


 あーうん、具体的に言うと黒い霧、思いっきりシオンの全身弄り倒してる。まあ、人間から理性引っ剥がして獣にしようなんていう神なんだから、そっちはやっぱりお盛んなんだろうけどさ。


『魔力も程良く残っておるな。この周囲におる人間どもを片付けるにはちょうど良い』

「かかかかみよ、なぜわわわわたし、に」


 そのうち、シオンの身体がガクガクと激しく上下に揺さぶられ始めた。そして、だんだん黒い霧が薄くなってきてる……いや、違うわ。ナカに入っていってるんだ、あれ。

 初めてこっちの世界に引きずり込まれたあの日、ほんの少しだけ違っていればあそこにいたのは、俺だ。

 あんな風に、俺は。


『貴様が我を、この世に呼び出した。その責任を取れ、使い古しの身体なら安かろう』

「あががががなか、なかにはいってくるう、わ、わらひが、わらひがくわれれれれれれれああああああああ!」


 黒い霧が完全に消えた瞬間、シオンの絶叫が室内に轟いた。びくびく、と全身を硬直させたまま叫び続けて、そうしてシオンはがくりと首をうなだれる。

 そうして。


「人間よ。まずは神の名において、多すぎるその数を食らってくれようぞ」


 シオンの顔をした神は、くわりと楽しそうに笑った。

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