311.黒き神の使い魔
一瞬、ごうと黒い雷のようなものが空を走った。ばちん、とスザクさん、そしてセイリュウさんにそれが命中する。
『!』
『ぐっ!』
そのまま、その黒い雷が2体の身体にまとわりつく。空中でジタバタ暴れるスザクさんとセイリュウさんを、ただじっと見ているゲンブとビャッコが何となく、怖い。
「セイリュウ! しっかりしろ!」
「スザク、振り払え! おぬしならできるはずじゃろうがっ!」
すぐ側で、カイルさんと大公さんが声を張り上げた。ムラクモやグレンさん、白黒コンビたちが周囲を警戒してくれてるから、こっちの意識が上に集中してるのは大丈夫だと思う。つか、どっちの兵士も相変わらず上空に注目中だしな。
て、そんなこと考えてる場合じゃねえ。こら神の使い魔、しっかりしやがれと俺も声を張り上げる。
「セイリュウさん! スザクさんっ、黒に負けないで!」
『お嬢ちゃん……すまん、のう』
『伝書蛇たちには、影響はせん、から』
おいこら、そんな台詞言うなんて、負けそうだってことじゃねえか。
「んなことどうでもいいから、振り切ってくださいよっ!」
『……無理、じゃな。腹が、立つが』
『……我らは、そもそも……黒の神の、つかいま』
ぶつん。
突然、黒い雷が消えた。2体が振り切ったわけじゃなく、多分支配が完了したんだろう。
スザクさんもセイリュウさんも、ゲンブやビャッコと同じように空に浮いたまま、何も言わない。
「陛下、大公殿下?」
「え?」
グレンさんの声が届いて、俺は慌てて視線を上空から自分のすぐ横に戻した。……あれ。
カイルさんと大公さんが、空を見上げたまま動かない。
「カイルさん?」
「大公殿下、どうなされた」
俺がカイルさんの、ムラクモが大公さんの頬を叩いてみるけど反応は全くなし。ぼうっと、空を見つめてる。
これやばいかもしかして、と思った矢先にシオンのやつが、笑いながら声を張り上げてきた。
──スザク様、セイリュウ様。我らが神の使い魔として生まれた、あの頃に戻ってくださいましたわね。
──その主を僭称する人間どもよ、そなたらは神の人形として生まれ変わったのですよ。
『まま! すーちゃんもせーちゃんも、あたまのなかまっしろになってる、みたい』
『あるじであるおふたかたも、それにひきずられているようです』
「マジか」
タケダくんとソーダくんが半泣きの声で言ってきたことに、思わず顔をしかめる。それから、ふと気がついた。
さっきセイリュウさんが言ったの、もしかしてこの事だったのかな。少なくともタケダくんとソーダくんは、セイリュウさんたちやカイルさんたちみたいにはなってないし。
まあ、それよりも何よりも。
「シオン、てめえかあ!」
王城に向かって、叫ぶ。今目の前にいたら、魔術じゃなくて拳でぶん殴ってるところだ。
あの野郎、すっかりとんでもない馬鹿に成り下がってやがった。その馬鹿は、更に笑いながら神の使い魔たちに、命じやがる。
──さあ、来たれ。神が現れる、その場所へ!
「きしゃあああああ!」
シオンの声に答えるように、スザクさんとセイリュウさんが吠えた。そうして、音もなく下がってきたスザクさんの足に大公さんが掴み取られる。ムラクモは……直前に身をかわしたから、無事だな。
けどこれ、てことはセイリュウさんも。
「カイルさんっ!」
あいにく、こんな状況で自分の相方ほっとけるほど俺は心は広くない。
ので、セイリュウさんが降りてくるのを確認する前にがしっと、カイルさんの身体にしがみついた。そうして、そのまま一緒にセイリュウさんにむんずと掴まれる。
「うぐ」
おうせーちゃん、正気に戻ったら悪いけどしばくぞてめえ。
ま、しっかり掴んでくれたおかげでちょっときついけど、何とか行けそうだ。
そのままぐん、と空へ持ち上げられたところに、ムラクモが「ジョウ!」と俺の名を叫んだ。だーそうだ、一応命令くらいはしとかねえと。
「ムラクモ! 王都への攻撃の手を緩めるな! 多分城に連れてかれるから、余裕できたら俺たちを助けに来てくれ!」
「……了解した! 助けに行くまで死ぬことは許さんぞ、ジョウ! タケダくん、ソーダくんも!」
ムラクモのその返事を聞いて、俺は何かほっとした。そのまま、カイルさんに改めてしがみつき直す。
つーか、今度は俺がくっついて行く形になるのな。全く、この残念天然イケメン国王旦那め。正気なくしてぼーっとしててもイケメンはイケメンなんだよ、冗談じゃねえな。もう。




