309.援軍と援軍
復活したムラクモは、ここが私のステージだとか何とかいうノリで踊るように敵を倒しまくる。つか、いつの間にこんなに接近してやがったんだこいつら、と思いながら俺も光の盾パンチを乱打しまくった。もちろん、カイルさんも気合入れてずんばらりん。
「はー、久々に身体を動かすのは楽しいな」
『むらくもおねーちゃん、げんきー!』
『むらくもさま、さすがです!』
「おお。タケダくん、ソーダくん、相変わらず元気にジョウを守っているな?」
爽やかに微笑むムラクモに、タケダくんとソーダくんはすっかりノリノリである。あーうん、これがスポーツ大会とかならものすごく似合うんだけどな、今戦闘中だから。
「ムラクモこそ、すっかり元気そうで何より」
「無論だ。この戦に遅れて、カイル様とジョウを守る忍びとして働けぬようでは兄上にも顔が立たん」
風の刃で兵士をバッサリ斬り倒しながら、俺も彼女に声をかける。ムラクモはいつもどおりの笑顔のままで、ふと視線を別の方向にずらした。
「それに、私だけではないぞ?」
「え」
ムラクモの視線の先。黒の兵士たちを、赤い髪のおっさんがこれまたずんばらりんとたたっ切っていた。片手で。
片手、で。
「はっはっは、案外慣れるもんだな」
「グレン!」
「グレンさん!」
いや、さすがにカイルさんもびっくりするよね。もげた側の腕が見えないようにマント付けて、やたらかっこいいでやんの、グレンさん。つーか、使ってる剣、前と同じやつじゃね?
「お待たせしゃっした。片腕ですが、十分戦力にはなりますぜ?」
「ああ、見れば分かるよ。助かる」
その剣でどす、と2人ばかり串刺しにしてからポイ捨てたグレンさんに、カイルさんは苦笑して頷く。うん、今の見たらものすごく戦力になるってよく分かるし。
「マジ、間に合って良かったっすよ。師匠にちょっとくらい、いいとこ見せたいですし」
「まあ、そういうことだ。タケダくんとソーダくんに、私のカッコいいところを見せたいからな」
グレンさんは良いけどムラクモ、何でカッコいいところ見せる相手が相手なんだろうな。まあ、ムラクモだからなんだけど。
「戦が終わったら、たっぷりなでなでするからな。タケダくんもソーダくんも、ちょっと待っていろ」
『はーい!』
ははは、ここらへんはマジ相変わらずで何よりだ。うちの子たちも上機嫌になって、おかげで魔術の威力が増した気がする。多分、気のせいだけど。
一方グレンさんの方は、カイルさんのサポートに入ってくれた。ま、実質ムラクモと2人で俺たち2人のサポート、になるんだろうけど。
「つーか陛下、あんたもしっかり周囲見て下さいよ。狙われるの、分かってんですからね」
「わ、悪い」
『まったく、これじゃから主にはワシがおらんといかんのじゃねー』
せーちゃん、グレンさんには聞こえないからって何言ってんだ。カイルさん、一瞬むっとしたぞ。
ま、そこら辺はともかくとして。グレンさんはまた3人ほど斬り捨てると、剣を掲げて雄叫びを上げた。
「野郎ども、怯むんじゃねえ! 黒の神んとこに連れてかれたら、その喉掻っ切って来やがれえ!」
「おおおおおおおっ!」
あ、シロガネの兵士がさらにテンション上がった。まあ、死んでもそのままじゃ済まさんぞ、ということだしなあ。
しかし、戦闘中の妙なハイテンションってすげえな。あんな台詞でも、更にやる気が出るんだから。
ただ、それでシオンがおとなしく負けてるわけもなかった。
目の前のコーリマ王都、ここからでも見える王城の方角から、一瞬どくんと気持ち悪い何かが溢れ出したんだ。
「ん?」
『む、マズイな』
「せーちゃん?」
それまでのほほんとしてたせーちゃんが、急に緊張した感じになる。いや、せーちゃんが緊張するってよほどのことだろうが。例えば、黒の神が来ちゃったとか。
『これは、あやつらか』
「ら? 複数ですか」
……複数だから、それはなさそうだ。そうなると……黒の神じゃなくて、せーちゃんが緊張するとなると。
「ジョウ、下がれ。何か出てくる」
「陛下! 気いつけてくださいよ!」
俺はムラクモに、カイルさんはグレンさんに言われて少しだけ後ずさる。でも、何というかそれ以上下がれない。何でだろ、この場にいなくちゃいけない、気がする。
カイルさんが、何だか苦しそうに顔を歪めながら、息と言葉を吐いた。
「……セイリュウ、これは、もしかして……」
『間違いないの。これは……』
王城が、どす黒い霧に覆われる。その中からきしゃあ、ともしゃぎゃあ、ともいう感じの吠える声がして、そうして霧の塊が2つ、長く伸びながら実体化する。
片方はだいぶ前にも見たことがある、水のような蛇。
もう片方は初めて見る、薄汚れた白い身体の、虎みたいな獣。
『ゲンブ、ビャッコ!』
その2体の名をせーちゃんは、セイリュウは叫んだ。




