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生贄にされかけたらしいが俺は元気です。女になったけど  作者: 山吹弓美


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308.響く声

 もちろん、黒の気を散らすことができただけでこっちが勝ったわけじゃない。向こうからはわあわあという声が、地面を這うようにして響いてくる。

 当然こっちも、おとなしく出てくるのを待って……はいるんだけど、それなりの準備はしてるよ。もちろん。


「光の盾を槍部隊の先頭上部に展開!」

「兵士が出てくるぞ、弓用意! 騎士、剣部隊はそれぞれ合図があるまで待機せよ!」


 ラセンさんが魔術の手配を、アオイさんが兵士の手配を手早く済ませる。

 今の布陣は敵の突進止めるための槍部隊が一番前、その後ろに馬が並んでて、それから剣と弓の部隊。槍の先頭に光の盾を上からかぶせることで、向こうからの弓矢や魔術攻撃を防ぎやすくなるらしい。

 で、その後ろからこっちの弓矢をこう、放物線っていうのか上向けて撃って、遠距離攻撃ぶっかけるとのこと。騎士や剣が動くのは、その後だ。


「殿下」


 さて、まあ俺やカイルさんは王都の門の真正面とはいえ、距離としては一番遠いところにいる。んだが、さすがにどこから何が生えてくるか分かったもんじゃねえからな。

 ラセンさんもそれを分かってて、俺に話を振ってくる。


「殿下は陛下周りを光の盾で。近寄る者には、私が対しますので」

「お願いします」


 素直に指示に従って、光の盾を展開。近寄る者って……あー、そろそろ槍部隊と向こうから出てきた騎兵部隊がぶつかってら。上から行かないのは、矢とか魔術がほんとに雨みたく降ってるからだな、あれ。


「行けてるのかな」

「今のところは」

『こっちが押しとるぞ』


 カイルさんのひとりごとに、ラセンさんとせーちゃんが答える。そっか、今んとこ大丈夫なのか。

 今んとこ、な。

 シオンがおとなしくしてるわけ、ねえんだよ。




 ──怯むな、我がしもべたちよ。


 突然、まるで世界を全部包み込むようなぞくぞくとする声が、あたりに響いた。


「っ!?」

『わあん、こわいー!』

『たけだくん、しっかり!』


 一瞬パニック起こしかけたんだけど、それより先にタケダくんがわあんとか泣き出したんで正気に戻っちまったよ。ソーダくんごと胸元に抱え込んで、ともかく周囲に目をやる。多分、風の声使ってこっちに声届けてるんだけど。


「こちらこそ怯むな、脅しだ!」

「つーかやかましい!」


 白黒コンビが声を張り上げて、剣を振り上げたのがちらっと見えた。その勢いに飲まれて、こちらの兵士が戦を再開する。うん、向こうの兵士たちは何かえらくやる気出してるしな。


「魔女様!」

「黒の魔女様の、お言葉だぞ!」

「……やっぱシオンか」


 連中の張り切った声に、うげーと肩を落とす。それから、とりあえず光の盾をもういっぺん。いくら重ねても足りない、状況のような気がするし。

 そして、シオンは再び声を届けてきた。


 ──我らが神の降臨は、もう間もなくだ。そのためにその生命、心置きなく差し出すが良い。

 ──だが、その前に。太陽神などを信じこむ愚かな者共を、神の生贄にしろ!


「魔力どころか、生命まで搾り取る気か!」

「まあ、そんくらいやりそうですけどね、シオンのやつ」


 まあ、カイルさんが吠えるのも分かる。けど、何しろシオンなんでどこまでやらかすか、正直限度が見えないんだよな。

 つか、さすがに連続であんな声届けられちゃさすがにシロガネ側はビビるわけだ。俺も風の声を発動して、思い切り叫ぶ。


「皆、負けるな! シロガネには太陽神様と、コーリマの血を引くカイル王と、この白の魔女がついているんだから!」

「その通りですよ! 我らには太陽神様のお力を受けた、白きお使いもおられるのです! 負けてはなりません!」


 いやもう、ラセンさんと一緒に味方鼓舞するってのも大変だな。戦力としてはさすがにいまいちだしな、結局魔術師1人なわけだから。

 で、シロガネ軍のみんなも奮起してくれたけど、今の隙で黒の兵士たちがだいぶこっちに迫ってきてる。さすがに、俺たちも戦わないと。


『ほうれ、風の刃で刻まれよ!』

『ひかりのたて、れんぞくぱんちです!』


 せーちゃんがよいこらしょ、という感じで風の刃を放ち、敵を切り刻む。まだ腰抜けてるっぽいタケダくんの代わりに、ソーダくんが小さな光の盾を次々に繰り出して敵兵士をぶん殴っていく。

 カイルさんも風の刃で敵を斬っていたんだけど、不意にこっち見て叫んだ。


「ジョウ!」

「へ?」


 振り返った瞬間、忍びっぽい小柄な奴が飛び込んでくる。うわ、短刀振りかざしてるよ、えっ。

 そして、次の瞬間そいつは、横から突っ込んできた誰かに首根っこを蹴り飛ばされた。

 目の前に着地したのは、髪をうなじんとこでまとめた小柄な、女の子。


「お待たせした。間に合ったようで何よりだ」

「……ムラクモ!」


 にっと笑った彼女は、相変わらずの勢いで突っ込んでくるさっきの誰かの急所に、的確な一撃をくれてやった。

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