307.結界破壊
んで、5日ほど後に俺たちはコーリマ王都を包囲した。
いや、大公さんとこの部隊やスオウさんとこの部隊の再配置とか食料や武器の配給とか、あと王都の偵察とかでやっぱ時間がな。それで5日なんだから、早いんじゃないかなあと思う。素人考えだけど。
王都の背後は大きな湖で、そこを渡るような船はない。湖の中に浮かんでる島、そこにあるお墓に行くための小さな船はあるけれど、基本的にはこの湖ってあんまり船をつけられるような岸辺はないらしい。なので、そんなに大きな船もない。
だから、シロガネ軍は南側をメインにぐるっと王都を囲む形に配置された。基本は森の中を通る道で、もちろん森の中にも歩兵とか配置されてる。カサイの魔術師たちも、点々といるらしい。
「せーちゃん、どうだ?」
『おお、おお。懐かしい黒の神の気配をどっぷりと感じるわい』
んでまあ、俺たちはぶっちゃけ王都の門に向かう真正面の道につづく、広場にいる。前に来た時に、馬から降りたとこな。あの時は姉上がいきなり出てきて驚いたもんだけど、平和だったなあ。
そこで、せーちゃんに王都の気配を探ってもらったわけなんだけど……まあ、そういう答えが帰ってきたわけだ。マジかシオン、お前本気でわけ分からなくなってるな。
『だが、まだこちらには来ておらんようじゃのう』
「まだ、黒の神を呼び出せてはいないんですね?」
『うむ』
俺が、周りで見てる他の人にも分かるように言葉にして尋ねる。せーちゃんもその辺は理解してくれてるので、大きく頷いて答えてくれた。途端、周囲がざわつくのが分かる。まだ、大丈夫だから。
で、周囲を代表してハクヨウさんが、一言口にした。
「陛下」
「聞いてのとおりだ。黒の魔女はまだ、黒の神をこの世に呼び出すなどという大それた行いに成功してはいない。あれらを倒し、世の民に安心をもたらすのは今だ」
それにカイルさんは頷いて、周りの皆を見渡しながら言葉を紡ぐ。少々大げさかな、と思わなくもないけど、黒の神が出てきちまったらえらいことになるのは目に見えてるので、俺は何も言わない。
「こちらには神の使い魔たるセイリュウ殿とスザク殿。そして、白の魔女たる我が妻ジョウがいる。これで勝てなくば、世に未来はない」
だっ、俺の名前出しやがって。いや、まあ確かに俺、そういう立ち位置なんだけどさ。
まあ、ここまで来たらほんと、やるしかないからな。そう思って、せーちゃんの牙でできた杖を握りしめる。その目の前でカイルさんも、同じ牙から生まれた剣を鞘から抜いた。
「これが最後の戦、そう思え。勝っても負けても、ここが最後だ」
剣を掲げたカイルさんの言葉に、皆が一斉におおっと拳を振り上げる。気合だけで敵を倒せるわけではないけれど、でも気合がないと倒せないよな。うん。
皆が配置についたところで、ふと抜きっぱの剣に気がついてカイルさんは苦笑した。すぐ横にいる俺に、ちらっと目を向けてくる。
「最初、俺が斬るか?」
「ラータ以上に黒の気が出てきそうなんですが」
『かいるおにーちゃんがずんばらりんしたら、くろもくもくするよ?』
『せめて、まりょくでちらさないといけませんね』
俺の返事に重ねるように、タケダくんとソーダくんが口を開く。せーちゃんの通訳でその台詞を理解して、カイルさんは「そうか」と頷いた。
「ならば、ラセン。頼めるか」
「国王陛下、王妃殿下が出るまでもありませんわ。このくらいは、カサイにお任せくださいな」
頼まれたラセンさんは、待ってましたという感じでニッコリ微笑んだ。
カンダくんが身体を精一杯伸ばして、空に向かってしゃああと息を吐く。その息が白くなり、風になり、そのうちその風がばちばちっと光を帯びる。
と、森のあちこちから同じように、光を帯びた風が吹き上がった。……風の魔術に、雷の術を乗っけたもんだと思う。あーくそ、もっと勉強しないとなあ。こういう1人で重ねがけ系って、結構制御が大変なんだよ。
さすがは、カサイの魔術師だ。
「者共、放て!」
「きしゃああああああああああ!」
ラセンさんの凛とした声と同時に、カンダくんが首ごとその風を振り下ろす。森のあちこちから生えた風も、ほんの僅か遅れて振り下ろされて、王都を取り囲む結界に全力でぶつかった。
がきん、がきんとものすごい音がする。固い金属を、金属バットでぶん殴るような音だ。すっげえ耳障りだけど、これは王都の結界がそれだけ強いってことだろうな。
で、カサイの攻撃がこれでとどまるはずもなく。
「風の刃! 続けて光の盾!」
ラセンさんが、矢継ぎ早に魔術を繰り出す。カンダくんの風を援護するようにラセンさんの風が結界に切り込み、光の盾はあれだ、パンチ攻撃みたいな。
あちこちから同じように、いろんな魔術が叩きつけられる。そのうち、結界にぶつかってた音が少し変化して……具体的に言うと、ばき、べきと壊れていくような音になって。
そして、ガラスが砕けるようながしゃん、という音がした。
「風の舞! 黒の気を蹴散らせ!」
瞬間ラセンさんが放った強力な風、そしてカサイの魔術師たちが生み出した風によって、王都の内側から溢れ出してきた黒い霧はあっという間に散らされていく。
まずは、成功ってとこか。




