306.シオンの目的
カイルさんの肩の上で、せーちゃんがもそりと動いた。ちょっと困った顔、のような気がする顔でしゃあ、と息を吐く。
『……主』
「せーちゃん、どうした?」
『ワシよりも強力な存在が、無理やり魔力を吸ってるのかもしれんぞ』
口調はともかく、声も何か困ってる感じがする。と言っても、聞こえるのカイルさんと俺だけなんだけどな。目の前にいるスオウさんとネネさんには、せーちゃんの声は届いていない。
その証拠にネネさんが、こっちも困った顔をして首を傾げた。
「……陛下?」
「あ、ああ。すまん、通訳する」
慌ててカイルさんが、今せーちゃんが言ったことをそのまま伝える。理解してもらったところで、俺が素直に疑問を口にしてみた。
「神の使い魔より強力な存在って、いるんですか」
「そりゃお前、使い魔使う神様なら強いんじゃない……か」
あの、スオウさん。自分で言ってしまってからえー、って顔してどうするんだ。いや、確かに使い魔使う神様ならその使い魔より強いだろうけど。
でも、この世界で神様っつーたら太陽神さんと黒の神、くらいしかいない。少なくとも、今伝わっているのはその……えーと2柱? だけだ。
つまりそうなると、黒の魔女であるシオンが魔力集めてるその意味は……あ、俺もえーって顔になってそうだ。
「……あの、まさかシオンの目的て」
「黒の神をこの世界に?」
「できるんですか」
俺、スオウさん、ネネさん。いやまあ、各位何てーかマジかこれ、って考えになってしまうのはしょうがないというか、うん。
で、俺たちが視線を向けたのはカイルさん……の肩。つまり、せーちゃんである。黒の神のこと一番知ってそうなの、もと使い魔の彼だしなあ。
『んー、ワシらはこの世界に封印されただけじゃが、黒の神は出てこれんように神の世にふっ飛ばされたはず、じゃがの』
そのせーちゃんは、少し考えてからそんなことをお抜かしあそばされた。要するに、神様がいる別の世界にいるわけね。って、その前はつまり。
「出て来られないように神の世にふっ飛ばされたって、つまりそれまではこっちにいたってことじゃないですかー」
『ま、まあそうなるのう』
「……まあ、神の使い魔がこちらの世界にいるのだから、黒の神が過去にいたとしてもおかしくはないんだが」
カイルさんが冷や汗かきつつ、納得したように説明してくれた。あーまあそういうことだよなあ……マジでゲームか何かか、と思ったけどこれは現実だ、現実。
ひとまず落ち着いたところで、今度は4人揃ってうーんと考えこむことになった。正確には4人と1匹だけど……うちのタケダくんとソーダくんは、こういう時には頼りにならないのである。2匹ともまだ子供だし。
「神の世に吹き飛ばされたはず、なら戻ってこようとする可能性はありますよね。年末とか、ご先祖様が帰ってくるわけですし」
ネネさんの言うとおり、この世界では年末にはご先祖様がガチで戻ってくる。いや、俺は見たことないんだが。肉体はないけどまあ、ある程度は普通に生活できるらしい。そういう世界なんだから、しょうがねえし。
で、そのご先祖様たちは死んだ後、太陽神さんのところに行ってるそうだ。こっちに帰ってくるのには、太陽神さんのお使いという形で戻ってくる。
ま、そういった形でご先祖様が帰ってこられるんだから、やろうと思えば神様自身も帰ってこられるはず、というわけだな。
「そういえば、何で太陽神様はご先祖様にお使いお願いするんですか。まあ、自分で毎年出てきたら大変だろうと思うんですけど」
で、俺が疑問を提示すると他3名、あれっという顔になった。……あ、もしかしてこれ、昔からの習慣で理由知らないとかその辺か。
なら、昔からいたせーちゃんなら知ってるよな、と目を向けてみる。あ、頷いた。
『そもそもじゃ。神っつーもんを世界に引っ張り出すにはな、ワシらとは比べもんにならないほど大量の魔力が必要となるんじゃ。そして、それだけの魔力を制御できる力を持つ魔術師がな』
「なるほど」
やっぱり知ってた。カイルさんは分かるから、カヅキ夫妻に話を通訳する。と、スオウさんがおもいっきり顔をひきつらせた。
「……黒の魔女なら、やってのけんじゃないすか。それ」
「え」
「黒の魔女が大量に魔力をかき集めているのは、黒の神をこの世に引き戻すためか。それだけの力を、彼女が持っていると」
うえー。
いや、シオン前に会った時結構ぶっ壊れてたけど、何かどこまでもイッちゃってるってことか、あいつ。
馬鹿だろ。自分がえらい目にあったの、黒の信者たちのせいだろうが。それで何で、あいつらの喜ぶことをやろうとしてんだよ。
……そこまで、ぶっ壊れたのか。あの野郎。




