305.スオウの報告
翌朝……というか昼近くになって、スオウさんがツッツにやってきた。海岸沿いもだいたい片付いたようで、カイルさんと俺の顔見に来たんだろうな。
俺らの宿舎、という扱いになってる宿屋まで来てくれて、元気そうに笑いながら頭を下げてくれた。ちなみに副官、ということでネネさんも一緒である。こっちも相変わらずお元気そうだ。ただ2人とも、着けてる鎧が結構汚れてるんだよね。俺やカイルさんがあんまり前に出してもらえない事もあって綺麗なのと、えらい違いだ。
「国王陛下、王妃殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう……って、めんどくさい挨拶ですな。こりゃ」
「隊長、そのくらいはちゃんと言えるようになったんだねえ。ともかく、ここまではお二方共何事も無く」
スオウさんは、苦笑しながら大雑把にご挨拶。まあ、今まで上にいたのがあの大公さんじゃ、あんまりきっちりした挨拶しなくても良かっただろうしなあ。ネネさんもそこは分かってるようで、困ったように笑ってる。
「ああ、あまり堅苦しくなくて構わない。正式な場でもないからな」
「ですよねー。いや、助かります」
「うちの宿六が済みませんねえ。一応お作法なんかは仕込んであるはずなんですけど」
カイルさんが出した助け舟にスオウさんが乗ろうとして、ネネさんにひっくり返されたって感じ。何だろう、このくらいのおばちゃんってめちゃ強くないか。ネネさんだけかな。つか、爺婆じゃなくても夫婦漫才になるのな。比較対象、大公さん&アキラさんだけど。
で、スオウさんたち側の状況を説明してもらった。あんまり細かいところは分からないけれどまあ、スオウさん部隊は特に問題もなく港や海岸線を奪還できたようだ。
んで。
「ちょうど入ってきた船があったんで拿捕したんですがまあ、中がすごいことになってましてねえ」
「すごいこと?」
スオウさんの報告に、俺たちが首を傾げる。と、ネネさんがすっごく嫌そうな顔になって、考え考えしながら言葉を続けた。
「だいぶ昔にいっぺんだけ、『神のお下がり』を運ぶ船をとっ捕まえたことがあったんですよ。それとおんなじ感じで、暇な船員を部屋に連れ込んで時間関係なくサカってたようです。んだもんで、臭いが」
なるほど、言葉を選んでくれてんだなネネさん。つか、船か。そりゃ、港なんだから船くらい出入りするけどさ。
ていうか、船ってある意味閉鎖空間なんだよな。その中で時間関係なしにやってりゃ、そら臭いもこもるわ。うえー、キショい。
「鼻つまみつつ男は男、女は女に任せてそれぞれ船から放り出しました。別々の建物に軟禁して、覚めるの待つ感じですね」
「船なんですが、洗浄しても多分いろいろ取れないでしょうから、そのうち焼き払うことになりそうです。何度も使われてたみたいでもうね、ろくに掃除もできてないですよアレは」
スオウさん、そしてネネさんがぶっちゃけてくれる。あーうん、そういうことに使われた船じゃあもう使いたくないというか何というか、なあ。
戦終わったら、そっちにも俺行ったほうが良さそうだな。ひっぱたいていけば、少しはマシになるんじゃないだろうか、と思う。少しは、だけど。
さて、その船ってどこからやってきたんだろう。それをカイルさんも知りたくて、2人に尋ねる。
「で、どこからの船だった?」
「太陽神教総本山ですね。乗ってた中に、神官が何人かいましたから」
「そういえばえーと、キコウ神官長だったっけ? そう名乗るえらく高飛車なおばちゃんがいましたねえ。高飛車な割に、やってることは他の女と一緒でしたけど」
スオウさんが答えた後に、ネネさんが思い出したように口にした名前。
……キコウ、神官長?
「あれ?」
「もしかして、前の神官長か」
カイルさんもさすがに思い当たったらしく、俺を顔を見合わせた。
そーだ、あの『異邦人』とかイコンに友達いる人とかえらく差別してくれて、『龍の卵』に魔力吸わせてたあの人だ。
「やっぱ偉いさんですか。元は色っぽい美人だったんでしょうが、何かえらくやせてましてね。それでも頑張って男にしがみつこうとしてるあたりは、何というか……」
「その気になったんですか?」
「まさか。俺はネネがいいんですよ」
スオウさんの台詞に思わずツッコミ入れたら、惚気で返された。はいはい、年の功年の功。俺はまだまだあの域には辿りつけません。
なお、ネネさんはがっちりした感じかつおっぱいどん、である。太ももスキーにもおそらくは喜んでいただけるような体格だ。
対してキコウ神官長……前神官長、ってことになるけど。『龍の卵』から出てこられたとして、あれからだいぶ経ってる上に水も飯もなかったはずで……よく生きてたな。多分ガリガリにやせてんだろうな、とは思うけど。
つか、出てこられたのか。せーちゃんですら、自力で出て来られなかったあの結界から。
「ということは、『龍の卵』が停止してるってことになるな」
「大地の、魔力の流れが変わってるんですかね」
確かあのシステムって、大地から魔力吸い上げてせーちゃんに貯めこんで、そこからあの島のあちこちに魔力を送り出すためのバッテリーみたいな感じだったんだよな。で、結界もその魔力から作ってて。
神官長さんが出てこられたってことは、結界が機能してない。つまり、結界を作るためのの魔力が供給されなくなってるってことだろう、多分。
あの島、一体どうなってるんだろう?




