303.街中で再会
「闇の雨!」
俺の声に応じて、黒雲が雨を降らせる。もちろん、敵陣の上にだけだ。
それで動きを鈍らせた歩兵たちを狙って、ラセンさんが声を張り上げた。
「光の槍、参ります!」
距離が近いから、ザクザクと肉を突き刺す音やぐえ、ぐわっなんていう悲鳴どころじゃない声もこちらに届く。でも、耳をふさいでる余裕はない。
何しろ、うちの部隊の先頭に立っている姉上が、上げた右手を振り下ろしたからだ。
「今だ! 歩兵部隊、突入しろ!」
一斉に槍と盾を構えて突入するシロガネ国の軍部隊を前に、ツッツの街は半日ほどで陥落した。
「……ラータからツッツまで、3日かかるとは思わなかったな」
もともと宿屋の多い街なので、休む部屋の確保は簡単だった。ひとまず街中の確認をする兵士を除いて皆を休ませてから、カイルさんとアキラさんと一緒に大通りへ出る。いやもう真っ暗なんだけどね、一応魔術灯でそれなりに明るくしてるけど。
ここもラータと同じで、すっかり人影はなくなっていた。街路樹とかも何か枯れかけてるというか、葉っぱが茶色くなってくしゃくしゃになってたりしてる。多分これも、黒の気の影響なんだろうな。
で。
そのラータからツッツまで、前に来た時は確か半日ほどだったんだよね。カイルさんの馬に相乗りして、空をびゅーんと。いや、俺かなり目回してたからあんまり覚えてないけどね。
でも今回は、街道の途中でこう奇襲されたり奇襲されたり柵作って待ち構えられてたり、でさ。まあ、全部せーちゃんとかタケダくんとかイシダくんなんかが見つけてくれたんだけど。
その結果、下を歩いても1日くらいの距離を3日もかかってやっと到着したわけだ。あー、この間にシオン、絶対王都あたりで何か企んでるなあ。
「前に来た時は、上じゃったか?」
「はい。だから半日で来れたはずです」
空を見上げながら尋ねてきたアキラさんに、うんと頷く。今空を見たら、ちゃんと星は見える。……そういえばこっちって、星座とかあるんだろうか。考えたことねーなー。
「まあ、ツッツも街道の分岐点じゃからな。黒帝国としても、抑えておきたかろ」
「そうですね……」
まあ、アキラさんの言葉には俺も、カイルさんも納得するしかないよね。うん。
ばさばさばさ。
えらく勢いのいい羽ばたきの音がして、夜なのに何か明るいもんが飛んできた。……っておいおい、ホウオウチョウって自力発光できたっけ?
いやまあ、すーちゃんだから特別なんだろうけどな。カイルさんの肩からせーちゃんがひょい、と浮かび上がってお迎えに行ったし。
『おお、すーちゃん!』
『おー、せーちゃんか。相変わらず、そちらの主も元気そうじゃのー』
『当たり前じゃ、ワシが選んだ主なんじゃからのう』
うねうねぱたぱた。何だろうなあれ、まあ仲良いからいいけどさ。
で、すーちゃんが来たので俺の肩の上が騒がしくなる。まったく、タケダくんもソーダくんも人……じゃねえ、使い魔懐こいのはいいけどな。
『わーい、すーちゃんだー!』
『すざくさま、おげんきそうでなによりです』
『おお、タケダくんにソーダくん。そなたらも元気そうじゃのう、うんうん』
『これすーちゃん、ワシの頭を止まり木代わりにするでない』
ふわふわ空を飛べるせーちゃんの頭にちょこんと止まって、すーちゃんはうちの子たちと仲良くご挨拶である。文句つけてるせーちゃんも、その割にはタケダくんたちと高さ合わせてくれてるけどな。
で、俺の頭を一瞬よぎったことを、アキラさんががっつり言葉にしてくれた。曰く。
「……ムラクモ嬢ちゃんがおったら、地面ゴロゴロ転がっておることじゃろうのう」
「そう考えると、いなくてよかったかも知れません」
「いたら恥ずかしいことになってたな……」
いやもう、ムラクモの使い魔スキーレベルはとんでもないところまで行ってる、というのは俺たちの間では当然の常識になっちまってるんだよね。ごめんなあイカヅチさん、あんたの妹いろいろとんでもないわ。
ところで、すーちゃんが来てるってことは当然、その主も来てるわけで。
「おお、王妃殿下。お元気そうで何よりじゃな」
「あ、大公殿下……ん」
やっぱり、と歩み寄ってくる大公さんに答えてからあれ、と思った。
いやさ、お互いに殿下、殿下って何か変というかえーと……と考えてる間に、例によって幼なじみ同士の漫才がスタートしていた。
「おお、ヒョウちゃん」
「おー、アキラっちも一緒におったかい」
「うむ。しかし、そなたちゃんと生きとったの」
「アキラっちより先に、くたばってたまるかいな」
「こっちこそ、ヒョウちゃんの葬式出すまで死ねるかい」
……俺とカイルさんと使い魔全員が言葉もなくガン見してるのに、さていつ気づくんだろうね。このロリババアとショタジジイ。




