299.いやなものには光の盾
「敵騎兵、上から来ます! 光の盾、風の舞用意!」
黒い霧に気を取られてた俺は、ラセンさんの声にはっとした。そうだよ、この世界、馬飛べるんだよこんちくしょう。この前は向こうが下からだったけど、今度はこっちが下だ。単純に上から来られたら、怖いよな。
「は、はいっ!」
『たて、ぼくつくる!』
『かぜのまいは、わたしとじょうさまで!』
「うっしゃ!」
うちの子たち、この辺は実にしっかりしてるので助かる。俺も魔力チャージしつつ……ふと思った。いや、光の盾はたしかに重要だけどさ、風の舞でいいんじゃねえの?
「光の盾、要るんですかね?」
「向こうが、いろいろ物を落としてくる可能性があってな。それを受け止めて欲しいんだよ」
「あ」
カイルさんに言われてはっと気がついた。そっか、空飛べるなら昔の戦争みたいな空襲もできるわけか。
そういや、元の世界にいた時SNSか何かで見たことあるな。飛行機でいろんなもの落っことして攻撃するっての。確か便器持ってった写真、見たっけ。
……あれは中身入ってなかったはずだけど、中身入りのおまるとか降ってきたら洒落にならないな、了解。
なんてこと考え切らないうちに、再びラセンさんの声が聞こえた。
「先に風の舞を!」
「はい、風の舞!」
『かぜのまい!』
俺とソーダくん、他にもたくさんの魔術師たちが一斉に風を躍らせる。上の方でうわ、馬が兵士乗っけたままパニクってるよ。ま、そりゃそうだけど。
「光の盾、展開!」
『ひかりのたてー!』
「光の盾、広がれぃ!」
んで、タケダくんが光の盾を出したと同時にアキラさんが、同じ魔術をどーんと展開した。うん、ほんとにどーんって感じ。うちの軍の後ろ半分、しっかりカバーしてるもんよ。前はタケダくんとか、ラセンさんとかが張ってるから。
さすがはロリババア、年の功ってか。いや怒られるから口には出さないけど。
んで、その光の盾にバンバンバン、といろんな物がぶつかった。馬、兵士、槍、剣、盾、兜、桶、壺……んー?
「敵に汚物ぶっかけて、病を流行らせて戦力を削ぐというのも手段の1つじゃね」
「うげ、えげつねえ」
汚物って、つまりおまるの中身ですよねー。うげー。そういえばあの桶とか壺とか、何か中身入ってたような気がしたけど。中身って中身だよな、すなわち汚物。
『まま、たてどうしよう?』
「上に乗ってる奴ごと、向こうに押し戻してしまえ」
『はーい。よいしょー!』
そんなものは、丁重にお返ししてしまえ、うん。ま、ついでに塀の一部が壊れた気もするけど、気にすんな。チョウシチロウやビシャモンで怪獣大戦争になってたら、一部じゃすまねえし。
と、ソーダくんがはっと気がついたように息を吐いた。
『じょうさま、むこうからほのおがきます!』
「マジか」
げっと思ってラータに目をやると、ああ塀の上から魔術師っぽいのが何となく分かるわ。つか、あれか。炎で壁作って押し出してくる戦法か。
さすがにカイルさんも見えたみたいで、警告の声を張り上げた。
「炎魔術注意!」
『炎の壁を、風に乗せて飛ばしてくるつもりじゃね。ワシの風なら、たたっ斬れるかもの』
「……本当か? それはいい」
ちょっと待てせーちゃん、それはつまりあれか、カイルさんにもういっぺんバッサリやれと。いやまあ、それが一番楽なんだろうか。考えてる暇ねえな、すぐに炎の壁が押し寄せてくる。
「ジョウ、行くぞ」
「あ、はい」
ノリノリのカイルさんについ頷いて、魔力チャージを完了させる。カイルさんが剣を振り下ろすのと、俺が魔術を放つのとはほぼ同時、だった。
『風の刃!』
ずばーん、という感じで飛んでった2枚の風の刃は、こうバツ印っぽく炎の壁をぶった切ってその炎を、向こう側へと撒き散らした。マジすか。
「おお、結構行けるもんだな」
「のんきなこと言ってないで、次来ますよ」
そこ、感心してないで何とかしろ、と言うまでもなく普通に飛んできた矢を叩き落としてるんで、まあ大丈夫だろう。俺たちも、ちゃんとやることやらないとな。
『みずのたてー!』
『やみのあめ!』
「闇の雨、ゲリラ豪雨モード!」
つーか、俺自分の周りしか見てないけど、先頭じゃ兵士同士がガチでぶつかり合ってるんだよな。がんばれ、としか今の俺には言いようがなかった。うん。




